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編集部の黒電話の話

2018.01.21 (Sun)
じゃあお話しさせていただきます。去年のことです。
僕は大学を卒業して、ある出版社に入社したんです。わりと大手のほうですが、
名前は伏せてもかまいませんよね。3ヶ月の社内研修があって、
その後にファッション系の雑誌を作ってる編集部に配属になったんです。
ええ、その雑誌は学生時代からよく読んでて、あこがれてたので、
自分から希望してたんです。その希望が通ったんでラッキーだなと思ってました。
それで、その出版社は古い自社ビルがあるんですが、
僕が入った編集部は3階の右側のフロアを使ってるんです。
入ってすぐ、先輩にいろんなことを説明してもらいました。
まあ、パソコンのシステム関係のこととか、セキュリティのこと、
あと編集部内の勤務管理とかいろいろです。

でね、雑誌の編集ってすごいアナログな仕事なんですよ。もちろん、雑誌そのものは
編集ソフトで作りますし、昔と違って原稿はほとんどメールで送られてきます。
記事に使う写真なんかもパソコン内に保存されてますし、
そういう意味ではデジタル化は進んでるんですが、でも、最終的には手作業なんです。
だから、雑誌の締め切りが近づくとすごい忙しくなって、
何日も編集部に泊まりこむことになります。仮眠用のソファがいくつもありますよ。
そのかわり、忙しくないときは出社時間なんかも個人にまかされてて、
先輩方は昼頃に出社してきたりとかしてます。
あ、すみません。話がそれてしまって。それで、先輩の説明の最後にですね、
ロッカーと資料棚の間に置かれてる机に連れていかれたんです。
物が何にも置かれてない木製の机でしたが、その上に黒電話が一台だけあったんです。

あの、何十年前に使ってたダイヤル式の黒電話です。しかも、電話機の上に、
透明なプラスチックでできた箱が被せられてあったんです。
「これはなあ・・・」先輩は少し言葉を濁して、「ごくたまに、そうだな、年に数回だな。
 これに電話がかかってくることがあるんだ。そしたら、俺らがいる場合は
 俺らがとるから気にしないでいればいいが、もし一人のときだったら、
 このプラスチックのケースを持ち上げて受話器をとってくれ。
 で、いいか、こっからが重要なことだが、相手が出て何か言っても絶対 受け答えするな。
 絶対だぞ。そのままダイヤルで11を回すんだ。内線で、
 しかるべき部署につながることになってる。そこまでやったら、すぐ電話は切るんだ。
 いいか、わかったな」こんなふうに言われたんです。
先輩はさらに続けて、「どういうことか、理由を聞きたいだろうが、
 
 答えられない。とにかく今 言ったようにしてくれ。
 これは命にかかわる重要なことだって理解してくれればいい」って。
まあ、それは不思議には思いましたよ。ですけど、いつもくだけた調子の先輩が、
そのときは真顔だったんで、大切なことなんだろうとは思ってました。
で、それから少しずつ仕事を任せられるようになっていって、
3ヶ月くらいしたら、服飾メーカーの人と打ち合わせなんかもするようにりました。
仕事は面白かったですし、編集部に泊まり込むのも苦にはなりませんでした。
その間、黒電話は1回も鳴ることはなかったんです。
それでですね、もういっぱしの編集部員になったつもりでいた11月のことです。
まだ校了期間ではなかったんですが、少し面倒な記事を書いてまして、
さっき話した先輩とは別の、山根さんって先輩といっしょに、

夜の11時過ぎまで編集部に残ってたんです。夢中でパソコンを打ち込んでいると、
山根さんが声をかけてきて、「腹減ったからコンビニで夜食買ってくる。お前も行くか?」
って聞いてこられたんで、「いや、いいです」って答えました。
それで、山根さんは出ていって僕一人だけになりました。
でも、他の編集部には残っている人がいっぱいいましたし、
ビルの入口には朝まで警備員が詰めてますから、心細いなんてことはなかったんです。
で、仕事を続けていると、リリリリリリリリ という音が聞こえました。
これは、今の電話の呼び出し音とは明らかに違ってて、
「あ、あの黒電話じゃないか!」ってすぐに思いました。
立ってそちらに向かうと、やはり電話が鳴ってました。先輩に言われたことを思い出し、
プラスチックのケースをよせ、受話器を取ったんです。

ジジジという雑音のような音が聞こえました。そして少しの沈黙があり、
「・・・須田の家内です。須田はおりますでしょうか」という、
年配と思える女性の声が聞こえました。それが、なんとも言いようがない、
暗く沈んだ声だったんです。内線を回さなきゃ、たしか11だったよな。
そのときです、何も話すなと先輩に言われてたんですが、ついうっかり、
「ちょっとお待・・・」までの言葉が口をついて出てしまったんです。
そこで気がついて声を飲み込み、1のダイヤルを二度回してから電話を切りました。
そしてプラケースを戻そうとしたとき、背筋をぞくぞくっとするものが走ったんです。
「暗い」と思いました。蛍光灯はすべてついていましたが、
すごく暗く感じたんです。自分の机に戻ろうとして、もう一度黒電話の机を見たら、
真っ黒い煙のようなものが、机の前にあったんです。

煙はもやもやと渦巻きながらだんだん濃くなって、
人の形になっていくように見えました。「え?」
それから目が離せなくなてしまいました。煙はもう真っ黒い人にしか見えなくなって、
立った状態だったのが、ゆっくりとうずくまり、床に倒れました。
そして転がりだしたんです。のたうち回っていると言えばいいか。
でも、激しくもがいてるように見えるのに、音はしませんでした。
僕は怖くなって後ずさりし、よろよろと自分の机に座りました。
すると、パソコンのキーがカカカカとひとりでに音を立てました。「ええ?」
デイスプレイに「心臓」という言葉が出てたんです。
そのとき、刺すように胸全体が痛くなりました。同時に息が苦しくなったんです。
僕は大きく口を開けて息を吸いましたが、もう座っていられませんでした。

胸を押さえて床を転がりましたが、そのとき、ああ、さっき見た黒い影と同じだ、
って思ったんです。 「おい、どうした!?」山根さんの大声が聞こえましたが、
覚えてるのはそこまでです。次に気がついたときには病院のベッドにいました。
ええ、救急車で搬送され、気を失っている間にカテーテル治療というのを受けたんです。
急な狭心症、心筋梗塞の一歩手前ということでしたが、
それなのに心臓の動脈には硬化などの症状は見られなかったということで、
これは担当の医師の先生方はみな不思議がっていましたね。
病院には、編集局長はじめ編集部の先輩が見舞いに来てくれたんですが、
誰も黒電話のことは口に出しませんでしたので、
僕も何も言いませんでした。でも、こうなったのはあの電話のせいで、
それも僕が受け答えしてしまったためだってことはわかってました。

入院は3日ほどで済みましたが、編集局長から「しばらく休んでいいから」と言われ、
1週間後に出社したんです。ええ、あの黒電話はそのままありました。
ただ、それまで作りかけだった雑誌の内容がすべて消えてしまったということで、
大急ぎで作業をやり直している最中でした。パソコンのシステムが落ちて、
データがみな消えてしまってたんです。バックアップはあったんですが、
それもダメで・・・これも自分のせいなんだろうと思いましたが、
文句を言う先輩はいませんでした。ですけど、しばらく身の置き所がなかったですよ。
あと、床や机の上に細かい白い粉が落ちていました。
物をよせて拭き取った跡もあったんですが、取りきれないで残ってたみたいです。
はい、その白い粉が何なのかもわかりません。ただ・・・あの黒電話はホントにヤバイ、
触れてはいけないものだったんだってことはよくわかりました。

話はだいたいこれで終わりです。もちろん何があったかってことは、
自分でこっそり調べましたよ。ネット社会ですからね。検索すればいろいろ出てきます。
かつて会社で、20年以上前に須田って人が仕事中に亡くなってるみたいでした。
そのときは、今 自分がいる雑誌の編集部ではなかったみたいですけど。
で、過労死かどうかで裁判になってたみたいなんですが、
その最中に残された須田さんの奥さんも亡くなってて・・・
これは自殺なのかもしれませんが、そこまではわかりませんでした。
それで、あの電話ですね。もしかしたら須田さんの奥さんからかかってきたもの
じゃないかって思うんです。あれ、たぶん死者の声だったんですよ。
なんで黒電話がそのまま残されてるのかもわからないですけど、
おそらく撤去できないんじゃないかと思います。ええ、こんな話なんですよ。





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