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幸運の壺の話

2018.01.24 (Wed)
大学の経済学部の3年生です。これ、オレの話じゃなくて、
友人の山口ってやつに起きた出来事なんですよ。まあ、聞いてください。
それでね、もう大学も3年目になるんですけど、オレ、あんまカッコよくないでしょ。
うちの大学は女子学生もけっこういるのに、全然モテないんですよ。
いつまでたっても彼女ができなくて。いやまあ、それはいいんですけどね。
で、友人の山口も同んなじで、すごい背が低くてやっぱモテない。
だからしょうがなく、いつも2人でつるんで行動してました。
ゲームやったり、酒飲んだりですね。いや、金もないんですよ。
だから店に行くなんてこともなくて、お互いの部屋を行き来して焼酎を飲むとかです。
そんな感じで、2週間ほど前、オレが夜に山口のアパートに行ったんですよ。
そしたらドアを開けてすぐの靴だなの上に、見慣れない金ピカの壺があったんです。

そうですね、高さが40cmくらいですかね。
陶器じゃなく金属製でした。それがすごい安っぽい光を放ってまして、
趣味の悪いしろものだったんです。山口は床に寝っ転がってポテチ食ってましたから、
「お前、何だよこの壺」って聞いたんです。そしたら、
「ああ、それ、こないだ朝市いったら骨董屋が店出してて、そこで買った」って。
朝市ってのは、オレらのいる地区の運動公園にテント張って定期的に開かれてるやつで、
野菜なんかが安いんで、オレも山口もよく利用してたんですが、
ときどき骨董屋や古本屋が出たりもしてたんです。
「えー、お前、こんなの見るからにニセモノじゃないか。バッカじゃねえか。
 いくら払ったんだよ?」まあ当然、そう聞きますよね。
山口はニヤニヤ笑って「それがなあ、いくらだと思う?」

「知らんよ」 「1円だよ、1円。しかも、この壺を買ったら箱いっぱいの野菜、
 大根とかジャガイモをただでくれるって言われたんだ」
こりゃ聞き捨てならんと思いました。そんなだったらオレも買いたいし。
「へええ、そりゃすげえ。どんな人が店出してたんだ?」
「それがな、今まで見たことない、なんか品のある爺さんだったな。黒のスーツ着て、
 白いヒゲを伸ばした」 「ふーん」
「そこの店の前を通りかかったら呼び止められて、兄さん、
 1円でいいからこの壺変わんかね、野菜たくさんつけるからって言われて」
「それも妙な話だなあ」でね、壺を手にとってみたんです。そしたら案の定軽くて、
 ブリキかなんかだろうって思いました。山口は、
「それな、爺さんが言うには「幸運の壺」なんだそうだ。

 壺の底に少しだけ水を入れて、出入り口のとこに飾っておくと、
 次々に幸運が舞い込んでくるって」 「信じたのか?」 
「まさか、でも1円なんてタダみたいなもんじゃないか。野菜もらえるんだし」
「でもけっこう大きいし、ジャマくさいだろ。燃えないゴミに出したらどうだ」
「それがな、爺さんは、捨てるのだけは絶対にしないって約束してくれって言ったんだよ」
「それ守ってるわけか?」 「まあな、そんなジャマでもないし」
「水入れてみたのか?」 「いや、まだだ」 「じゃあオレがやってやるよ」
てことで、壺を抱えて流しに持ってって、水道の下に置いて蛇口をひねりました。
「もういいかな」持ち上げてみたら重くなってないし、のぞき込んでも水が溜まってるように
見えなかったんです。「あれ、変だな」でも、底を見ても漏れてるわけでもない。
それでね、かなりの量の水を入れたと思うんですけど、

やっと底に水が溜まるまで長い時間がかかりました。「変だな、これ」
で、その夜は酒飲んでテレビ見て終わりました。それから2日たった午後に、
山口と大学で会ったんです。そしたらね、ピカピカの新品の革ジャン着てたんです。
まあ似合いませんでしたけど。「お前、それすげえな、いくらしたんだよ?」
聞いたら「17万」って答えが返ってきて仰天しました。「よくそんな金が・・・」
「いや、パチンコで大勝ちしたんだよ。1日中出っぱなし。ほら、部屋に壺あったろ、
 お前が水入れたやつ。爺さんに言われてたんだ。壺の中に片手を入れて、
 何回も握るような動作をすると、幸運が舞い込んでくるって。
 だからパチンコ行く前にそれやってみたんだ」 「・・・いや、たまたまだろ」
「まあそうだと思うが、これからもやってみるよ。あれで勝てるんならいくらでもやる」
でね、山口のやつ、それからずっとパチンコ勝ち続けたんですよ。

部屋に行くたびに物が増えてました。オーディオセットとか、コーヒーメイカーとか、
あと服も。さすがにね、ちょっとは幸運の壺の話も信じたくなりますよね。
だから、オレにも壺に手を入れるのやらしてくれないかって言ったんです。そしたら、
「いいけど、オレ以外のやつは効果ないかも。壺売った爺さんが言ってたんだよ。
 あなたは1円のお金を払ったから幸運がきますけど、他の人にはダメですからって」
でもね、強引にやらせてもらいました。で、壺に手を入れたときにゾクッとしたんです。
うーん、冷たいっていうか、あの感覚はなんなのか。変なたとえですけど、
孤独の宇宙に手を突っ込んだ、そんな感じがしたんです。あ、パチンコはダメでした。
大負けしました。でね、「宝くじ買ってみたらどうだ?」って言ったんです。
「当たったらオレにも分けてくれよ。それならいいだろ」そしたら、
「ロト6、もう買ってある」って。で、その週の抽選で30万が当たったんです。

オレは10万分けてもらいました、で、どんどん山口は裕福になってって、
部屋まで引っ越したんです。家賃15万のツインルームに。
でね、山口は「この壺を持ってるかぎり働く必要はないから就職活動はしない。
 あとオレに必要なのは女だ。明日○○を食事に誘ってみる」って言いまして。
この○○ってのは他の学部なんだけど、ミス大学になった超美人で、
モデルとして雑誌の表紙にまでなってる子なんです。もちろんオレも山口も
1度も口なんてきいたことないですよ。高値の花もいいとこです。でねえ、
さすがにそれは無理だろうと思ったんです。だってねえ、金はともかく、
人の心じゃないですか。それがそんなに簡単に・・・
ええ、結果から言うとやっぱダメでした。山口は衆人環視の中で、
手ひどく振られたみたいでした、学内で噂になるほど。

その後山口は2日ほど大学に出てこなかったんで、心配になって部屋に行ってみました。
新しい部屋は、大学生でには絶対住めないような豪華なところで、
入っていくと、トロンとした目をして椅子に座ってましたね。で、オレの顔を見ると、
「オレが間違ってた・・・」って言うんです。「だろ、いくら壺がすげえたって、
 そんなに簡単に女なんてできないから。ましてあんな美人」
すると山口は「違う!」って叫んで「オレに女を見る目がなかったんだ。
 あんなのはちっともいい女じゃない。あんな女、
 足元にもおよばない超絶美女が近くにいたんだ」こんなふうに続けたんですよ。
「どこに?」オレが聞くと、「あの中」って、玄関近くにある壺を指差しまして。
「さっきな、壺に手を入れたら握り返された。んで驚いて手を引っ込めて
 中をのぞいたら、すげえ超超超超超美人がいたんだよ。

 話もした。でな、壺からは出られないから、あなたのほうから来てほしい、
 って言われてな。だから今から行くんだ!」そう叫んで立ち上がり、
オレの見てる前で壺に手を突っ込んだんです。・・・こっからのこと、
信じてもらえますかねえ。山口の突っ込んだ手がぐんと肩まで落ち、
頭が細くなって壺の口に吸い込まれ、体もね、まるで紙を丸めるみたいにして、
棒状になって壺の中に落ち込んだんです。驚きましたが、あわててかけ寄って、
壺の中をのぞき込んでも、黒々とした空間がありるばかりで。
直径15cmほどの壺の口に「おーい」って呼びかけてみました。
そしたらオレの声が反響して、おーい、おーい、おーい・・・
で、それが治まった後、壺の中から「うふふふ」って女の笑い声が聞こえたんですよ。
それで山口は行方不明になっちゃいました。これマズイですよね。

だって、壺に中に吸い込まれたっても、誰も信じちゃくれないじゃないですか。
それからね、壺の中に手を入れたり、耳をあてたりいろいろやっても何の反応もなし。
流しで逆さにひっくり返すと、黒い泥水が少しだけ出てきました。
でね、さんざん考えた末に、その壺を抱えて朝市に行ったんです。
もし山口が言ってた売り主の爺さんがいたら、事情を話してどうすればいいか
聞こうと思って。それで、会場をうろうろしてると、爺さんがいたんですよ。
隅のほうで野菜と骨董の店をやってました。で、オレの抱えてる壺を見るなり、
「はああ、その壺で困っておる、違うかね」って聞いてきたんで、
かいつまんで事情を話しました。すると爺さんは「うーむ、壺の中に入った。
 それは容易ならんの。しかたない、わしが壺を買い戻してもよいが。ただ、
 売った人の金でないとダメだしのう」

「は、どういうことです?」 「山口君とやらの金じゃないといかんのだよ」
でね、そのときにまだ、前に山口にもらった10万円のうち少し残ってたんです。
「あります、山口の金なら持ってますから」 「じゃ、2円で買おう」
てことで、1000円出して998円の釣りをもらい、壺を引き渡しました。爺さんは、
「また戻ってきたか、しょうがない。叱っておくから、山口君はそのうち見つかろう」
半信半疑で部屋に戻りました。それから1日おいて、山口が見つかったんです。
それが大学構内にある排水口の中ですよ。全身泥だらけでずぶ濡れ、
手に真っ黒なワラ束みたいなのを抱えて這い出してきたんだそうです。
今、入院しててまだ正気には戻りません。とりとめのないうわ言を言うばかりですが、
精神科の医師の話では、少しずつ回復はしてきているそうです。
その爺さんですか? それから1度だけ朝市には行きましたが見かけてないです。







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