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古本屋のバイトの話

2018.01.31 (Wed)
俺、大学生ですけど、去年の夏休みに短期間、古本屋のバイトをやったんですよ。
といっても、雇い主は親戚のオジサンなんですけどね。
2週間、どうしても外国へ行かなきゃならない用事があるから、
その間だけ店を見てくれって、俺の親父を通じて話が来たんです、
バイト料は30万、これって破格でしょ。1日あたり2万以上って計算になります。
ただ、住み込みで頼むって言われたので、ずっと店にいなくちゃなんなかったです。
オジサンの店は都内でも郊外のほうにあって、築70年にもなる古びた建物でした。
電車を乗り継いで訪ねていくと、珍しくスーツを着たオジサンが待ってて、
「いや、久しぶり。大きくなったな。せっかくの夏休みのところ悪いんだが、
 シリアで貴重な本が発見されたんで、買い付けにいかなくちゃならん。
 向こうでやるオークションに参加するんだ」

「親父に言われてきたんですけど、俺、店番しかできませんよ。
 本のことはまるでわからないんで、買い取りなんてできないです」
「それはいいんだ。本を売るお客さんが来たら、店主は不在だからできません、
 って言ってくれればいい。それに、ここは特殊なものをあつかう店だから、
 本を売るほうのお客さんはまず来ない」
ええ、オジサンの店はマンガや文庫本なんかは置いてなかったんです。
神道に関する分厚い専門書がほとんどで、あとは古文書っていうんですか。
俺なんかには読めない字で書かれた和綴じの本が、
鍵のかかるガラスのケースに数十冊、陳列されてました。
オジサンは「じつは買うほうの客もめったに来ないだろうと思う。
 うちは一般の本は置いてないし、特別な本は、集めてる人の間で、

 どこそこの店に入ったって情報がすぐに回るから」こんなことを言い、
続けて「あとな、住み込みのほうだが、奥の部屋の押し入れに布団が入ってるから、
 それを出して寝てくれ。食いもんは台所の冷蔵庫に大量に買ってあるが、
 自分で弁当を買ってきたりしてもかまわんし。ただ店は、朝の8時から夕方5時まで
 開いててくれ。それから夜もずっと店に詰めててくれな。
 それと、これは大事なことなんだが、赤い着物を着たお客さんがもし来たら、
 必ず携帯に連絡を入れくれ」それで、オジサンと携帯の番号を交換しました。
あと、この他にも細かい指示をいろいろ受けました。
オジサンは、俺に店の鍵と前金の10万円を渡し、空港に向かったんです。
で、翌日、朝の7時半に店に着いて鍵を開けました。一歩中に入ると、
古い本の臭いでむせそうになりました。

なんていうかな、古い紙とホコリの臭いですよ。
前の日に来たときはそれほどでもなかったんですが、そのときは強く感じました。
カーテンを開けて電気をつけ、店の奥のカウンターに座りました。
それからは・・・退屈との闘いでしたね。
なにしろお客さんなんて来ないんです。ただひらすら座ってるだけ。
奥の部屋にはテレビはありましたが、8時から5時までは店にいなくちゃなんないし、
読書しようと思っても、店の中には俺が読めそうな本なんてなかったんです。
そんな具合で、午前中はお客さんは一人もなし。午後になって、
大学の教授みたいな雰囲気の男性が1人来て、3冊揃いの全集を買っていきました。
はい、値段は裏表紙のところに貼った紙に書いてました。
それが40万円だったんですよ。ああ、こういう商売なら、

俺に30万円のバイト料を払っても割に合うんだろうなって思いました。
結局、その日のお客さんはそれだけだったんです。
5時になったんで店の鍵を閉めてカーテンをひき、奥の部屋に入りました。
冷蔵庫から大量に入ってる缶ビールを3本出し、それ飲みながら、
昼に買ってきた弁当を食ってテレビを見て10時ころに寝ました。
でね、いつもはそんなに早寝することはないんで、夜中に目を覚ましたんです。
時計を見たら2時過ぎで、もう一本ビールを飲んで寝なおそうと思って
取りに起きたら、店のほうでパチン、パチンって音がしたんです。
うーん、プラスチックの下敷きに輪ゴムを弾くような音です。
気になったんで店に下りてったら、稀覯本を入れてあるガラスケースの中が、
ぼうっと光ってたんです。黄色い柔らかな光でしたね。

で、近寄って見ると、ケースの中に開いて展示してある本の一冊が、
ひとりでにページがめくれてたんです。不思議な光景でしたよ。
柔らかい和紙の本なのに、ページが開くたびにパチン、パチンって乾いた音がして、
その本から、じわっとにじみ出すようにして光が出てたんです。
いや、怖くはなかったです。前もってオジサンから言われてたんです。
「ここにある本はみな古いものだし、内容も古神道の秘密を書いたものが多い。
 だから店に泊まり込んでいる間に不思議なこともあるかもしれない。
 でも、古い本はそういうもんだから、気にしなくていい」って。
でね、なんか魅了されたようになって、10分ほどもそれを見てたんです。
そしたら、挿絵の入ってるところでページがめくれるのが止まって、
絵に描かれてる神主のような人物が、本からむくっと起き上がったんです。

これはさすがに驚きました。その身長10cmに満たない神主は、
ガラスケースの本の上で俺のほうに向いて正座すると、深々とお辞儀をしたんです。
俺もあわててお辞儀を返しました。そしたらそこで本から出てた光が消え、
店の中が真っ暗になったんで、俺は奥の部屋に戻ったんです。
不思議なことは他にもありましたよ。夜中に店の中が青白くチカチカ光ってたんで、
行ってみると、そこらじゅうで字が乱舞してたんです。ええ、変体仮名っていうんですか、
俺の読めない字が何百、何千も、青く光りながら飛び回っていたんです。
あと、本の間から朗々とした祝詞が聞こえてくることもありましたね。
そんな具合で毎日が過ぎていきました。お客さんはずっと1日数人程度で、
トラブルが起きたりはなかったんですけど・・・
もうあと2日でバイトの期間が終わるって日の午後ですね。

ぼうっと店番をしてると、いつの間にか、すぐ近くに女の人が立ってたんです。
表の引き戸が開く音なんてしなかったのにです。
血の色を連想させる鮮やかな赤の着物を着てました。ええ、それが、
すぐ近くで見たはずなのに、顔を覚えてないんですよ。
日本髪だったことしか記憶がないです。その女の人は俺に向かって、
「○○△△の本がこちらにあると聞いたのですが、ゆずっていただけませぬか」
こんな内容のことを言いました。いや、難しい名前の本だったんで覚えてないです。
でね、あ、これがオジサンに注意されてた赤い着物の女かって気がつきました。
それで「ちょっとお待ち下さい」って言って奥に引っ込んで、
オジサンの携帯に連絡したんです。長い呼び出しの後にオジサンが出たんで、
「赤い着物の女が来て本を売ってくれって言ってます。どうすればいいですか」

って聞きました。オジサンは「・・・そうか、また来たか。じゃあな、
 奥の部屋の神棚に桐の箱が上がってるから、それを女に渡せ。
 たぶんそれで帰るはずだ」神棚に行ってみると、平べったい大きな箱があり、
 持つとかなりの重さだったんです。それを店に持っていき、女の人に、
「店主がこれをお渡ししろと申してます」と差し出しました。
女の人は、カウンターの上で箱にかかった紐をほどいて蓋を開け、
そしたら中から大きな鏡が出てきました。あのほら、古墳時代にあるような昔の鏡です。
ただ、錆びたりはしてなくて金色に輝いてました。女の人は「これはなんと?」
と言いながら両手で鏡を持ち上げ、自分の顔を写すように掲げて・・・
「ギャオ~~~~~~~ッ」て吠えたんです。吠えるとしか言いようがない声でした。
その瞬間、ドロっと女の姿が溶けました。赤黒い泥になってしたたり落ちるみたいに。

で、持ってた鏡が床に落ちてバリンって砕けたんですよ。
俺は呆然としてましたが、まだ携帯はつながってたんでオジサンに報告すると、
「ああ、そうか撃退できたか。よかった。もうすぐ日本に戻るからよろしく頼む」
それから変わったことはなく、オジサンはかなり日に焼けて戻ってきました。
店の鍵を返して、残りのバイト料の20万をもらったんです。
「ご苦労だったね。客は少なかったろうが、いろいろあっただろう」
こう言われたんで「あの赤い着物の女は何だったんですか」と聞き返しました。
「あれは・・・まあ、本のコレクターだな。危険な本というのはけっこうたくさんあって、
 それが何冊か揃うと、日本に災いが起きたりもするんだ。今回は鏡一枚で済んだが、
 もう通用しないだろうから、別の手を考えないといかんな」 まあこんな話なんです。
いや、世の中には不思議な世界があるもんだと思いましたよ。







 

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