雪の足跡の話

2018.02.02 (Fri)
ついこないだの土曜のことです。俺、大学生で、仲間の部屋でマージャンしてたんです。
それが夜中の1時ころにいったん中断して、外に飯食いに出ようってなって。
そんな時間だから、向かったのは郊外にある24時間営業のファミレスです。
軽だけど、車で来てたやつがいたんで、それに4人乗って。
でね、このところすごい寒波だったでしょ。
そんなに降る地方じゃないんだけど、外は薄っすらと雪が積もって冷えてたんです。
「何だよこの車、ちっともあったまらないぞ」
「ちゃんとタイヤ替えてるんだろうな」こんな話をしながら山を抜ける国道に出ました。
すれちがったのは長距離トラック1台だけでしたね。
でね、真っ白になった道を走ってると、急に運転してたやつが、
「ああっ!」と言って急ブレーキをかけたんです。

車はスピンとかすることもなく止まりました。「何だよ?」 「どうした?」
「いや、今、動物が飛び出してきて、轢いたと思う」
「動物? 冬だから動物とかいないだろ」 「いやでも、黒い影が道路脇から出てきて、
 あたった衝撃も感じた」 「えー、何もなかったぞ」
車を道路脇の街灯によせて停めました。で、運転してるやつが懐中電灯持って
降りてったんで、俺らも後に続いたんです。そいつは車の前部を照らしてましたが、
「ほら、ここ、へこんでる。うわ。血もついてる」見ると、
たしかにそうなってたんです。へこみは、ボロ車だから前からあったかもしれないけど、
右のタイヤの上のバンパーの色が変わってるのがわかりました。
でね、みなで後ろを振り返ってみたんですが、動物の死体が道路に落ちてる
とかはなかったです。脇の雪の中に飛ばされたんだろうって思いました。

でね、また車に乗り込んで、走り出したすぐのところに鳥居が見えたんです。
「あれ、こんなとこに神社あったか?」 「記憶ないな。それよりここ、
 飯食った帰りに寄らないか。お前らどうせ初詣とかしてないだろ」
「ああ、行ってない」 「俺は帰省した田舎で行った」 
それから10分ほどでファミレスに着きました。俺ら以外の客はいなかったです。
いちおう運転してるやつがいるんで、誰も酒は飲まなかったですよ。
マージャンで勝ってたやつにおごらせたりして、
3時前にはファミレスを出ました。そしたら、来るときは降ってなかったんですが、
ちらちら雪が降りだしてました。「さっきの神社、ほんとに行くのか?」
「行こうぜ、どうせ明日も休みなんだし」 「こんな時間、神社は開いてないだろ」
「まあいいじゃね」ってことで、道路脇に車を停めて、鳥居をくぐってたんです。

20mほどの参道は除雪してました。予想どおり神社の戸は閉まったんで、
鈴を鳴らし、外にある賽銭箱にそれぞれ10円玉を投げ込んで、
みなでお祈りらしい格好をしました。「何、願ったんだよ」
「マージャンの勝ちに決まってるだろ」 「戻ったら続きやるのか」
「あたり前だろ」 「朝までだな」こんな話をしながら車に戻ろうとしたとき、
「うん?」って一人が言って、参道を脇に外れてったんです。
「おい、どした?」 「ん、いや何か光った」 「何が?」
そこにはけっこう大きな木造の小屋みたいなのがあって、
外に面したほうに金網が張られてました。運転してたやつが懐中電灯を持ってたんで、
中を照らすと、木でできた馬の像があったんです。
「ああこれ、奉納された馬だな」 「俺の実家の近所の神社にもある。

 昔は本物の馬を奉納してたのが木の像にかわって、さらに絵馬になったんだろ」
「光るものなんて何もないぞ」 「おっかしいなあ。さっき、
 青白い光が2つ見えた気がしたんだが。ちょうどこの馬の顔のあたりに」
「気のせいだろ。寒いから早く車に戻ろうぜ」こんな会話をしてまた走り出しました。
もちろん俺ら以外に走ってる車はなし。でね、10分くらい走って、
そろそろ街の明かりが見えてくるかってところで、ドーンとすごい衝撃があったんです。
俺、そんとき、運悪く助手席に乗ってたんですよ。
運転席のエアバッグは開いたんだけど、古い車だったんで助手席にはついてなくて、
俺は前のほうにしたたか頭をぶつけ、一瞬気が遠くなりかけました。
運転してたやつは、エアバッグに頭をうずめてましたが、
頭上げてこっち見て、「おい、大丈夫か?」って聞いてきたんです。

額とひざがしらが痛かったんですが、大きなケガはない気がしたんで、
「ああ、何とか」そう言って後ろを見ました。後部席の2人も、
呆然とした顔はしてましたが、特に大ケガはしてないようでした。
「いでででで」 「何だよ、何にぶつかった?」でもね、俺、見てたんですけど、
車は普通に走ってて、ぶつかるものなんてなかったんです。
そんときです。「ガズン、ガズン」ってフロントガラスの上で大きな音がして、
車体がグラグラ揺れたんです。「あ、何だ?」
ボンネットの上に何かが乗ってる感じがしたんですが、
チラチラ降る雪しか見えませんでした。「ガン、ガン、ガン、ガン」
今度は屋根の上で音がしました。「外へ出よう」誰かが言って、
そんとき車は道の真ん中で止まってたんですが、4人ともドアを開けて外に出ました。

降りてみると、車の右前方、運転席の前がかなりひしゃげてました。
でね、「ガツ、ガツ」って音がいっそう大きく聞こえたんです。
やはり車の屋根のほうからです。エンジンが停まってるのに、
音がするたびに車がグラグラ動いてました。いや、何も見えないんですよ。
でもたしかに、車の上に大きな物が乗ってるのがわかりました。
「何だ?」 「見えない物がいる!」一人がスマホを出しました。
警察にかけようとしたんだと思いますが、ザンと地面が鳴って、
車の上の物が雪の上に飛び降りたと思ったんです。他のやつらもそう感じたらしく、
一人が「あ、あれ」って雪の上を指差したんです。
ええ、足跡がついてました。人間じゃなくて動物のかなり大きな。
二つに分かれたヒズメの跡で、今になって考えると鹿なんじゃないかと思います。

「フー、フー」という音も聞こえてきました。これ、たぶん鼻音です。
で、スマホを持ってたやつの手が上に弾かれ、スマホが宙を飛んだんです。
「あだっ!」そいつは肘を押さえてうずくまりました。
俺ら4人はそいつのまわりに固まるように集まって・・・
ヒタ、ヒタ、ザッ、ザッって、四方から音がしてきました。
いや、何も見えないんですが、一人が「おい、あれ!」下の雪を指差したんです。
息をのみました。街灯のある場所からは離れてましたが、雪あかりで見えたんです。
俺ら、無数の足跡で囲まれてたんですよ。大きいのも小さいのもありましたが、
それ全部、動物の足跡だと思いました。ただ、動物だとしたら鳴いたりするはずなのに、
声は聞こえなかったです。鼻息と、獣の臭いと、あと、強い気配とです。
それに俺らは囲まれて、どうすることもできませんでした。

足跡は、俺らから2mばかり離れたところまでで、それ以上は近づいてきませんでした。
ただ、俺らのうちの誰かが、スキをみて車に戻ろうとしたり、
電話をかけよとすると、そのときには、見えない獣の中の大きいやつが体当りして、
押し戻してきたんです。そうしてるうちに20分くらいが過ぎました。
時間は4時ころで、通りかかる車もなし。でね、俺が、
「何だかわからないけど、俺らに対して怒ってるんだ。おい、とにかく謝ろう!」
って叫びました。で、囲んでる動物たちのほうに土下座したんです。
残りの3人もすぐに真似しました。四方に向いて「ごめんなさい、ごめんなさい」
「申しわけありませんでした!」 「許してください、お願いです、許してください」
とにかく全員が思い思いの言葉でひたすら謝り続けて・・・
それが通じたのか、ふっ、ふっと、一つずつ気配が消えていく気がしました。

30分近くも謝ってたでしょうか。雪に座った膝のあたりの感覚がなくなってきたとき、
すべての気配が消えたように感じました。遠くからヘッドライトの光が見えてきました。
中型のトラックが来て急ブレーキをかけ、道の真ん中で止まってた俺らの車の
ギリギリのところまで来て停止しました。ややあって、トラックの運転手が出てきて、
「何だ、兄ちゃんたち、事故かあ?」って聞いてきて、
それで助かったってわかったんです。動物の無数の足跡はまだ雪の上に残ってました。
どっかから来たんじゃなく、空から降って湧いたみたいに、
足跡は俺らのいたまわりにしかありませんでした。車はレッカー移動するしかなかったです。
警察が来たころには、足跡は新雪が積もってほとんど消えてましたよ。
いまだにあれが何だったのかはわかりませんが、もしかしたら、ファミレスへ行く途中で、
何かの動物を轢いてしまったことと関係があるのかも・・・







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