猫目地蔵の話

2018.02.11 (Sun)
小学校の5年生のときの話だ。当時ね、俺は弟が嫌いでね。
2人兄弟で、弟は2年生だったんだよ。いや、まだ小さい頃はそうでもなかったんだが、
小学校に入ると急に生意気になったんだ。だからよくケンカしたし、
腕力じゃもちろん俺が勝つが、やつは泣いて母親のところに走っていくから、
結局、怒られるのは俺なんだよ。このあたりのことは兄弟がいる人ならわかるだろ。
あとまあ、俺は勉強ができなかったが、弟はそこそこできた。
そういうことが重なって、弟のことがすごく嫌いで、
いつも、いなくなってしまえばいいって考えてたんだよ。
まあなあ、今にして思えば、弟の服は俺のお下がりばっかだったし、
弟だけが親に目をかけられてたわけでもないんだが、当時はそうは思えなくてね。
あんなことをしなけりゃよかったって後悔している。
うん、だから、そのあんなことってのをこれから話すんだよ。

俺らの通ってた小学校は田舎道をずっと通った先にあって、朝は集団登校だったんだ。
帰りは5年生と2年生では終わる時間が違うし、俺はミニバスのクラブに入ってたから、
弟と一緒に帰ることはなかったが、小学校って、先生方の研究会なんかで、
給食食べて終わりって日が年に何回かあるんだ。でも、そういうときでも、
クラスの友だちといっしょに帰ることが多かったけどな。
んで、ある日曜日、弟と家の和室で遊んでて、床の間に飾ってた皿を壊しちゃったんだよ。
弟の足が当たったんだ。その皿は親父が大切にしてたもんだったから、
俺は青くなったが、弟のほうはぽかんとしてて、責任を感じてる様子じゃなかった。
で、居間にいる親父のところへ一緒に謝りに行こうとしたとき、
弟の靴下の先に血がにじんで畳に赤く跡を引いてたんだよ。
親父がそれを見つけて、俺が皿を割ってしまったことを話すと、弟が足をぶつけたのに、
俺だけが集中的に怒られたんだよ。ケガをしてたからか弟には何にもなし。

それで頭にきて、弟になんとか復讐してやろうと思ってた。
でな、俺は弟の弱点を知ってたんだよ。あいつ異常なくらいに幽霊とか怖がってた。
ほら、昔は夏休み中に心霊番組とかあっただろ。そういうのは絶対に見ないんだ。
もしそういう番組をやってるところに入ってきても、
耳をふさいで逃げてしまうくらい怖がりだった。だから、
それを利用してこらしめてやろうと思ったんだよ。その皿が割れた2日後、
前に話した、学校が早く終る日があったんだ。で、俺は弟に復讐するために立てた
計画どおりに、黒マジックを持って素早く学校を出た。
ああ、何をしたのかはおいおいわかるよ。で、そのことが終わると、
少し学校のほうに戻って、弟が帰ってくるのを待ったんだよ。
そしたら5分ほどして、弟が石を足で蹴りながら一人で歩いてきたんで、

「よ、一緒に帰ろうぜ」 「あ、兄ちゃん」そんとき俺は弟の手をつかんだが、
弟は俺が何かたくらんでるとか、怪しむ様子もなかったな。で、しばらく歩くと、
道の脇に、赤い幕がかけられた四角い小さなお堂が見えてきた。
田舎にはよくある、地蔵様を祀ってるお堂だよ。そのすぐ前まで来て俺は、
「お、ちょっと地蔵様を拝んでいこうぜ」 「じそうさま?」
「お前は知らないから、この前をただ通り過ぎるだけだったろうけど、
 地蔵様を拝むといいことがあるんだ」 「うん」
幕をぺらっとよせ、弟の手をつかんだままて並んで中に入った。
中には1m少しほどの赤いよだれかけの地蔵様が一つ、その両脇に、
30cmほどの地蔵様が数体あって、お供えのための台が置いてある。
「ほら、始めて見ただろ、この地蔵様」 「・・・あ、何か目が変だよ」
弟がおびえた声で言ったんで、俺はそこで口調を変えた。

「これなあ、猫目地蔵様って言うんだ。昔から言い伝えられてる呪いの地蔵様だよ」
「目が・・・猫の目」 「うん、だから猫目地蔵なんだ。これを見たやつのところに、
 夜に地蔵様がやってくる」 「あ、あ、見ちゃった。でも兄ちゃんも見ただろ」
そこで弟は俺のほうを向いて「あっ!」って言った。
そう、俺はそんとき固く目をつぶってたんだよ。「見たのはお前だけだ。
 だから今日の夜、この地蔵様がお前のところに来る」
「怖いよう」弟は幕の中から逃げ出そうとしたが、俺は手をつかんで離さなかった。
んで、さらに不気味な口調にして、「このことは誰にも話すな。もし話したら
 猫目地蔵様に命を取られる。ただ、話さなければそこまでのことはないんだ」
「怖いよ~」弟が泣き出したんで、俺がやっと握ってた手をゆるめると、
そのまま弟は走って、家まで一目散に逃げてったんだよ。

俺は大笑いしてな・・・もう何をやったかわかっただろ。
地蔵様の目のところに黒マジックで猫の目を描いて、そのまわりを黒く塗ってたんだ。
地蔵様は石が粉っぽくなるほど乾いてて、描くのは簡単だったよ。
俺はそのまま家に戻った。母親が家にいたが、弟が俺のイタズラのことを話した
様子はなかった。俺はランドセルを家に置くと、すぐに遊びに出かけたんだよ。
帰ってきたのは夕食前。弟は居間にいて、TVのアニメを見てたが、
俺が入っていってもこっちを見ようともしなかった。
ああ、まださっき猫目地蔵を見せたことを怒ってるんだなと思ったが、
俺はぜんぜん気にしなかった。今回のことは、弟に復讐し罰を与えるためだったからな。
夕飯が終わると、俺は弟と共有だった部屋に引っ込んだが、
弟はまだ居間にいた。おそらく怖いから寝るときまでずっと居間にいるんだろうと

思ったが、寝る段になって、怖いから一緒に寝かせてと親に言って、
それで俺のやったイタズラがバレるんじゃないかと、少し心配になってきた。
でも、9時頃には弟は部屋にやってきて、宿題を始めた。
で、俺が「さっきの猫目地蔵様のこと、言わなかったよな」と、机に向かってる
弟に話しかけると、泣きそうな顔でふり向いて、「兄ちゃん、地蔵様が来るとどうなるの?」
って聞いてきたから、「それはな、まず腕をとられる。それから足。
 最後には首も取られてしまうんだけど、助かる場合もある」と、
その頃の都市伝説で聞き知ってたことを言った。「さっき、誰にも言わなかったら
 助かるって言ったよね」 「ああ、お前は誰にも言わなかったようだから、
 助かる呪文を教えてやる。猫目地蔵様が近くまで来たら、
 ヤングマン、さあ立ち上がれよヤングマン、Y・M・C・A って唱えるんだ」

その頃は英語なんて小学校ではやってなかったから、弟はYMCAを必死で覚えて、
俺は笑いたくてたまらなかった。そして、10時半頃に寝たんだよ。
俺と弟は2段ベッドで、俺が上だった。いつも電気は小さいのをつけて寝てた。
で、布団に入ってすぐ俺は眠ったんだ。子どもだから、今と違って目をつむると
くてんと寝てしまうんだよ。朝まで起きることはなかったんだが、
その夜はなぜか、しばらくして目が覚めた。すると、下のほうでぶつぶつつぶやく
声が聞こえてきたんだ。「やんぐまん、さあ立ち上がれよ・・・」
俺は吹き出しそうになった。ああ、こいつ地蔵様が来てると思ってのか、
馬鹿なやつだ。で、ベッドの縁から頭を出して下をのぞいいてみた・・・
こっからは嘘だと思うだろうけど、そしたらいたんだよ、猫目地蔵様が。
俺のところからは石の丸い頭だけが見えた。

けど、全体が燃え上がるように赤い。びっくりして頭を引っ込めると、
背筋がぞっとするような声で「誰が目を描いた、言え、誰が目を描いた」
こう聞こえてきた。その後に、小さく弟の声で、「知りません。ごめんなさい。
 ヤングマン、さあ立ち上がれよ、ヤングマン、わい・えむ・しー・えー」
まさかと思ったけど、もう一度顔を出して見る勇気はなかった。
だからそのまま布団を引っ被ったんだ。目を描いたのは俺だし、
そのことが知れたらヤバイだろ。地蔵様の声は1度きりで、
下からは弟の声がいつまでも聞こえていた。「わい・えむ・しー・えー・・・」
気がついたら朝になってたんだよ。俺は下に降りて弟をゆさぶり、
「お前、昨日、地蔵様が来ただろ」って聞いたら、弟は目を開けて、
「うーん、来たけど、兄ちゃんが教えてくれた呪文を言ったら帰っていった。

 目を誰が描いたか聞かれたけど、兄ちゃんだとは答えなかったよ」
こんなふうに言ったんだ。俺は頭が重く、目がちらちらして熱っぽい感じがした。
で、下の洗面所に顔を洗いに行って鏡を見たら、
両方の目が赤くなってまぶたが腫れ上がってたんだ。俺は急いで台所に行き、
朝食を作ってった母親に目のことを訴えた・・・まあこれで話は終わり。
その日、病院に連れて行かれ、両目はどちらも雑菌が入ったんだろうって言われた。
熱が39度まで上がって、学校を数日休んだ。あと、ランドセルの中の
黒マジックがむちゃくちゃにねじくれた形で折れてたな。それから・・・
地蔵様だけど、かなり時間がたってから幕の中をのぞいたら、目はきれいになって、
マジックで描いた跡はどこにもなかった。その場で何度も謝ったし、
小遣いでお供えも買った。それ以来、弟とはまずまず仲良くなったよ。








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