そいつの後をつける話

2018.02.17 (Sat)
主婦をしております。よろしくお願いします。
ここ半年くらいの話なんです、うちの町内。私が住んでいるのは、
丘を切り開いてできた新興住宅地で、桜ヶ丘団地って言うんです。
一昨年に分譲が終わりましたので、建っている家はみな新しいものばかりです。
そうですね、住人は40代くらいの方が多いんじゃないかと思います。
子どもが小学生になったとか、2人目の子どもができたとかをきっかけに、
賃貸から1軒家を建てたっていう。ですから、みなさんのほとんどが
ローンをかかえていらっしゃるんです。もちろん、うちもそうです。
職業はざまざまですけど、公務員、公社公団なんかの方が多い感じですね。
そうですねえ、こんなご時世ですから、主婦をされている奥さんは
全体の3分の1くらいでしょうか。

それで、不気味なことは、うちの右隣の吉村さんの家から始まったんです。
ある日の朝です。私は朝食を作る前に家の門の前を掃くことにしてるんですが、
吉村さんの家の前に子どもがいたんです。男の子で、小学校低学年に見えました。
それが、何とも気味の悪い子どもで。着ているものは白い和服だったんです。
それも浴衣よりもまだ薄いような。もう11月でしょう。ですから、第一印象はまず、
寒そうだなってことでした。それと、その子が坊主頭だったせいもあって、
ますますそう感じたのかもしれません。あとですね、肌が白かったんです。
着ている着物と同じような白さでした。うーん・・・蝋人形みたいと言えばいいですか。
それで、その子は吉村さん家の鉄製の門に手をかけて揺らしてたんですが、
ふっと姿が消えたんです。目を疑いました。「え、え?」と思っていると、
その子が吉村さんの庭に現れて・・・ええ、間の塀は低いので、

ある程度中の様子が見えるんです。その子はトントンと足踏みでもするように、
吉田さんの家の玄関の前までくると、そこでまた姿が消えちゃったんです。
思わず目をこすってしまいました。今の子はいったい何だろう?
吉村さんのご主人は30代前半で、この団地の中ではお若いほうです。
奥さんはまだ20代、3歳の女の子のお子さんが一人いて、
そのとき奥さんが2人目を妊娠していたんです。ですから、
その着物の子が吉村さんの家族ということはありませんし、
もちろん急に消えたのも不思議だし・・・でも、このことはすぐに忘れちゃったんです。
それから1ヶ月ほどした夜のことでした。救急車の音が響いて・・・
まだうちでは起きてテレビを見てましたので、外に出てみました。
野次馬みたいで恥ずかしいんですが、団地に救急車が来るのって珍しいんです。

主人と一緒に玄関を出ると、救急車は吉村さんの家の前に停まってて、
救急隊員が家の中に入っていくところだったんです。ご主人がドアを開けてました。
それで、担架で運び出されてきたのは身重の奥さんです。
頭から血を流していたし、妊娠はまだ6ヶ月でしたから、
何か事故があったのだろうと思いました。で、側についていたご主人が私たちを見つけ、
「妻が階段から落ちたんです。すみませんが、この子をちょっと頼めませんか」
って言われまして。ええ、3歳のお子さんです。もちろんそれはお引き受けしました。
うちの子は2歳の男児ですが、いつもよく遊んでいただいていたんです。
それで、走り去る救急車を見送ったとき、吉村さんの門の前に、
前に見た男の子がいたんです。同じ白い着物でしたが、頭の毛が前より伸びている
ように思いました。その子は満面に笑みを浮かべていて、

舌を伸ばしてベロンと鼻の頭を舐め、そして消えたんです。
そのときに、「ああ、この子は前に見たことがある」って思い出しました。
それで、吉村さんの奥さんですが、翌日の朝方に病院で亡くなったんです。
脳出血ということでした。私どもの携帯にご主人から連絡があったんです。
階段から転落して頭を打ったのが原因、お腹の子どもも助からなかったんです。
ええ、ご主人の落ち込みようは、ほんとに気の毒でした。
離れたところにいるご主人のご両親がすぐに来られましたけど、
葬儀一式が済むまでの間、また何度かお子さんをお預かりもしたんです。
その3歳の子に聞いてみたんですよ。「あなたのおうちに、
 白い着物を着たお兄ちゃんいない?」って。そしたら考え込んでいましたが、
急に泣きそうな顔になって「お化けがお母さんを階段から落とした」って言ったんです。

「お化け!?」でも、それ以上はいくら聞いても泣き続けるばかりで・・・
もちろんお葬式には参列しましたし、わが家でもできるだけのことはさせていただきました。
他人事とは思えませんでしたから。それからまた1ヶ月くらいして、
また吉村さんの家に救急車が来ました。これは早朝です。
ええ、亡くなったのは3歳の女の子、睡眠中の突然死でした。
朝になったら息をしていない・・・ それで、その救急車が出るときに、また見たんです。
白い着物の男の子です。ただ、最初に見たときは6歳くらいだったのが、
小学校の高学年ほどに見えましたし、髪がすっかり伸びてボサボサ頭になってました。
でも、真っ白い顔色は変わらなかったので、同じ子だと思ったんです。
前と同じです。嬉しくてたまらないという顔で、舌なめずりをしてから消えました。
このことはうちの主人にも話したんですが、首をかしげられただけでした。

吉村さんのご主人の憔悴はたいへんなものでした。そうですよね。
わずか2ヶ月で家族3人を亡くされてしまったんですから。
仕事をお辞めになって1ヶ月ほど引き込もった末に、郷里に帰るってうちにご挨拶に
来られたんです。私も主人も、なぐさめの言葉もなかなか出てきませんでした。
それで、家のほうは売られたということで、空き家になりましたが、
また見ちゃったんです。夕方、買い物の帰りに、男の子が吉村さんの家の前にいるのを。
いえ、男の子という言葉はふさわしくないかもしれません。
白い着物は同じでも、すっかり背が伸びて高校生くらいに見えました。
でも、同一人物であることはわかったんです。その子・・・そいつは、
一言「ハラ減ったああ」とつぶやくと、道に出て歩き出しました。
それで・・・私はその後をつけたんですよ。

今になって考えれば、よくあんな勇気が出たなあと思いますが、
まだ暗くはなっていませんでしたし、道には人通りもありましたから。
何かあっても助けは呼べるだろうって考えて・・・ええ、そいつが何なのか、
わかるものなら確かめたかったし、あんなことになった吉村さん一家の敵を取りたい、
そんな気もあったんです。え?どうして吉村さんの家族が亡くなったのがその子のせいだと
思ったかって?それは、だって・・・とにかく、かなりの間をおいてついていったんです。
そいつはフラフラとした歩き方で、ときどき止まって電柱にもたれたりして
具合がよくなさそうでした。団地の中の通りを1kmほど歩いて、
その間に、そいつはどんどん小さくなっていったんです。
背が縮んだんですよ。ありえないと思うでしょうが、これも間違いないです。
高校生から中学生、小学校高学年、最初に見た小学校低学年・・・

ええ、ずっとよろよろした足取りでした。そして児童公園の前に来たんです。
その児童公園は、団地といっしょにできたので、まだ新しいんです。
遊具がいくつかあり、私も子どもを連れて何度か来たことがあります。
その奥のほうに古い石碑があるんです。これは団地造成の際に見つかったもので、
高さ1mほどの苔むした碑なんですけど、撤去もできずまわりを柵で囲んで、
公園内に残されていたんです。小さくなったそいつは公園内の芝生に入っていき、
私はそこで立ち止まったんです。私が公園の中に入ると気づかれると思ったんです。
その頃には、あたりがかなり暗くなっていました。
そいつは奥の石碑の前までくると、くるっと振り向いて私のほうを見ました。
それまで1度も後ろを見てないのに、そこに私がいるのがわかってたみたいに。
そしてこう言ったんです。「お前の家にも来てほしいか」

・・・子どもの声じゃなかったです、しわがれた年寄りのような声で。
私は驚きのあまり体が硬直してしまったんですが、気がついたら叫んでいたんです。
「嫌です。来ないで下さい。やめてください!!!」って。
ええ、絶叫に近かったと思います。するとそいつは、
「そうか、じゃあ後回しにしてやる」そう言うと、また前を向き、
よろよろと崩れるように、石碑の柵の中に倒れ込んで・・・
消えたんです。私は背筋がゾクゾクし、一目散に走って逃げました。
家の前まできたときには、息が切れて倒れそうだったんです。家に入ると、
早番で帰っていた主人と娘が出てきたので、抱きついて泣きじゃくりました。
もちろん、あった出来事を話したんですが、主人が信じたかはわかりません。
公園の石碑は文字も彫られておらず、何だったか近所の人は誰も知らないみたいです。









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コメント
 まず、タイトルが妙に印象的でした。「そいつ」の台詞からして、この新興住宅地を喰らい尽くすつもりなんでしょう。石碑を中途半端に残したせいで歪んだのか、それとも石碑がまだ残っているからこの程度で済んでいるのか・・・どちらにせよ、強力な「疫病神」ですね。
| 2018.02.21 10:17 | 編集
コメントありがとうございます
成長したり元に戻ったりしてるところから
飢餓にも関係ありそうな化物ですね
階段ルームから強力な霊能者を送り込めればいいでしょうけど
bigbossman | 2018.02.22 08:22 | 編集
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