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おとろしと八幡神社

2018.02.18 (Sun)
今回は妖怪談義です。このカテゴリでは、比較的わかりやすいものから
書いてきましたので、だんだん難しくなっていきます。取り上げるのは「おとろし」。
これも詞書がないので、どれだけのことが言えるか自信ないです。
まず、石燕の絵を見てみましょう。



鳥居の上に毛むくじゃらの怖ろしい顔の化物がいて、鳥を咥えています。
この鳥はおそらく鳩ではないかと思われます。日本にはたくさんの神様がいて、
それぞれ「眷属 けんぞく」と呼ばれるお使いの動物を持っています。
例えば、稲荷神社の狐は有名ですね。その他、出雲大社なら蛇、
(同じ大国主命を祀る大神神社も蛇です)日吉神社なら猿、春日大社は鹿、
三峯神社が狼。では鳩を眷属とするのは何かというと、八幡系の神社なんですね。

八幡神社の祭神は八幡神(やはたのかみ)で、特に武士階級に信仰された武神です。
一般的には応神天皇と同一視されています。応神天皇は第15代天皇で、
名前は誉田別命(ほんだわけのみこと)。神功皇后が妊娠をこらえて
三韓征伐におもむいた後、九州で生まれたことになっています。

ですから「胎中天皇」という別名も持っているんですね。
後に、八幡神は仏教と習合されて八幡大菩薩になりました。
八幡神社は全国で最も数が多く、約8000社あって、
大分県宇佐市の宇佐神宮が総本社です。

では、石燕の絵に出てくるのは八幡神社なんでしょうか?
鳩の他にヒントがあります。それは鳥居の形です。鳥居には大きく分けて、
神明系と明神系があり、シンプルな形のものが神明系、代表は伊勢神宮。
八幡神社は明神系で、その中でも特徴的な八幡鳥居と呼ばれるものです。(下図)

鳥居の種類
ダウンロード

石燕の絵の鳥居は、笠木(一番上の黒い部分)の端が斜めに切られていて
反りがないので、八幡鳥居と見てもよさそうですね。
ということで、この「おとろし」は何か八幡神社と関係があるんでしょう。
ここまでは多くの妖怪研究者がたどり着いています。
じゃあ、どういう関係があるのと聞かれると、これがわからない。
悔しいですが、どうにもならないので別方面から考えてみましょう。

「おとろし」という名前に何かヒントはないか。石燕の絵には「形容詞系」の妖怪
というのがあると考えています。例えば、「狐者異 こわい」。これはもちろん
「怖い」から来ているものでしょう。また「否哉 いやや」は、
現代の「嫌だ」という形容動詞なんだと思います。

「狐者異 こわい」と「否哉 いやや」
名称未設定 1

では、「おとろし」は「怖ろしい」かというと、そうでもないようなんですね。
というのは、喜多村信節が書いた江戸時代の随筆『嬉遊笑覧』
に引かれている化物絵に、「おとろん」という妖怪が出てきており、
これを石燕が参考にした際に、「ん」を読み間違えて「し」にしてしまったという説。

それから、 佐脇嵩之という妖怪絵師の本に出てくる「おどろおどろ」が、
「おどろ~」とくり返しの記号で書かれていたため、やはり石燕が間違え、
「おとろし」にしてしまったという説があるんです。
ということで、「おとろし」は元は「おとろん」または「おどろおどろ」
かもしれないんですね。困りました。

『化物づくし』(作者不詳)から「おどろおどろ」


ただ、ヒントになりそうなことはまだあります。佐脇嵩之の『百怪図巻』、
石燕の『画図百鬼夜行』のどちらも、「おとろし」は、
「わいら」という妖怪と並べて描かれているんです。
佐脇も石燕も、この2体の妖怪をセットとして考えていたようです。
妖怪研究家の多田克己氏は、「わいら」が「怖い」、「おとろし」が「怖ろしい」で、
一対になると述べており、これは、おそらくそうなんだろうと思いますね。

「わいら」


また、「おとろし」に関する民間伝承は一切ないんですが、水木しげる御大は
「不信心者が通りかかると、鳥居の上からおとろしが落ちてくる」と述べていて、
それからすると落下系の妖怪なのかもしれません。
落下系の妖怪には「薬缶吊る」や「釣瓶落とし」などがあります。

山岡元隣著・山岡元恕編『古今百物語評判』より「釣瓶落とし」


さてさて、ここまでのことをまとめますと、
「おとろし」とは、なぜか八幡系の神社の鳥居の上にいて、不信心者が通りかかると、
上から落ちてきておどかす、怖しい毛むくじゃらの妖怪ということになります。
元の名前は「おとろん」あるいは「おどろおどろ」かもしれない。
わけわからなくてすみませんが、現状ではこれが限界ですね。








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