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油赤子と遊女

2018.03.04 (Sun)
今回もまたまた妖怪談義です。お前、妖怪好きだなあ、
と思われるかもしれませんが、最近、自分は「江戸学」にはまっていまして。
現在の妖怪のイメージが定まったのは、もちろん水木しげる先生の力が
大きいんですが、その水木先生が参考にしているのが、
石燕を含む、江戸時代の浮世絵師や黄表紙作家なんですね。
ですから、妖怪を読み解くには江戸時代についての知識が必要なんです。

で、取り上げるのは「油赤子 あぶらあかご」。こいつもなかなか悩ましい。
いろんな要素が含まれていて、自分にわかる部分も、わからない部分もあります。
絵を見ると、寂しげな山里を描いた屏風の前に女性が寝ています。
これは髪型からすると遊女かもしれません。



女の夜具には、でかでかと桐の絵がついていて、これには、
絶対に、仲間ウケする意味があるはずです。例えば、石燕の仲間の誰かが
桐の紋を使っている遊女と馴染みになっているとかなんとか(笑)。
あと、女の枕元には、長煙管、かんざし、小槌? 紙入れ? 
などがあるようですが、絵が小さくてはっきりわかりません。

そして行灯の前に立って油を舐めている幼児がいます。
赤子といっても立っているし、2,3歳くらいに見えますね。
あと、この子が男か女かもよくわかりません。

詞書は、「近江国 大津の八町に 玉のごとくの火 飛行(ひぎやう)する事あり
土人云(いわく) むかし志賀の里に油をうるものあり 夜毎に大津辻の
地蔵の油をぬすみけるが その者死て 魂魄炎となりて 今に迷ひの火となれるとぞ
しからば油をなむる赤子は 此(この)ものの再生せしにや」


いちおう訳してみると、「近江国の大津八町に、球形の火が飛ぶことがあった。
現地の人が言うには、昔、志賀の里で油を売るものが、毎夜、辻の地蔵堂の
油を盗んでいたが、その者が死んで、霊魂が炎となって現在も迷って
出ているいるものだということだ。そうすれば、油をなめる赤子は、
その者が生まれ変わったのだろうか」 こんな感じですか。

この話は、江戸時代の書物『諸国里人談』『本朝故事因縁集』にある
「油盗みの火」の話を引用したもので、「油赤子」についての
その他の伝承は見あたらず、石燕が創作した妖怪と考えられています。

さて、油赤子の正体として、猫を表しているのではないかとする説があります。
猫は当時からペットとして飼われており、基本的に肉食なのですが、
植物性の残飯を与えられることが多く、タンパク質や脂質が不足して、
江戸時代には魚油が中心だった、行灯の油をなめることがあったそうです。
油をなめる猫は、化け猫ものの怪談によく出てきます。

油をなめる化け猫


また、猫は「寝子 ねこ」に通じます。寝子は遊女を表す隠語です。
で、吉原の遊女には猫を飼っている者も多かったので、
それとひっかっけてあるのではないかとする説ですね。
これは十分ありえるように思います。

月岡芳年の浮世絵


それから、「お茶をひく」という慣用句がありますよね。
これは客のつかなかった遊女が、他の遊女に来た客に飲ませるための
お茶を挽く仕事をしていたことから、ホステスなどの接客業が、
「客がなくて暇でいる、仕事にあぶれる」などの意味で使われます。

それと同義の語として、現代では用いられなくなりましたが、
「油をなめる」というのもあり、やはり客のつかなかった遊女が、
一晩、店の高価な油をムダにしてしまうということのようです。
ここでも、絵の内容が遊女とかけられているように思えます。

ということで、油赤子の正体は、油をなめる、遊女が飼っていた猫・・・
かもしれませんし、もう少し勘ぐれば、遊女が堕胎した水子の霊なのかも
しれないです。当時の知識では、完全な避妊は難しかったので、
吉原全体で、おびただしい数の堕胎があったようです。中絶に失敗して、
命を落とす遊女も多かったと考えられています。

『平家物語』の鬼(法師)


さてさて、最後に、絵の枕元にある小槌のようなもの。これが異質ですよねえ。
あれこれ考えて、ふと思いついたのが『平家物語』に出てくエピソードです。
後白河法皇が、祇園にある女御の館に通っていたさい、近くの御堂に、
手には打ち出の小槌を持ち、髪が針のように光る鬼が出現した。

法皇が護衛にあたっていた北面の武士(平忠盛)に確かめさせると、
それは、灯籠をともすために働いていた油つぎの法師で、
手に持った燃えさしを入れた容器が小槌、頭にかぶっていた雨よけの蓑笠が、
針のような髪に見えたのでした。(上図)

このとき、簡単に法師を斬り捨てなかった平忠盛の、
冷静沈着さに感心した法皇は、祇園女御を忠盛に与え、
その子として平清盛が生まれることになります。・・・例によって、
自分の深読みのし過ぎかもしれませんし、そもそも絵の中のものは小槌では
ないのかもしれませんが、何か関係があるかもです。







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