FC2ブログ

「透明マント」はできるか?

2018.03.13 (Tue)
「メタマテリアル」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
メタは「超越」、マテリアルは「物質」を意味し、ナノという百万分の1ミリ単位の
世界で人工的な金属構造を作り、さまざまな特性を実現する物質だ。
ペンキを塗らずに彩色したり、がんを早期に発見したりするのに役立つほか、
人類の夢である“透明マント”の可能性も秘めているというから驚きだ。

理化学研究所でメタマテリアルを研究している田中拓男主任研究員は昨年4月、
アルミニウムの表面を微細に加工し、ペンキなどで塗装することなく、
さまざまな色を生み出すことに成功した。
(産経新聞)



さて、今回は科学ニュースからお題をいただきました。
まず、メタマテリアルの定義からいきましょうか。この定義は、
厚生労働省によって定められていて、1~100nm(ナノメートル)の素材のことです。
1ナノメートルは、10億分の1メートル、100万分の1ミリメートルです。

これがなぜ、厚生労働省によって管理されているかというと、
人体に取り込まれて危険を及ぼす可能性があるからです。
あまりに小さいため、呼吸によってだけではなく、消化器や皮膚からも、
体内に入ってしまう場合があるんですね。

石綿(アスベスト)は、中皮腫という一種の癌の原因になることが知られていますが、
ナノマテリアルも、そのようなことを引き起こす危険性があります。
ですので、取り扱いには十分な注意を払わなくてはならないんですが、
すでに、化粧品や健康食品、ある種の工業製品などとして、
利用されているものもあります。

さて、上記の研究ですが、ペンキを塗ることなく、ナノマテリアルを使って
「人間に色を見せる」というもののようです。前に少し書きましたが、
物体に色があるわけではありません。光に色があるんですね。
プリズムを通した光は虹の7色に見えますが、それが混ざって白色光になります。

ナノマテリアルでつくった色(理化学研究所)


例えば、青い色に見える物体は、青以外の色をその物質が吸収してしまい、
私たちに目には、反射した青色の光だけが入ってくるわけです。
上記引用の研究の場合、物体の上に、一辺が数百ナノメートルの薄いアルミニウムの
四角形を無数に配列します。極小のアルミニウムの座布団を並べたようなイメージです。

で、四角形の一辺の長さや、隣との間隔を変えることで、
好きな色の光だけを反射させるわけです。うーん、なるほど。
この利点は、まず重量ですね。ペンキが重いのは、ペンキ塗りで缶を持ったことが
ある方はわかるでしょうが、ナノマテリアルはその何千分の一も軽い。

しかも、アルミニウムはすぐに酸化して安定するので、
ペンキに比べてはるかに耐久性があります。ただ・・・問題はコストですよね。
現状では、ペンキとは比較にならない高額になるはずです。
これが例えば、車の塗装などに使えるようになるまでコストダウンするには、
かなりの時間がかかりそうですし、できないで終わる可能性も高いでしょう。
この手の研究の多くは、実験室での成功から実用化に至るまでには、
大きく高い壁があるんですね。

さて、ナノマテリアルと言えば、ハリー・ポッターに出てきた「透明マント」が
できるのではないか、という話があります。
物体を透明化させるのはどうやっても不可能ですが、
ナノマテリアルには負の屈折率をつくることができるものがあるので、
自分の後ろ側の風景を、何度も反射させながら体の前に持ってくることなら、
理論的には可能であるとされます。

真空中よりも低い屈折率を持つナノ構造


そしてこの技術は、何よりも軍事に役立ちますよね。
透明な兵士、透明な戦車、透明な戦闘機・・・
アメリカをはじめ、各国の軍事研究施設で競って開発されていますが、
実用化にはまだまだ時間がかかりそうです。

上記の田中研究員も、「光を思い通りに屈折させるための技術が非常に難しい。
巨大な開発費を投入しても、マントの大きさは十円玉くらいがせいぜいでは」
と述べています。ただ、映画の『プレデター』のシリーズで出てきたような、
完全な透明ではない、光を乱反射させるようなシールドなら可能かもしれません。

透明化のしくみ


さて、透明マントは、意外な方面からも研究されています。
海洋生物です。例えば、コウイカなどは、皮膚に色細胞と呼ばれる、
光の反射を変える特殊な細胞を1000万個も持っていて、
瞬時に周囲の岩や海藻などと同じ色になることができます。

また、体表が光をほとんど反射させない構造になっていて、
真っ黒に見える生物もいて、深海では透明なのと同じようなもんです。
これらの生物は、生まれつきナノテクノロジーを持っており、
生存のために利用していると言うことができるでしょう。
これらの生物の研究からも、一種の透明マントをつくる道が開けるかもしれません。

コウイカの擬態


さてさて、みなさんはもし透明マントを手に入れたら、何に使われるでしょうか。
漫画では、女湯に侵入するシーンなどが描かれますが、
透明になる=悪事を働く というイメージがあるのは自分だけでしょうか。
H・G・ウェルズの小説『透明人間』でも、映画の『インビジブル』も、
『怪奇大作戦』のキングアラジンも、
最後は不幸な結末で終わります。ということで、今回はこのへんで。

関連記事 『透明と軍事技術』






関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/1402-2f4ec70a
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する