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ロケット戦闘機と鳩

2013.10.26 (Sat)
古本屋めぐりを趣味にしている。
稀覯本を収集しているわけではないし、特に好みのジャンルがあるわけでもない。
ただ古書店街で数軒をはしごして、興味をひかれた本を何冊か買う。
あまり多趣味とはいえない自分にとっては休日のいい時間つぶしだ。

先の日曜日、いつもの古書街をぶらついていたら、
駅からさほど遠くない縦長のビルに古書店の看板が出ているのに気がついた。
ここは何度も通っている道だが、書店なんてあったっけ。
そう思って看板をよく見たが、古びていて最近できたばかりという感じでもない。
まあ見逃していたのだろうと思って入ってみることにした。
せまい階段を上って店は二階にあった。
初めての書店に入るときはいつもなんとなくわくわくする。
見たこともない本が並んでいるのではないかという期待感がある。
そんなことはまずないんだけど。

扉を押して店に入るとすぐカウンターだが人の姿がない。
カウンターの机に和紙がしかれて、その上に呼び鈴がおいてあった。
和紙には御用の方は押してください、と墨書されていた。
後ろにドアがあるので、店の人は奥にいるのかもしれない。
営業しているんだからいいだろう、と思って、店の中をまわってみた。
ビルの敷地を考えれば当然だがたいした広さではない。
やはりありきたりの本ぞろえで、何か店としての専門があるようにも見えない。
こんなもんだろうな、帰ろうかと思ったら、奥の窓際の書架が目にとまった。
そこだけ並んだ本の背表紙が不揃いで、全体的にセピア色をしていた。
古い本があるのだろうと寄ってみた。

見ると、昭和の初期から戦後すぐの時期くらいの本や雑誌が並んでいて、
これはかなり珍しいと思った。
本の内容はバラバラなようでもあり、なんとなく統一感があるようでもあり、
これはもしかしたら個人の蔵書を一括して仕入れたものかもしれない。
その本の中で一冊を抜き出してパラパラめくってみた。
戦時中のロケット推進戦闘機に関する本で、奥付にある値段を見たら三千円とあった。
自分にしては高い金額だが、その本をもってカウンターに向かい呼び鈴を押した。
するとややしばらくして、
ドアが開き70代とも90代とも判別のつかないじいさんが出てきた。
まだそれほど寒い時期ではないのに、厚いカーディガンを何枚も重ね着していた。

じいさんは自分が差し出した本を手に取ると、開いてしげしげと見ていたが、
「ははあ、買わされたね」と言った。
何のことかわからないので黙っていると、
「三千円とついてるけど千円でいいよ。そのかわり何があっても文句なしだよ」と、
ささやくように言ってにやっと笑った。
続けて「その本だと、鳥だな。鳥で何かあるだろうよ。ま、命にさわるまでのこたあない」と、
やはり意味不明のことを言った。
とにかく千円払って外に出た。
値引きしてもらったのは儲けたということだろうが、それにしてもロケット戦闘機・・・
それまで興味を持ったこともないし、なぜこの本を買ったのか自分ながらよくわからない。

電車でマンションに戻って、4階の部屋の鍵を開けた。
誰もいないはずだが、聞きなれない物音がしていた。リビングの戸を開けてあっと思った。
窓の外、ベランダ全体が黒くなって、しかも激しく動いていた。
近寄ってみると、ベランダの外に張られている鳩除けネットに、
鳩が数十羽、いや百羽を越えているだろうか、みなこちら向きにネットの目に首を突っ込んでいた。
激しくもがいているものも、ぐったりして動かないものもあった。
その音がサッシ越しに聞こえてきていたんだ。
羽根がそこらじゅうで舞っていた。

後にわかったことだが、被害は自分の部屋のベランダだけだった。
マンションの管理と話をして、鳩の群れがどういうわけかたまたま突っ込んできたのだろう、
という結論になった。
清掃費用と新しいネット代は自分で出すしかなかったが、たいした金額でもなかった。
不思議なのは、この出来事のせいでほっぽっておいた
ロケット戦闘機の本がどこにも見つからないこと、
それから後日古書店街に行っても、その本を買った古本屋を見つけられなかったことだ。

『ロケット特攻兵器 桜花』


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