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管の鬼の話

2018.05.18 (Fri)
今回は、大阪の郊外にある市の医療法人に勤める20代の女性看護師、
Uさんからお聞きした話です。場所は、いつものホテルのバーではなく、
ある駅前にある小洒落たクレープ屋でした。
「あ、どうも、bigbossmanです。よろしお願いします」
「こちらこそ」 「看護師をなさっているそうで」
「はい、Y市にある医療法人の○○会の病院です。そこの市には、
 系列の病院が3つあるんですが、去年の4月に南病院から北病院に
 移動になったんです」 「はい」 「南病院は一般病棟がほとんどでしたけど、
 新しく行くことになった北病院は、療養病棟中心なんです」
「はい」 「療養病棟は、慢性疾患を抱えたお年寄りが中心で、
 痰の吸引が必要な方や、胃瘻の方も多かったんです」

「ははあ、大変そうですね」 「いえ、それがそうでもなくて、
 介護のほうは介護士さんがいますし、医療行為は多くはないんですよ」
「ああ、なるほど」 「ただ、こんなことを言ってはなんですが、
 やりがいがあまりないというか・・・ 脳疾患や心臓疾患に認知症が重なってる、
 お年寄りが多くて、こちらから話しかけても、アーウーとか言うばかりで、
 ほとんど意思の疎通ができないので」 「ああ、あの点滴に異物を混入させた
 事件があった横浜の病院みたいな感じですか?」 「そうですね・・・
 それで、5階の病棟に配属されて、看護師長や同僚の看護師に挨拶をしたんです。
 みなさん、明るい方だったんですが、師長さんが、お話の後に、
 私にそっと数珠を渡されたんです」 「数珠ですか?」
「はい、青い玉が5個ついた小さいものでした」 

「それ、珍しいですよね」 「はい、私も不思議に思って、これは?って
 尋ねたんですが、ただ、ナース服のどこかに入れておけばいいよ、
 っておっしゃられて」 「うーん、自分も長期入院したことあるんですが、
 数珠持ってる看護師さんは・・・」 「まあでも、そこの病院なりの
 しきたりなんかもありますし、お亡くなりになる患者さんが多いからかな、
 と思って、いつもロッカーに入れてて、仕事中持つようにしてたんです」
「ははあ」 「それで、勤務は特に問題はなかったんです。さっき言ったように、
 あまり意思疎通がとれない患者さんが多かったんですが、
 病院はスタッフも多くて仕事は楽でした」 「はい」
「一週間ほどして、初めての夜勤のシフトが回ってきたんです」 「はい」
「引き継ぎをして、定時に病棟内を見回るんですが、

 眠剤を使われてる患者さんが多く、ほとんどの方はよく眠っておられて」
「はい」 「女性患者の病棟を午前2時に回ってたときです。
 Hさんという80代のおばあさんのベッドに、カーテンを開けて入りました」
「はい」 「そしたら、Hさんがベッドに起き上がっていて・・・
 体が斜めになってたんです」 「どういうことですか?」
「ほら、病院のベッドって角度を変えて起きられるようにできてますよね」
「はい」 「それが、ベッドはそのままで、Hさんの上半身が、
 まるでリクライニングしてるみたいに斜めに」 「うーん、で?」
「Hさんは両目をカッと見開いてて、口から管が出ました」
「治療用の管ってことですか?」 「いえ、Hさんはそういうのは一切つけて
 なかったんです」 「で?」 「管は真っ白で、1m以上の長さがあって、
 
 先のほうがうねうね動いてました」 「で?」
「びっくりしましたけど、Hさんは少し認知症があったので、何かのホースを
 自分で見付けてきて咥えてるんだと思ったんです」 「で?」
「思わず、動いてる管の先をつかもうとしました。そしたら、管は私の手をそれて、
 Hさんの口からも外れました。シーツの上をくねって、カーテンづたいに
 天井のほうへ上っていったんです」 「で?」 「上のほうのカーテンレールに
 巻きついた管の穴から、もっと生きたい、って声が聞こえて」
「それ、Hさんの声ってことですか?」 「いえ・・・わかりません」
「女性の声だとは思ったんですが」 「で?」 「管は暗い天井に消えていき、
 半身を斜めに起こしていたHさんがベッドに倒れました」 「で?」
「あわてて確認したら、呼吸が止まって脈もないので、当直の医師を呼びに行きました」

「で?」 「別室で蘇生措置をしましたが、そのままHさんは亡くなったんです」
「気味の悪い話ですねえ。その後は?」 「ご家族への連絡などでバタバタしましたが、
 そのときに、いっしょに夜勤だった看護師も、医師も、片手に数珠を持ってたんです」
「で?」 「夜勤の同僚に、それは?って聞いたら、あなたももらってるでしょ、
 朝まで持ってたほうがいいって言われました。詳しいことは後で教えるって。
 でも、時間がなくて、そのときは教えてもらえなかったんです」 「うーん、
 Uさんが目撃した、管については?」 「医師に話しましたし、後になって師長さんにも
 報告したんですが、すごくそっけない態度で、わかりましたって言われただけでした」
「で?」 「それからまた1週間ほどして、夜勤が入ったんです。前のことがあったので、
 巡回のときはすごく警戒してました」 「で?」
「早い時間は何事もなくて、やはり2時の見回りのときです」 「はい」

「男性病棟の最後が2人部屋だったんです。その窓際のベッドのカーテンを開けると、
 Mさんっていう80代のおじいさんの口から、白い管が出てて、
 うねうね動いてました」 「で?」 「Mさんは、酸素のチューブをつけてましたけど、
 それよりずっと太い白い管・・・前に見たのと同じだと思いました。
 で、管が伸びている天井を見たら・・・」 「何が?」
「この前亡くなったHさんが張りついてたんです」 「え?」
「もうとっくにお葬式も済んでるはずです。それが、白髪を振り乱して、
 白目を剥いて、Hさんの口から伸びてる管が、Uさんの口までつながってて」
「で?」 「私はギャーッって悲鳴を上げちゃったんです。
 とにかくカーテンの中から逃げ出しました」 「で?」
「廊下を走ってたら、ナースステーションから先輩が走ってきて、

 手にあの数珠を持って前に突き出してて、私に向かって、あなたも数珠出しなさい、
 って言ったんです」 「で?」 「先輩を先頭にして、また病室に戻って
 カーテンを開けると、白い管だらけでした」 「え?」
「天井に張りついてるHさんの体から、何十本も管が出てて、 
 ベッドのUさんとつながってたんです。私は後退りしてしまったんですが、
 先輩はひるまず、数珠を持った手で管にふれると、管は煙みたいに消えてって、
 上にいるHさんが身悶えしながら、やはり天井にめり込むようにして消えました」
「で?」 「Uさんは、上をにらんだまま一言しゃべって、がくっと頭が落ちました」
「何と言ったんですか?」 「もっと生きたい、って。
 でも、Uさんはそのまま亡くなってしまったんです」 「うう」
「蘇生措置をしてもダメでした。私はショックを受けてて、何もできなかったんです」

「で?」 「朝になって、出勤してきた師長さんから話をうかがいました。
 私が見たのは、そこの病院で管の鬼って呼ばれてるものだって」
「管の鬼・・・」 「はい。毎回ではないですけど、患者さんが亡くなるときに現れる、
 そこの病院に棲みついてるものだって。それは、Uさんのときみたいに、
 管だけの場合もあれば、Hさんのときのように、
 前に亡くなった患者さんの姿で出てくる場合もある・・・」 「はい」
「お坊さんを呼んで、ひそかにお祓いをしたんだそうです。
 そのとき、お坊さんが管の鬼って名前をつけて。でも、お祓いではいなくなり
 ませんでした。それから、お坊さんの勧めで、看護師や医師も、
 全員が数珠を持つようになったそうなんです。管の鬼は、
 私たち病院のスタッフには何もせず、数珠でさわると消えていくって」

「うーん、すごい話ですねえ。その後も見たんですか?」
「はい。1年間で4回見ました。で、そのたびに患者さんが亡くなって。
 でも、あの管の鬼が患者さんを殺してるってことじゃないと思うんです。
 亡くなったのは、もとから容態が悪い患者さんばかりでしたから」
「何だと思いますか?」 「・・・うまく言えないんですが、あれ、
 ほとんど意識がない状態で、体中、点滴や酸素、人工呼吸で管につながれてる
 大勢の患者さんの念が凝り固まったものじゃないかと」
「・・・・」 「で、管の鬼につかまった患者さんは、ふだんはしゃべれないのに、
 もっと生きたいって言うんです」 「・・・そんなになっても生きたいと」
「わかりません。とにかく、私はそこの病院に慣れることができなくて、
 今年の3月に希望を出して、一般病棟に移動させてもらったんです」



 

 

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