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穴に落ちる話

2018.06.03 (Sun)
※ ナンセンス話です。

これ、俺が小学校6年生のときの話だよ。夏休みの終わり頃のことだった。
当時俺は田舎に住んでて、家は農家だったから、親が金を持ってなくて、
ゲームとか、あんまり買ってもらえなかったんだよ。
まあでも、別に不満じゃなかった。外で遊ぶほうが好きだったからな。
学校のプールも開放されてたし、川や沼で魚釣りもした。
けど、やっぱり夏休みと言えば虫捕りなんだよ。
2日おきくらいに山に出かけて、大きめの虫カゴ3つにびっちり
虫を飼ってたんだ。あんまり捕れるんで、カブトなんかは貴重じゃない。
クワガタの大きなやつだけ残して、あとは捕ってもすぐに逃してたな。
うーん、今はどうなんだろうな。長い間、あの田舎の町には戻ってないけど、
自然破壊で昔みたく捕れなくなくなってるのかもしれんね。

でな、その日は、家で昼飯を食ってすぐ、捕虫網と虫カゴを持って、
裏の山に登ったんだ。まあ、山といっても、せいぜい300mくらいか。
小学生の足でも1時間かからずに頂上まで着く。そんな山がいくつも
横に並んでたんだ。山に入って、前に来たとき、
木に焼酎を塗ったところに行ってみた。これで大概、何匹かクワガタが
ついてるんだが、その日はカブトのメスが2匹いただけ。
他の場所も同じようなもんだった。ああ、つまんねえな、って思って、
少し冒険してみることにした。横につながってる、
別の山に入ってみるつもりだった。といっても、夏の盛りだから、
草木が茂ってて、道のないところには入れない。それで、
いったん頂上まで登って、そっから下を見下ろしてみたんだ。

そしたら、右手下のほうに、ごくごく細い道が見えた。
これは、木を伐る人がこさえた道だろうと思って、そこまで下りて、
隣の山に入ってたんだよ。で、その道はあんまり使われてないらしくて、
子どもの俺がやっと通れるくらいの幅しかなかった。両脇は深い茂みで、
なんだか心細くなってきて、もう少し進んで、広場みたいなとこに出なかったら
戻ろうと思ってたのよ。それが、ふっと目の前が開けて、円形の草地に出たんだ。
不思議な場所でな、そこだけ草を刈って芝を植えたようになってた。
で、端のほうに岩でできた像みたいなのが一つあった。近寄ってみると、
人間を掘ったもんじゃない。どう言えばいいかなあ。
あ、奈良のほうに猿石ってあるだろ。あれに似てたような気がする。
その前で、像をしげしげと眺め、後ろに回ろうとしたとき、

地面がぼこっと陥没したんだよ。気がついたら、回りが暗くなって、
俺はズザザザと斜面を滑り落ちてた。んでも、たいした深さじゃない。
せいぜい3mくらいかな。俺は下に尻から落ちて、あたりを見回すと、
うすらぼんやり明るかった。上に、俺が落ちてきた穴が空いてて、
そっから光が射し込んでたんだ。で、思わず息を飲んだよ。
回りがぐるっと、コントロールパネルみたいになってたんだ。
やっぱり子どもの頃に、浄水場の見学に行ったことがあるけど、
あれよりもっと大規模で、ずらずらっと、スイッチみたいなのが並んでたんだ。
それと、中央に、石でできた四角い大きなものがあったんだ。
当時はわからなかたけど、あれは石棺ってやつだと思う。ほら、古墳なんかにある。
でもな、回りのスイッチとか、そんなものが古墳にあるわけがない。

上の穴を見たら、斜面はけっこうゆるくて、何とかよじ登れそうに見えた。
気持ちに余裕が出てきて、手近にあったスイッチを一つだけ上に上げてみたんだ。
そしたら、ビコンビコンと音が鳴って、赤い色が上のほうで点滅しだしたんだ。
あ、これはヤバイ、そう思って逃げることにした。斜面に四つん這いになって、
滑るけどなんとか登ってったんだよ。ああ、時間はかかったが、
穴の縁までたどり着き、手をかけて外に出たんだ。上から見下ろすと、
中が真っ赤になってるように見えて、警告音みたいなのもかすかに聞こえてきた。
俺の服は泥だらけになってて、ああ、また怒られるなあと思いながら、
すっかり虫捕りをする気は失せて、家に戻ったんだよ。
まだ早い時間だったから、両親は畑から戻ってきてなくて、ばあさんが猫といっしょに
居眠りをしてた。俺は汚れた服を脱いで洗濯機に放り込んだ。

異変に気がついたのは、夕方になって、母親に呼ばれたときだな。案の定、
俺の泥まみれの服を持って怒ってた。けど、その言葉が変だったんだよ。
「また、こんな○汚して」・・・この○のところが、息を吸い込みながら、
「ピョゲ」みたいな発音に聞こえたんだ。まあでも、そのときは、怒りのあまり
発音が変になってるんだろうと思って笑わないでいた。けど・・・
はっきり異変に気がついたのは夕食のときだな。ちょうどテレビで7時のニュースを
やってたんだが、アナウンサーの発音がおかしかった。全部がおかしいわけじゃなくて、
ところどころに、さっきのピョゲとか、ジャコみたいな音が混じるんだ。
それで、「このアナウンサー、変じゃね?」って言ってみた。
でも、家族は普通に聞いてて、姉が「どこが?」って言っただけだったんだよ。
そのときはそれ以上のことはわからなかったんだな。

けど、飯を食い終わって、自分の部屋のベッドに寝転んでマンガ読んでたら、
字が変なことに気がついた。見たことのないひらがなが印刷されてたんだ。
いや、何回か前に読んだことがあるマンガで、そのときは変じゃなかった。
どう言えばいかなあ。形はどう見てもひらがななんだけど、学校で習ったもんじゃない
っていうか・・・で、マンガの他のページも見たら、俺の知らないひらがなが3つ
あることがわかった。「に」と「れ」と「つ」だな。
これが入れかわってる。教科書を引っぱり出して見ても同じだった。
で、それ持って、姉の部屋に行っただよ。指で指し示して、
「姉ちゃん、この字、何て読む?」って聞いたら、「ひらがなじゃないの、
 何言ってんのよ、ピョゲでしょ」 「おかしいと思わない?」
「ぜんぜん」こんな感じだったんだよ。

それで、わけがわからないながらも、その日は寝た。いやあ、そうだなあ、
これが山の中での出来事と何か関係があるとか、それはまったく考えなかったな。
まあ、子どもだったし、実害があるわけでもないし、1日寝れば、
餅に戻ってるかもしれないと思ったわけ。でも、次の日も同じだった。
3個の字が、書くときも、話すときの発音も前と違ってるというだけ。
え?俺が話すとき? さあ、どうだったんだろうな。
自分では普通にしゃべってたつもりだし、聞き返されたりしたこともなかった。
そういえば、そこには気がつかなかったなあ。でな、山であの変な機械を見てから、
2日後のことだよ。その日は、朝からばあさんが、猫がいなくなったって探してた。
まあ、あの猫は、夜に外に出てったりしてたから、
そのうち帰ってくるだろうと思ってたんだけどな・・・

で、よく晴れた日だったから、もう一度あの山に行ってみようと思ったわけ。
俺が落ちた穴がどうなってるか? 確認したかったし、
もしできるなら、穴にまた入って、秘密を探ってやろうと考えたのよ。
下からは行く道がわからなかったから、こないだと同じように裏山に登って・・・
ところが、どうやってもあの横道が見つからなかった。それで、あの日のように、
いったん頂上に出て、道を見つけようと思ったわけ。
そしたら・・・頂上にある倒木に、大人が2人座ってた。
その人らは田舎では葬式でしか着ない黒い背広の上下で、
顔にでっかいサングラスを掛けてたんだよ。あと、一人が手に、やはり黒い
大きなバッグを持ってたんだ。俺は大人の姿を見て、なんとなくバツが悪くて、
さりげなく下りて行こうとしたら、一人から声をかけられた。

「坊や、道を探してるのかい?」 「い・・・え、そういうわけじゃ」
「隣の山に行ったかい?」 「いえ」 「ふーん、機械触らなかった?」
「いえ」 「変だなあ? 坊やだと思うんだけどなあ」一人がそう言うと、
薄笑いを浮かべながら、「でもね、大丈夫。機械はなんとか直したから。
 それと、もしかして、猫探してるんじゃないの?」 「いえ、その」
男はバッグを開け、ぐったりして目をつぶった猫を持ち上げてみせたんだ。
家の猫にそっくりだったけど、垂れ下がった四肢の他に、腹のところに
もう一本足がついてたんだ。「坊や、もう2度とあの山に行かないでくれる。
 世界が狂っちゃうから。坊やも、こうはなりたくないだろ。あと、このことは
 人に言わないで。まあ、しゃべっても、誰も信じちゃくれないだろうけど」
それから、2人は狂ったように笑い始めたんだよ。






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