子どもの話 2題

2018.06.07 (Thu)

去年の秋、保育園の年長にいってる息子の親子遠足があったんです。
妻が、どうしても仕事の都合がつかないと言うし、自分はわりと
休みを取りやすい職場なんで、いっしょに行くことになったんです。
父親が来てる子もちらほらいたんで、その点は少しほっとしました。
息子も、お母さんじゃないと嫌だ、とは言いませんでしたし。
遠足は、バスに乗って動物ランドへ行き、そこで昼の弁当を食べて、
午後はイチゴ狩りでした。ええ、息子は楽しんでましたよ。
で、その帰りのバスの中でのことです。はしゃぎすぎで、
疲れて寝てる子も多かったですね。息子もそうでした。
その寝顔を見ているうち、自分も少しウトウトしかけたんですが、
国道を走ってる途中で、自分たちの前にいる男の子の母親が、

「あのースミマセン」って、遠慮がちに引率の先生に声をかけたんです。
「どうしました?」 「こんなとこで申しわけないんですが、息子が
 どうしてもトイレって」 引率の先生は少し考えてから、
バスの運転手さんに声をかけました。その場所は、道の両側が低い山になってて、
トイレを借りられそうな建物ってなかったんです。
ややあって、バスは路肩に停まり、前のほうを押さえてモジモジしてる
男の子の手を引いて、若いお母さんが恐縮したようにバスを下りていきました。
数分して戻ってきましたが、あのほら、バスの前のドアって、
自動で開くようになってるでしょ。それが、引っかかってうまく閉まらず、
運転手さんが何度か操作して、やっと閉まったんです。
で、バスが走り出したんですが、そのとき、車内の空気が変わった気がしたんです。

うまく言えないですけど、なんとなく寒々とした感じがしたんですよ。
でね、バスが停まったことで、息子も起きたんですけど、
前の座席の背に手をかけて身を乗り出し、通路の真ん中を指さして、
「赤いお姉ちゃんが乗ってるよ」って言ったんです。
自分は息子を席に引き戻して、「赤いお姉ちゃん? 何のこと?」
そう聞いたら、「お姉ちゃんだよ、体中、真っ赤でびしょびしょの
 赤いお姉ちゃん」って。変なことを言うなあと思いました。
でも、息子だけじゃなかったんです。そのとき起きてた子どもたちが、
ヒソヒソ声で親に何か訴え始めたんです。「おねえちゃん」 「赤い」
「頭が割れてる」そういう声が断片的に耳に入っていました。
そのうち、一人の女の子が「怖いよう、幽霊がいる」って大声を上げて。

そこからは、バスの中がパニック状態になりました。
「幽霊がいるよう!」 「怖いよう!」 それまで寝てた子も起き出して、
「怖い、怖い」私も他の親も、保育園の担任の先生もあっけにとられてたんですが、
幼児にだけしか見えない何かが車中にいる・・・そう思うしかない状況だったんです。
どうなるんだろう・・・そのとき、ゴーという音がして、
車内にエアコンが入ったんです。熱風でした。そのままバスは止まらずに走り続け、
車内がだんだんに暑くなってきたんです。子どもたちが「怖い、怖い」と
言ってるところに、運転者さんのマイクが入りました。
「スミマセン、エアコンの具合がよくないようです、
 窓を開けていただけませんでしょうか」って。何人かの親が半分ほど窓を開けて、
そしたら息子が、「あ、赤い人が飛んでった」って言ったんです。

はい、窓から飛び出たみたいでした。そっちの窓際にいた園児で、
外に向かってバイバイをしてる子がいましたから。まあ、こんな話なんです。
うーん、自分には何も見えなかったのでわかりませんが、
あの、トイレの子のためにバスが停まったときに、
草原にいた幽霊か何かを拾ってきてしまったのかもしれないです。
でね、この話には後日談があるんです。
その後、保育園では、遠足の思い出を絵に描かせたみたいなんですけど、
あの帰りのバスの中での出来事・・・血まみれの女が通路に立ってるところを
描いた子が多かったみたいで、結局、絵は全部、保育園の先生が回収して、
飾ったりしなかったみたいなんです。息子に聞いたら、
「僕も描いたんだよ、幽霊の絵」こんなふうに言ってましたよ。


私、あるビルで警備員をやってるんです。朝の7時から、
夕方の5時までずっと立ってるだけ仕事です。まあね、こんな爺さんには、
それくらいの仕事しかできませんから。でね、そこの道は通学路になってて、
集団登校の小学生が毎朝通るんです。全部で7人でした。
その子たちが、いつも私にあいさつしてくれるようになって。
それが嬉しかったですね。ええ、そのビルに入ってる会社の人は、
私のことは空気みたいに思ってて、あいさつしてくれる人なんていないですから。
でね、6年生の女の子が先頭だったんです。
小学生にしては背の高い、しっかりした顔立ちの子でした。
いつも一列で歩いてくるんですが、間に小さい子たちがはさまって、
最後がおそらく5年生の男の子。

ところが、5月に入って、先頭の女の子がいない日があったんです。
そのときは何かの事情でお休みなんだろうって思ったんですけど、
それからずっとその子はいなくて、先頭が5年生の男の子に変わってしまったんです。
あれ、転校か何かしたんだろうか。気になったので、ある日、
男の子に、「やあ、お早う、いつもいた6年生の子はどうしたの?」って聞いたら、
「病気でお休みしてるんです」って答えが返ってきました。
そのときは、「ああ、早くよくなるといいな」と思ったんですが・・・
いつまでたっても、その子は列に戻ってこなかったんです。
それから2ヶ月が過ぎまして、もうすぐ学校は夏休みになる頃です。
その女の子が、列の先頭にいました。「治ったんだな、よかった」、
でも、何か様子が変だったんですよ。

その子が復帰したなら、5年生の子は最後尾に戻るはずだけど、
そうじゃなくて、男の子の前を歩いてるんです。しかも、なんだか全体が薄い感じに
見えて・・・それに、いつもは明るくあいさつしてくれてたのが、
ぐっと前を見つめたまま滑るように動いてて・・・
それにね、ときどき、男の子と体が重なったりするんです。
もしかして、この世のものじゃないのかって思いました。
毎朝通るたびに、おかしいことは明らかだったので、また、男の子に聞いたんです。
「休んでた子は、治った?」 そしたら、「それが・・・病気が悪くなって、
 死んじゃったんです」こういう答えが返ってきました。
でね、本人の幽霊?はすぐそこにいるんですよ。でも、
私たちの話は聞こえてないみたいで、列が止まったので自分も立ち止まってるんです。

ああ、気の毒だなって思いました。幽霊になっても、
集団登校の先頭を歩かなきゃいけないと思ってるんだとしたら、
これは気の毒な話ですよねえ。でもね、私は別に霊能者でもなんでもないし、
なぜ私にその子が見えるのかはわかりませんが、
何にもしてやることができなくてね。
そうしてるうち学校が夏休みになって、また始まる9月の日のことです。
あの子の幽霊がどうなったのか、気になりますよね。
で、集団登校の子らがやってきたんですが、あの子、まだいたんです。
前に比べれば、かなり薄くはなっていましたが、やはり先頭にいて、
前をまっすぐ見つめて歩いてる。責任感の強い子なんだろうなって思って、
可哀想でしかたなかったんですが・・・

それから数日たった朝のことです。また、幽霊の子を先頭に、
集団登校の子どもたちがやってきました。でね、そのとき、前のほうから、
袈裟を着たお坊さんの集団が歩いてきたんです。
どこかのお寺さんの人たちなんだろうと思いましたが、
一番前にいたかなりの高齢のお坊さんが、歩きながら数珠を取り出しまして、
集団登校の子どもたちとすれ違うときに、幽霊の女の子の頭をさっとなでたんです。
そしたら、かなり薄くなってた女の子は、その瞬間にかき消えてしまいました。
私が思わず、「あっ!」と声を出したら、それが聞こえたようで、
偉いお坊さんは立ち止まりました。私はどぎまぎしながら、
思わず、そのお坊さんに礼をしたんですが、そしたらお坊さんは、
私のほうに向き直って合掌し、歩き去っていったんです。






関連記事
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/1496-f6c420e9
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する