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光免疫療法について

2018.06.13 (Wed)
赤い光で化学反応を起こす薬剤をがん細胞に取り込ませ、
がん遺伝子の一つ「N(エヌ)RAS(ラス)」を狙い撃ちにする実験に成功したと、
甲南大(神戸市)の研究グループが11日発表した。
がんの増殖に関わるNRASたんぱく質が大幅に減少し、
ほとんどのがん細胞が死滅したという。論文は同日、
英オンライン科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。

研究グループは、NRASたんぱく質の設計図となるメッセンジャーRNA(mRNA)
という分子が「四重らせん」と呼ばれる特殊な構造を持ち、
赤い光で反応する薬剤「ZnAPC」が結合することを突き止めた。
この薬剤はがん細胞に集まりやすく、赤い光を当てるとNRASのmRNAが破壊され、
がん細胞が死滅した。多くのがん細胞ではNRASが異常に働いて細胞を増殖させている。
実験の成功で、患者への負担が少ない新たながんの
治療法につながる可能性が示された。
(毎日新聞)



今回は科学ニュースからこのお題でいきます。当ブログではこれまで、
あまり医療関係の話は書いていませんが、それは、もし間違いがあった場合、
読まれている方への影響が大きいと思ったからです。
ですから、この記事も、もし自分が間違えている部分があれば、
コメントで指摘していただけたらありがたいです。

さて、上記の治療法は、アメリカ国立癌研究所(NCI)の主任研究員、
小林久隆医師が開発した「光免疫療法(PIT)」のバリエーション的な技術と思われます。
まず、光免疫療法について書いていきます。これまで、癌の治療法は、
手術療法(内視鏡含む)、放射線療法、化学療法(主に抗癌剤)の3つが柱でしたが、
光免疫療法はこれらとはまったく作用機序の異なるものです。

光免疫療法は2つの方法論から成り立っています。一つは、
癌細胞に比較的発現の多いEGFR(上皮成長因子レセプター)に
結合する抗体(セツキシマブ)に、光(近赤外線)が当たった時だけ反応する物質
(光感受性物質 フタロシアニン)を人工的に結合させます。
そして、その液体を血管注射して癌細胞まで届かせます。

で、近赤外線(テレビのリモコンなどに使われる赤い光、
可視光線に近く人体には無害)を癌細胞に照射すると、光があたっている部分の
癌細胞が化学変化によって破裂し、死滅していきます。しかしこれだけだと、
光があたった部分しか治療できないことになりますよね。
(数mmは表面下にも浸透するようです。)



二つめは、癌細胞が上記のように破裂することにより、細胞の内容物が外にばらまかれ、
人間がもともと持っている免疫細胞が、その癌を敵と認識し攻撃できるようになります。
そして、癌の原発巣から離れた転移巣にまで到達し、それらも破壊していく。
しかも、免疫細胞は敵の特徴を覚えているので、再発を防ぐワクチン的な役割も
はたすことになるんですね。ここがまさに、名前に「免疫」がついているゆえんです。

癌がやっかいなのは、転移があるからです。現在の医療技術では、
全身に転移してしまった癌を治すことはできません。せいぜい抗癌剤で癌の成長を
抑えるくらいしかないんですが、光免疫療法は、特に二つめの効果から、
「夢の治療法」などと言われてきました。

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現在、アメリカでは治験の2段階が終了し、日本でも治験が開始されています。
トマスジェファーソン大学の発表例によると、末期頭頚部がんの患者
7名が臨床実験を受けた結果、4名は、1ヶ月後には腫瘍がなくなり、
三ヶ月後には皮膚も回復し、再発もせずに1年以上生存しています。

1名は現在治療中で生存。1名は副作用により死亡、1名は癌が骨髄内にまで
達していたので、治療が不可能だったということでした。
その後の治験の結果もネットに出ていますので、
興味を持たれた方は参照してみてください。

で、これらの治験によって、光免疫療法の持つ弱点も明らかになってきました。
まず、「現状では、EGFRを持たない癌細胞には効果がないこと」
しかし、他の受容体などの分子に結びつく抗体を探すことによって、
これは解決できるかもしれません。上記引用の甲南大の研究は、
まさにそこをねらったもののようです。

次に「光は癌細胞の表面にしかあてることができないこと」現在の治験は、
すべて再発した頭頸部癌に対してのものです。これは患部を切り開いたり、
内視鏡を使ったりしなくても治療を行うことができるからです。
では、体の奥深くにある癌はどうやって治療するのか。

これは、内視鏡や細い針に光照射装置をつけて患部まで挿し込む、
外科手術で開腹して、膵臓等の臓器に直接照射するなどの方法があるでしょう。
また、分厚い癌の塊に対しては、近赤外線を光ファイバーに流して、
癌の内部に挿し込んで照射するなどの方法が考えられます。



さて、副作用のほうはどうでしょうか。癌は浸潤といって、
まわりの臓器や血管、神経などを巻き込んで広がることがあります。ですから、
近赤外線をあてて、癌細胞が破壊されるときの痛みは相当あると思います。
また、癌細胞が臓器や血管の壁の役割をしている場合、癌細胞が壊れると、
臓器や血管に穴があいた状態になってしまいます。
それに、癌は自分に栄養を運ぶ新しい血管もつくります。

上記の臨床試験での副作用死も、癌が壁の役割を果たしていた頸動脈が、
癌細胞が崩れたことで破れ、大量出血による失血死をしたものです。
ですから、光の照射にあたっては、麻酔を使用し、
患部の状態を見極めながら、慎重に行っていく必要がありそうです。

さてさて、ここまで見てきて、みなさんはどう思われたでしょうか。
現在のところでは、光をあてただけですべての癌が消え去る
夢の治療法というわけではないようです。また、少ないと思われていた
副作用も、重大な結果をもたらす場合があることが確認されました。

で、自分の感想としては、これは工夫しがいのある治療法だなあということです。
上記引用の甲南大の研究もそうですが、癌細胞が持つ分子的な特徴は
さまざまにあるので、結びつけることができる抗体も、世界中で研究を進めれば、
いろいろなものが出てくる可能性が高いでしょう。

また、患部に挿し込んで光を照射するための光学的な技術、これも、
特殊な形状の光ファイバーなど、かなり工夫改善する余地があると思われます。
あるいは、近赤外線以外の周波数の電波も使えるのかもしれません。
現在、日本人の2人に1人が癌になり、3人に1人が癌で死亡しています。
このような研究が、世界中で進められ、画期的な治療法が早く
癌患者のもとに届くようになればいいですね。では、今回はこのへんで。

(クリックで拡大できます)





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