あるファミレスの話

2018.06.18 (Mon)
フリーのイラストレーターをしている根本さんの話。
3年ほど前、まだ学生だったころですね。あるチェーン店のファミレスで
バイトしてたんです。最初は調理補助、まあ皿洗いなんですけど、
それで入って、1年ほど続けたらレジ係に昇格したんです。
レジ係はずっと立ちづめだけど、皿洗いよりは楽でした。
やっぱ、洗剤を使ってると手荒れするんですよね。でね、調理場を出て、
店内をずっと見ていられる位置にいたんで、奇妙なことに気がついたんです。
毎月の5のつく日です。ええ、5日、15日、25日の3日ですね。
店に変なものが来るんですよ。いや、変なものとしか言いようがないんで・・・
まず最初に異変があったのは、ある月の5日の日でした。
店の窓際の奥のほうのテーブルで、時間は夜の9時ころでしたね。

その席にいたのは、両親と、中学生と小学校高学年にみえる男の子2人。
ちょうど4人がけのテーブルに座ってたんですけど、ちらっと目線をやったとき、
なんか妙な気がしたんです。「あれ?」と思ってもう一度見直すと、
まだ料理が運ばれてないテーブルの上に、頭がのってたんです。
「え、え?」じいさんの頭でした。最初は、生きた人間だと思ったんです。
そのじいさんがイスに座らないで、しゃがんでテーブルの上にアゴをのせてるって。
でも、そんなことをする意味がわからないですよね。
まさかそのじいさんだけ家族の中で虐待されてるわけじゃないだろうし。
それとね、じいさんのいる場所って窓の前なんです。
で、窓とテーブルはギリギリにくっついてる。
だから、どうやってもそこに人が入れるはずはないんです。

いや、そのときは怖いとは思いませんでした。幽霊とか、そういうものが
いるはずはないと思ってましたから。だから、次に考えたのは、
その家族が、何かの事情でロウ人形みたいなのの頭をテーブルの上に置いてる
ってこと。そういうことだってないわけでもないですよね。
例えば、映画とかお芝居の小道具かなんか。そう考えてたら、
うつ向いて、ハゲた頭頂部を見せていたじいさんの頭が、
ぐうっと持ち上がって、顔がこっちを見たんです。「!?」
ええ、生きた人間にしかみえませんでした。それで、じいさんの表情なんですが、
なんとも邪悪というか、絶対にそばに寄りたくないようなイヤーな顔で。
でね、しばらくして料理が運ばれてきたんですけど、ウエイトレスがじいさんの
頭の上にドンとステーキの皿を置いて・・・

ええ、じいさんの頭とステーキの皿が重なったってことです。
料理を運んできたウエイトレスは何も気がついてないみたいだったし、
その家族もね、じいさんの頭なんかまるでないようにして、料理をばくばく食い始めて。
で、そのときにやっと、「これって、俺だけにみえてるんじゃね」
って気がついたんです。「もしかして幽霊かなんかか?」
それでもね、怖くはなかったですよ。だって、店内は明るくて、
お客さんもたくさん入ってましたから。でね、確かめてやろうと思って、
少しの間レジから抜け出して、調理場のほうへ戻ってきたウエイトレスに、
「今、料理運んだテーブルの上に、何か変なものがのってなかった?」って、
聞いてみたんです。でも、ウエイトレスは、
「えー、気がつきませんでした」って言うだけだったんです。

あ、俺ですか。霊感があるって言われたことはないです。
だからね、何で俺だけに見えたのか、それは今もって不思議ですよ。
でね、仕事をこなしながらも、そのテーブルを注意して見てたんです。
そしたら、家族4人がだいたい料理を食い終わったあたりで、
じいさんの頭がふうっと宙に浮いたんです。そしたらやっぱり体はなくて。
じいさんの頭は4人家族の上をわりと速い動きで漂ってましたが、
中学生の子の後ろに行くと、前歯をむき出して、その子の首筋に歯をたてたんです。
いや、その子はぜんぜん気がついてないみたいでした。
それで、1分もたたないうち、じいさんの頭はふっと消えたんです。
で、その日はそれ以降、2度と現れることはなかったです。
不思議には思いましたよ。疲れてるせいで幻覚を見たのかって。

でも、あんなにはっきりした幻覚ってのもねえ。で、翌日以降は何もなかったんです。
だから、気にしないようにして、だんだん忘れていきました。
でね、15日の日です。時間も同じ9時ころ、ふっと気がついたら、
そのテーブルにまた頭があったんです。ああ、5のつく日にそれが出てくるってのは、
もっと後になってわかったんですけど。そのテーブルには、
サラリーマンらしい4人組が、つまみをとってビールを飲んでまして。
それで・・・テーブルの上にあった頭は、こないだ見たじいさんより、
なんか若くなってるように思えたんです。そうですね、最初が70代だとしたら、
2回目は50代ってところでしょうか。でも、同一人物だってことはわかりましたよ。
その後は、この間と同んなじです。4人の飲み食いがだいたい終わったあたりで、
その頭が宙に浮きあがり、中の一人の首筋に歯をたてて消える・・・

でね、その4人は、俺のところに会計に来たんです。そしたら、頭に歯をたてられた
サラリーマンは、首を回しながら、「なんか肩がこるなあ」とか言ってて。
後ろを向いたときに、首筋が赤くなってたんですよ。ね、奇妙な話でしょう。
でもね、絶対に幻覚じゃないって自信もあったんで、仕事が終わったときに、
思い切って店長室に行って、見たことを店長に話したんです。
最初は、店長は「何を馬鹿なことを」って顔で聞いてたんですけど、
俺ほら、美術学校に行ってたでしょ。で、似顔絵は得意なんです。
それで、メモ用紙にサッサッと、70代と50代の頭の顔を書いて見せたんです。
そしたら、急に店長の顔色が変わりまして。「ああ、これもしか・・・」
何か心あたりがあるみたいだったんですけど、
それが誰なのか、俺には教えてはもらえませんでしたね。

で、店長はね、翌日から、そのテーブルの下に薄く塩をまいたんです。
お客さんにはわからないくらいうっすらと。それで、10日後の25日の日ですね。
やはり9時ころ、気がついたらそこのテーブルの上に顔がのってました。
ええ、やっぱり若返ってましたよ。30代に見えるくらいに。
もちろん同じ人物だと思いました。それで、すごい怒ってたんです。
ええ、前までは邪悪な顔って言いましたけど、そのときは明らかに激怒した顔で、
四方八方店の中をねめまわしてたんです。で、そのテーブルはたまたま
空いてて、お客さんはいなかったんです。俺、怖くなってきて、
店長に知らせに行きました。「またあのテーブルに顔が来てます」
そしたら、店長は意を決したように、塩をひとつかみ持って、
そのテーブルに近づいてって。俺はそれ、離れたレジから見てたんですけど。

店長は、他のお客さんに気づかれないよう、塩をテーブルの上に置いて、
手のひらで伸ばし始めたんです。で、その手が顔にかかりそうになったとき、
顔はぐんと天井近くまで浮き上がって、そっから急降下して、
店長の首筋に頭突きするようにぶちあたったんです。
顔はそこでパッっと消えて、店長が前のめりにテーブルに突っ伏しました。
でも、何事もなかったように立ち上がって、俺のほうにもどってきて、
「どうだ、顔は消えたか?」って聞いてきたんで、「はい」って答えました。
いや、店長に頭突きをかましたことは言いませんでしたよ。
うーん、店長本人が気味悪いだろうと思ったんで。それから、
その日の終わりころ、店長が具合悪いって言い出し早く帰って、
翌日から体調不良ってことで、ずっと店に出てこなくなったんです。

ええ、もちろん、あのことと関係があるんだろうって思ってましたよ。
俺も、バイト辞めようかなって考えたんですけど、なんとなく踏ん切りがつかずに
ズルズルと続けてて。で、翌月の5日のことです。時間はやっぱ9時。
そのテーブルには、近くにある看護学校の若い女性たちが座ってたんですが、
その真ん中にダルマみたいなものが出現しました。ダルマってのは・・・
下が店長の顔なんです。うつ向いて目をつぶって涙を流してました。
その上に、店長の頭にガッと噛みついた10歳くらいの男の子の顔。
満面に笑みを浮かべて、楽しそうに店長の頭をかじってたんです。
ええ、そうです。店長が亡くなったという知らせは、翌日に届きました。
その後は・・・どうなったかわかりません。その日のうちにバイト辞めたんで。
二度とそのファミレスには足を踏み入れてないんですよね。






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