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呪歌の話

2018.08.08 (Wed)
これ、最近、私の身に起こったことなんです。
はい、順を追って話をさせてもらいます。
教育大学の3年生です。小学校の教員免許を取ろうと思ってます。
それで、ピアノの演習があるんです。まあバイエル程度なんですけど。
ただ、私は子どものころに習ってたわけでもなく、
手先も器用じゃないので苦戦してました。
それで練習のために、毎日夜、大学のピアノ室に通ってたんです。
家にもキーボードは買って持ってて、ヘッドホンをつけて練習はしてますけど、
やっぱり、鍵盤の間隔やタッチがピアノとは違うんです。
1ヶ月ほど前のことでした。その日、午後4時ころからピアノ室にこもってたんです。
大学のピアノ室は、2畳もないようなせまい部屋が15ほど並んでいて、

そこにアップライトピアノが入ってます。いちおう防音にはなってるんですが、
なにぶん古い建物なので、両隣の音もかすかに聞こえてきます。
だから、私がたどたどしく弾いてる横で、
音楽専攻の人がラフマニノフなんかを演奏してたりするんです。
恥ずかしいので、なるべく目立たないように出入りしてました。
それで、ピアノ室の使用は8時までと決められてたので、
その10分前に練習を終えて、ドアが並んだ廊下を歩いてました。
そしたら、私が使ってた2つ隣の部屋から、歌のようなのが聞こえてきたんです。
ええ、それ自体は珍しくはなくて、さっき話した音楽科の人が、
声楽の練習をしてることもありました。ただ、そのときの歌は、
ピアノもいっしょに聞こえてきたので、弾き語り・・・

と言っていいのか、聞いたこともない音調でした。
うまく説明できません。日本的・・・なんですが、かといって雅楽とか、
琴で演奏するようなのとはぜんぜん違った荒々しく暗いメロデイで、
しかもズン、ズンと鍵盤を叩きつけるようなリズムがあって・・・
思わず立ち止まってしまったんです。そしたら、ピアノに合わせてこんな歌が
聞こえてきました。「ししじもの きりくわう ししじもの ひれふす きりくわうああ」
日本語のようですが、意味がまったくわからない歌詞をつぶやくように。
ああ、つぶやくって言いましたが、ドア越しに聞こえてくるんだから、
実際は大きな声で歌ってたと思うんですけど。
なんだか魅入られたようで、私はその場から動くことができなくなっちゃったんです。
「きりくわうあ ししじも ついぶし ついぶしうあ」

急に強い頭痛がしました。思わずしゃがみこんでしまうくらい。
ふつう頭痛って、どこが痛いか、後頭部とかぼんやりとしかわからないじゃないですか。
それがそのときは、額の両側の上、左右の髪の中にキリを刺したような感じでした。
私は、「痛たたた」と声を出しながら、頭を押さえてピアノ室のある棟から
出たんです。そしたら、痛みはいつの間にかなくなってて。
でも、ありえないような痛さだったので、もし次起きるようなら、
病院に行かなくちゃって思いました。そのときはそれで自転車で家に戻りました。
私、自宅通学なんです。自分の部屋で、できたばかりの彼とメールをしたりして、
11時ころです。さっきピアノ室で聞いた歌が気になってきて。
それで、キーボードを出して再現してみようと思いました。
もちろん、ちょっと聞いただけだし、私は音楽の才能はないので、

こんな感じだったかなあ、というさぐり弾きです。
低音をドン、ドンと叩くような感じで「ししじもの・・・」これも、正確に覚えてた
わけじゃないんですが、「ししじも」 「きりくわう」の言葉は記憶に残ってました。
そしたら、最初の声を出しただけで、私の頭ががくんと落ち、
鍵盤に額をぶつけてしまったんです。さっきの頭痛がまた始まって、
手で頭を抱えたら、髪の毛の中に尖った固いものが触ったんです。
「え、何??」変な例えですが、コンペイトウほどの大きさの突起が
頭の両側にあったんです。とにかくひどい頭痛で、私は倒れ込むようにベッドに
横になりました。そうして、20分くらい横になっていると、
頭痛は治まり、突起のようなのもなくなってました。
翌日、大学に行くと、友だちからこんな話を聞かされました。

さっき話した彼のことです。彼とは別の大学で、コンパで知り合ったんです。
「ねえ、こんなことを言って悪く思わないでね。あんたの彼、
 噂を耳にしたんだけど、前の彼女と別れたときに、その子がショックでおかしくなって、
 彼を刺そうとして事件になったんだって。
 それで大学をやめて、今は実家に帰ってるみたい」こんな内容でした。
でも、私は信じなかったっていうか・・・別にそうだとしても、
かまわないと思いました。だって、彼は優しいし、今は私の彼なんだし。
その週の土日は、彼とデートして思いっきり遊びました。
もちとん、友だちから聞いた話を確かめるなんてことはしなかったです。
で、翌週です。ピアノの授業は火曜なので、月曜の午後はまたピアノ室にいました。
私にしてみれば難しい曲を、悪戦苦闘して弾いてると、

あの「ししじもの」の曲が聞こえてきたんです。いえ、壁ではなくドアの外から。
歌だけです。伴奏はなしで大声で歌ってる・・・それを聞いた瞬間、
わけがわからなくなりました。ガツン、ガツン、私は何度も自分から、
ピアノの蓋に頭をぶつけてたみたいです。白い鍵盤が血に染まって、
私は床に崩れ落ち、なんとかドアを開けて部屋から這い出して・・・
「キャー」という悲鳴を覚えてます。誰か廊下を通りかかった人が血まみれの私を見つけて、
救急車を呼んでくれたんです。病院では頭を何針も縫ったみたいでした。
ただ、幸いなことに顔ではなく、髪の毛の中だったんです。
頭を包帯でぐるぐる巻きにされましたが、傷そのものはたいしたことはなく、
2日後には退院できるみたいでした。両親がその晩はついててくれましたが、
そうしてケガをしたか、問いに答えることができませんでした。

翌日の午前中、彼が病院に来てくれたので、あったことを話しました。
すると彼は、顔をくもらせて、「ああ、きりくわうって、俺の地元のほうで伝わってる
 呪いの歌の歌詞なんじゃないか」 「呪い?」 「心あたりがある。
 俺の元カノ、話してなかったけど、あんまりいい別れ方してないんだよ。
 同郷で、今は地元に帰ってるんだけど、もしかしたらお前のことを呪ってるのかも」
こう言われても信じられなかったです。けど、わけのわからない形で
ケガをしてるのも確かだし。彼はかなり考え込んだ後「あした俺のおばさんに来てもらう。
 おばさんは地元で神職をしてて、女なのに次の宮司になるかもしれないって
 言われてるんだ」 退院する日、彼がそのおばさんを連れてきてくれました。
 地味な服装の、40代くらいの方でした。髪が腰くらいまで長いのを除けば、
 ふつうの人に見えました。私がこれまでのことをすべて話すと、

おばさんは「怖い怖い、素人が呪歌を使うなんて」と言い、続けて、
「次にその歌を謳う者がいたら、そのほうに向かってこれを掲げなさい」
それで渡されたのが、絹布に包まれた鏡のかけらでした。今の鏡とは違って、
ガラスではなく全部金属でできてて、鈍い光を放ってました。一枚の丸い鏡を8つに
割ったうちの一つだそうです。おばさんは、彼に、私とできるだけいっしょにいるように言い、
帰っていかれました。退院した翌日から、彼は私の家に遊びに来てくれ、
大学の授業が終わるころに迎えに来てくれました。始終いっしょにいることで、
彼の人柄がわかり、女の子にひどいことをする人とは思えませんでした。
そうやって、10日近くがすぎ、その間おかしなことは起こらず、
頭の傷の治療も終わったんです。で、またピアノの練習があり、
彼がピアノ室についてきてくれました。下手なピアノで恥ずかしかったんですが。

8時前に終わり、彼と自転車置き場に向かっているとき、
急に傷跡が傷んでしゃがみ込みそうになりました。「ししじもの きりくわう」
歌が聞こえました。「おい、○○、やめろ」彼が叫んだほうをかろうじて見ると、
植え込みの中に白い着物の女が立ってました。女はだらんと両手を下げ、
白目を剥き、口をありえないほど開けて歌ってたんです。「ししじも きりくわうあ」
彼がそちらに駆け寄っていきました。私はいつも持ってた鏡片をバッグから出し、
その女に向けたんです。「ああああ」女は叫び、白い布を巻いた頭の中から、
ズンと角のようなものが伸びました。女は、彼がつかもうとする直前、
身をひるがえし、走って逃げていきました。そのときには、
後ろからも見えるほどに、角は長く伸びていました。これで話は終わりです。
その後、女がどうなったかもわからないし、何も起きてはいません、今のところは。 






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