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記憶の書き換えってできる?

2018.08.09 (Thu)
自転車に初めて乗れたときの気持ちを、あなたは覚えているだろうか。
初めてキスをしたときや、初めて失恋したときはどうだろう。
そうした記憶と感情は、わたしたちの心に長い間残り、蓄積され、
わたしたち一人ひとりが形成されるもととなる。

一方、深刻なトラウマを経験した場合、恐ろしい記憶は人生を変えて
しまうほどの精神疾患の原因ともなりうる。しかし、
もし恐ろしい記憶がそれほど強烈な痛みをもたらさないとしたらどうだろうか。

人間の脳の発達に関する理解が深まりつつある今、
PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病、アルツハイマーといった疾患で、
記憶を書き換える治療法が少しずつ実現に近づいている。

(National Geographic)

heheiao (1)

今回は科学ニュースから、この話題でいきたいと思います。
ただ、この話もかなり難しいんですよねえ。まず、「記憶とは何か?」
ということですが、Wikiには「ものごとを忘れずに覚えていること。
また覚えておくこと。」と出てきます。
 
なんだ、そんなのあたり前じゃないか?と思われたんじゃないでしょうか。
記憶についての研究が難しいのは、ある人の記憶を取り出して、
実際に見ることができないからですね。
ただ、いろいろ研究の方法はあるとは思います。

例えば被験者に、寝る前に英単語を20個暗記させる。
そして翌朝、どれだけ覚えているかを調べる。また、翌日の朝には、
どれだけ頭に残っているか、そういう形で研究することはできますよね。
ただし、これはあくまで記憶の持つ一つの面に過ぎません。



では、もっと複雑な記憶についてどうやって調べるのか?
ここで、魂がどうとか言いだすと混乱するので、
記憶はすべて脳の活動によるものであると仮定しましょう。
そうすると、ある出来事を経験する前と後では、脳内に変化があるはずです。
その変化を調べることで、記憶というものに迫ることができそうです。

このような脳の変化を、「記憶痕跡 エングラム engram」と言い、
特定の記憶に関係する脳組織の物理的な変化を指します。
最近、脳の血流や電気的な動きのスキャンによって、
記憶痕跡は、脳のひとつの領域に孤立しているのではなく、
神経組織に広く飛び散るように存在していることがわかってきました。

つまり、記憶は脳のある一部分にしまい込まれているんじゃなく、
視覚、聴覚、触覚、運動、感情などをそれぞれつかさどる脳の各部に、
まるで網をかけるように広がっているということなんですね。
記憶は、脳全体におよぶ総合的なものだということです。



これは理解しやすいと思います。みなさんは、例えば、若い頃に流行っていた、
カセットテープなんかでよく聞いていた歌をたまたま耳にして、
その頃の思い出がばーっとよみがえってきたりすることはないでしょうか。
こんなのは、聴覚による記憶が感情と結びついている例です。

ですから、PTSDなどでは、心的外傷を負うことになった出来事を思い出すと、
それと同時に、そのときの恐怖や不安なども同時によみがえってきて、
ショック状態におちいり、パニックを起こして、
まともに日常生活を営むことができなくなったりします。

さて、今回の研究はマウスを用いて行われたようです。
オスのマウスの群に、楽しい出来事と苦しい出来事をどちらも経験させる。
具体的には、楽しい出来事はケージの中でメスと1時間いっしょに過ごさせること、
苦痛な記憶は、別なケージで体を拘束するなど不快な経験をさせること。

マウスでの実験ケージ
heheiao (2)

その後、マウスの脳でそれぞれの記憶にかかわる部位を特定し、
研究者が電気刺激などによって操作できるように手術を施します。
その上で、苦痛な記憶のケージの前にマウスを連れていき、
楽しい記憶の脳の部分を刺激して記憶の上書きをする。

すると、マウスは苦痛のケージを目にしても、
以前ほど強く恐怖を感じなくなるという結果が出たようです。
うーん、これはかなり微妙な実験ですね。
研究者はこれについて、恐怖の記憶が完全に上書きされるのか、
それとも抑制されるだけなのか、どちらかはよくわからないと述べています。

さて、では、これがどのように治療に役立つのか?
日本は、PTSDで苦しむ人は多くはないですよね。それは、治安がよく、
凄惨な事件などが少ないということもありますが、
一番の理由は、日本が戦争をしない国だからです。



アメリカでは、映画の『ディア・ハンター』などに見るように、
戦争を経験した元兵士がPTSDに苦しむケースがたいへん多いんです。
そういう人たちに対して、戦争時の記憶から、苦しくつらい感情が
呼び起こされないないよう、別の記憶で上書きしてしまう。

でも、それって倫理的な問題点はないんでしょうか。
いくら戦争で、上官の命令、兵士の義務、国のためであっても、
人を殺したりした人間が、そのことによって苦しまなくてもいいものなのか。
一生涯背負っていく必要はないのか。苦しむことにより許しがあるのではないか。
これは、キリスト教的にもなかなか難しいところがあるように思います。

さてさて、本項では記憶の書き換えを脳外科的な方法で行う事例を
見てきましたが、将来的には、化学的に合成された薬を飲むことで、
記憶の書き換えができるかもしれません。
PTSDで満足に日常生活もできないような人には、朗報になるでしょう。

みなさんもそれぞれ、人生の中で苦痛な記憶というのはあると思いますが、
ではそれ、できるものなら消してしまいたいでしょうか?
苦しいこと、つらいこと、嫌なこと。でも、それもみなさんの生きた記録
なんですよね。ということで、今回はこのへんで。

関連記事 『人間の行為、機械の行為』

heheiao (3)





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