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長い子どもの話

2018.09.02 (Sun)
先週の金曜のことでした。会社の帰りです。私はふだん電車で通勤してるのを、
その日はバスで帰ることにしたんです。ええ、仕事がたて込んですごく疲れてて、
バスだと定期は使えないんですが、混んでないので座っていけるし、
バス停も住んでる部屋の近くにあるんです。歩きたくなかったんですね。
それで、バスに乗ってみると、予想どおり座席は3分の1も埋まってませんでした。
長く乗るので、後ろのほうに座りました。
そしたら、そのときになってはじめて、熱っぽい感じがするのに気がつきました。
風邪だろうか。でも幸い、土日は休みだし。そう思って目をつむりました。
どのくらいたったか。うつらうつらしていると、顔に風があたる感じがして
目を開けました。そしたら、なんだかバスの中の空気が変な気がしたんです。
うまく説明できないです。空気がよどんでる・・・にごってる・・・

どっちもちょっと違いますね。ふるふるした寒天ゼリーの中に入り込んでるみたいな。
とにかく空気が重かったんです。でも、風邪のせいだろうと思いました。
もう病院はやってないし、部屋についたら薬を飲んですぐ寝てしまおう。
そう考えて一度目を閉じ、また目を開けると、通路に変なものがいたんです。
「え!」と思いました。だって、ほんの一瞬前、何もなかったのに。
しかも、すごく違和感のあるものだったんです。
子ども・・・ですね。身長の感じからは小学2,3年くらい。
後ろ姿だったので、そのときは顔はわかりませんでした。
頭は坊主で、しかも着物を着てたんです。青っぽい地に細かい模様が入った。
いえ、浴衣なんかじゃなく、もっと地味な・・・
そうですね、野良着って言えばいいのかもしれません。

ぱっと見の印象は昔の子どもです。それと、手に虫かごみたいなのを持ってました。
竹で編んだものです。で、その中が光ってたんです。黄緑と青の光。
それがゆっくりと明滅して、まるでホタルみたいに。
でも、そんな2種類の色のホタルなんていませんよね。
その子は、バスの通路の中央付近にまでいくと、胸の前に虫かごを持っていって、
フタを開けたみたいでした。ええ、それは見えなかったんですが、
車内に黄緑と青の光がふわっと舞ったんです。本物のホタルみたいに
不規則に飛んで・・・ここで、おかしいことに気がつきました。
席はあちこち空いてるんだし、子どもが通路に立ってるのなら運転手さんが
注意するだろうって考えたんです。でも、運転手さんどころか、
乗客の誰もその子に気がついていないみたいで。

それから、急にバスの照明が暗くなった感じがしました。
ホタルのように見えるものは空中で散らばって八方に分かれていき、
もちろん座席でよくはわからなかったですが、私には、そのときの乗客の一人ひとりに、
ホタルが一匹ずつ近づいていったように思えたんです。
あと、そうですね。思い出してみると、黄緑のホタルが多くて、
青が少なかった気がします。で、私のほうにも一匹の青いホタルがゆっくり飛んできて、
肩に降りようとしたので、とっさに手で払いのけました。
そしたらホタルは手にはあたらず、振った手のひらの勢いで床に落ちました。
でも、ほんとうにホタルか確かめることはできませんでした。
淡雪みたいに消えちゃったんです。するとそのとき、子どもが振り向いたんです。
顔に横のしわがたくさんあって、小さな目と口がしわに埋もれるようにして・・・

思わず、「キャッ!」と小さく悲鳴をあげてしまいました。頭の中に声が響いてきました。
いえ、意味だけが伝わってきたっていうか。「せっかくの恵みをムダにするものでないよ」
こんな内容だったと思います。それから、私のほうに子どもが歩み寄ってきて、
顔が急に伸びたんです。上にも下にも伸びて、身長と同じくらいになった頭が、
ゆらんゆらんと揺れて・・・それが限界でした。私は近くの降車ボタンを押し、
目をつむって頭を抱えました。しばらくして、バスが停まったので、
目を開けると、それはまだいたんです。頭はバスの天井につき、
アゴは床について、その分というか、体が細くなってました。私は、
「降ります」と叫んで立ち上がり、そのものの脇を目をつむってすり抜け、
途中のバス停におりました。そこからバスのほうを見上げると、
窓際に座ってる乗客のところで、青や黄緑の光がまたたいていました。

ますます熱が上がったみたいで、立ってるのもやっとだったので、
そこからはタクシーで部屋まで戻りました。部屋で熱を測ったら39度を超えてて、
そのまま薬を飲んで寝たんです。ものすごく具合が悪くて、
土曜日は1日中ダウン。なんとか水分だけは摂ってましたが、
やっと熱が下がったのが日曜の午後だったんです。
・・・私の乗っていたバスが事故を起こしてるってわかったのは月曜日でした。
ニュースで続報をやってたんです。あの金曜日、私が降りた後、
運転手さんが心臓の発作を起こし、バスが横向きになったところに後続車が追突、
さらに対向車も衝突して、死者が4人出る大事故になっていたんです。
あのおかしな子どもとホタルのせいなのか?でも、もうそのときには、
あれが現実にあったこととは思えない気もしたんです。

ええ、ここまでなら、私が熱にうかされて見た夢かもしれないですよね。
バスの事故はたまたまで、私は運がよかった・・・でも、続きがあるんです。
私の会社の同僚に、ある神社の娘さんがいるんです。
あれは水曜かな、その人と昼休みに食事をしに出ました。
そのとき、バスの中での話をしたんです。そしたら、最初は黙って聞いてたんですが、
子どもの顔が伸びたというところで、私の話をさえぎって、
「それ、悪いものだよ。私ほら、神社育ちだから知ってるけど、
 顔が伸びるものって、すごくよくないもののけだから。昔、見たことがあるんだ」
こんなことを言い出したんです。「お祓い受けなきゃダメだよ。それ、また来るよきっと」
でも、その実家の神社は遠くて、すぐに行けるところじゃなかったんです。
それを言うと、「じゃあ、実家から連絡してもらうから、

 明日の午前、年休とって○○神社でお祓いしてもらってきなよ」
この○○神社というのは、会社のある街の郊外の、わりに大きな神社なんです。
私が「でも、そんなことで」と言うと、「そんなこと、じゃないよ。
 バスの事故、4人も亡くなってるんでしょ。命にかかわるから」そう説得されて。
それで、朝、○○神社に行き、社務所に顔を出すと、「話は伺ってますから」
社殿に上って、かなり長いお祓いをしていただきました。その帰り、
「当社は龍神様を祀ってますから、これを当分肌身離さずお持ちください」
青銅製の龍の置物をいただいたんです。それから2日後の土曜日です。
それまで何事もなかったんですが、龍の置物はバッグに入れて持ち歩き、
寝るときはベッドの枕元に置いておきました。
その夜です。胸が重くて目を覚ましました。といってもまだ目はつむったままです。

ゆん、ゆん、と何かを揺らすような音が聞こていました。
金縛りっていうんですか、体は動かず、でもなんとか目は開けられそうでした。
ですが、たぶん目を開ければ、見たくないものを見てしまう・・・
ゆん、ゆん、ゆん、ゆん、思い切って目を開けると、真ん前に長いものがありました。
長さ2mもある、しわのよったバナナ・・・もちろん、目に入ったのはその一部だけですが、
頭の中に全体像が浮かんだんです。「食べなよ、食べなよ」声が流れ込んできて、
バナナの横についた短い手が、青く光るものをつまんでいました。
バスの中で見たホタル!? 「食べなよ、食べなよ、食べなよ」
手はそのホタルを私の口元に押しつけ、ゆん、ゆん、と長い頭全体を揺らしました。
唇がめくれ、生米のような感触が歯にあたって・・・
「そうだよ、食べなよ、食べなよ、食べなよ」そのとき、私の頭のほうで、

カツーンという大きな音が聞こえました。何が起きてるのかわかりませんでしたが、
ぐんと私の上にせり出してきたのは、巨大な龍の頭だったと思います。
カツンというのはアゴを打ち合わせた音で、「俺が食べられたあ!」という声を残し、
長い子どもの頭をくわえ込んだ龍が、そのまま上昇して天井板に消えたんです。
「あ、あ、あ」 私は声をだすことができ、指、手、腕という具合に、
少しずつ金縛りが解けていきました。上半身を起こすと、
部屋の中に嫌な気配はまったくなかったんです。それでも怖かったので、
枕元の龍を持ってファミレスで朝まで過ごしました。これで話は終わりですが、
部屋に戻ると、布団の中に骨のようなものがありました。20cmほどの長さで、
中がえぐられて、和紙を丸めたのがたくさん詰まっていました。それは、
〇〇神社に持っていってお焚き上げしてもらったんです。





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