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さぐめさんの話

2018.09.11 (Tue)
ある町役場の福祉課に勤めています。よろしくお願いします。
今晩、ここに来させていただいたのは、今現在、町で起きている事件について、
どうすればいいのか話を聞いてこいと言われたからです。
その指示は、僕は直接は課長から受けたんですが、もっとずっと上から、
おそらく町議会から出ているものだと思います。
僕が住んでいる町は、平成の町村大合併からわざと外れて、
独自路線を歩んでいるんですが、これといった産業や観光地があるわけでもなく、
いろいろうまくいかないことも多いんです。その一番が、
過疎化、高齢化の問題ですね。まあ、どこでもそうだとは思いますけど、
うちの町は、独居の高齢者の方が多いのが特に問題なんです。
ええ、子どもさんが市部に移住しても、町に残ってるお年寄りです。

うちの町は、歴史が古く、昔から土地を大切にしてる方が多く、
子どもさんのほうで一緒に住もうともちかけても、それを断って、町に残るお年寄り。
で、町の中心部よりも、周辺部の集落に、そういう方が多くて。
わずかな山間地を水田にして、苦労して耕作してきた思い出が残ってるんでしょう。
そういうご夫婦の、どちらかが先に亡くなると、いわゆる独居老人になります。
そんな方が、一昨年の調査で200名近くおられたんです。
今はかなり減ってしまいましたけどね。ええ、それは、昨年度、
その方たちのうちの40名ほどが亡くなられたんです。
周囲に誰も看取る人がいない、いわゆる孤独死の状態で。
幸い、近所の方や民生委員、郵便配達などが見つけて、
長い間、遺体が放置されていたというケースはなかったんですが。

亡くなったのは男性も女性もいますが、やや女性のほうが多いかな。
死因に不審な点はありません。老衰、あるいは急な心臓や脳血管の病気です。
それも、前日まで元気にしてたという方が多く、ピンピンコロリってことです。
ですから、僕としてはけっして悪いことじゃないと思うんですけど、
町議会のほうで問題になりまして。福祉課のほうで対応策を求められたというわけです。
で、課では課長を中心にプロジェクトチームをつくり、他の自治体の施策を参考にして、
「高齢者見守りプロジェクト」というのを立ち上げたんですよ。
この施策の中心になるのが、福祉課に直結するテレビ電話です。
テレビ電話は特注したもので、字が大きく、操作も簡単になっています。
ええ、お年寄りですから、パソコンはもちろん、携帯もスマホも使えないという方が多くて。
それで、独居の高齢者の自宅の居間に電子センサーもつけて、

一定時間動くものがなければ課に連絡が入って、こちらから連絡を取ります。
その他、2週間に1回、定期連絡をしますし、お年寄りから相談があった場合、
他地域にいるご家族、町の介護センター、消防署、町営病院などと連携して、
できるだけご要望に答えるようにしています。あと、月に1度は、われわれ福祉課の職員が
直接訪問もします。ね、このシステムなら、孤独死を防げるし、
もし急病などが起きても、救命できるケースが多いと思ってたんですが・・・
それで、ここからは、僕が今年になってから体験した内容です。
4月からプロジェクトがスタートし、お年寄りとのテレビ通信が始まりました。
中には、なかなかテレビ電話の操作に慣れない方もおられたんですが、
そういう場合、訪問をくり返して、なんとか全員の方と通信ができるようになりました。
でね、僕の方でも、担当しているお年寄りの方の情報を調べまして、

会話が弾むように心がけていたんです。Yさん、としておきましょうか。
この方は、72歳になる女性の方で、独居ですが、デイサービスにも通われていますし、
お友だちも多く、健康上の問題もなくて、まず当面は心配ないと思っていたんです。
それが、あるときの通信で、「昨日の夜、さぐめさんが来られてね」という話になりまして。
「ははあ、お友だちの方ですか」 「あら、いやだねえ。さぐめさんは神様だよ」
「神様・・・」 「わたしのような者のところに来ていただけるなんて、もったいなくて」
「はあ、どんなことをなさったんですか」 「すごろくだよ」 「すごろく・・・」
「それがねえ、とっても楽しくって、こんな楽しい思いをしたのは何十年ぶりかねえ」
「それはよかったですね」 こんな会話になったんです。
どう思われます? まず神様というとこが気になりますよね。
Yさんには認知症の診断はなかったんですが、それが心配になりました。

あと、高齢者相手の詐欺というのも気になります。一人暮らしの高齢者の方に
近づいて、不必要な家の改築をさせたり、高価な布団やら空気清浄機を販売したり・・・
でも、町では長年、そんな事件が起きたことはなかったんですけど。
Yさんとの2回目の通信で、また、さぐめさんの話が出ました。
「昨晩もさぐめさんが来て、すごろくの続きをやったよ。もうすぐどっちかが
あがりになりそうだね」そう話すYさんの顔は血色がよく、
しわも消えて、なんだか若返ったような感じに見えたんです。
それで、そのときも「さぐめさん」についてあれこれ尋ねたんですが、
具体的なことは何もわからずじまいでした。で、課長に相談してみたんです。
そしたら、課長も「さぐめさんねえ・・・」と首をかしげていましたが、
「何か聞いたことがある気がするなあ。町史編纂室の岩谷さんなら知ってるかもしれない」

そういう話になって、課長が連絡してくださって、岩谷さんに話を聞きに行ったんです。
岩谷さんは、長年役場に勤めていて、定年退職の後も嘱託として週に数回、
編纂室に来ていただいてたんです。僕が「さぐめさん」の話をすると、
岩谷さんは「うーん、それ、中根畑の神社でお祀りしていた神様じゃないかな」
「あの、山裾にあった神社ですか」 「そう、君、よく知ってるね。あの神社が廃社になり、
 さぐめさんが八幡神社に合祀されたのは去年のことだったね」
「さぐめさんは、やっぱり神様だったんですね。どういう神様なんです?」
「うーん、『古事記』に断片的に出てくる神格だったはず。高天原から
 地上に派遣された天若日子(アメノワカヒコ)からの音信が途絶えたので、天照大御神が
 雉を地上に放ち、天若日子の真意を試そうとしたとき、「あれは悪い雉です」と、
 天若日子に告げたのが天探女(アメノサグメ)、つまり、さぐめさんだ」

「ははあ」 「でね、それを聞いた天若日子は、雉に矢を放って射殺し、
 その矢は高天原まで届いた。そこで、その矢を拾った高御産巣日(タカミムスヒ)神は、
 天若日子に悪心があるならこの矢還れ、と言って投げ返し、
 天若日子は矢に胸を貫かれて死んだという話になってる」
「つまり、天探女は天若日子に、高天原から離反するように勧めたってことですか」
「そう。だから、天探女は悪い神ということになってて、尊(みこと)という
 語がついてないんだ。また、天探女は「あまのじゃく」の元になったという 
 説もある」 「じゃあ、そういう悪い神を中根畑の集落では祀ってたと」
「そう、理由はわからないけどね」 この中根畑の集落は、十数世帯まで減ってたんですが、
去年、豪雨による山崩れがあって、集落ごと土にのまれてしまったんです。
全員が亡くなったというわけじゃなく、地域を離れた方が多かったんですけど。

でも、この話でも何もわからないですよね。で、それから3日後の午後です。
Yさんのほうからテレビ電話の通信が入ったんです。はじめてのことでした。
僕は庁舎にいたんで出たんですが、テレビ画面に映ってるのが女の子だったんです。
おかっぱの8歳くらいの。「あれ、Yさんのお孫さん?」こう聞くと、
女の子は、「いやだねえ 私はYだよ」そう子どもの声で答えまして。
でも、そのときは、Yさんがふざけて孫か親戚の子を出してるんだとしか思わなかったです。
その子は、「さぐめさんとねえ、すごろくをしたんだけど、負けちゃった。
 だからね、もう根の国に行くよ」 「ねのくに?」 「ええ、あんたにも世話になったねえ」
「ちょっと、Yさんと代わってくれる」このとき、背筋にぞくぞくっと寒いものが走りました。
「だから私がYだって」 そう言うと、女の子は倒れ込むように画面から消えたんです。
その背後で・・・何とも形容しがたい不定形の緑色のものが、踊るように動いていました。

「さぐめさん?! まさか」画像は乱れて消え、確認したら、
Yさんの家のセンサーに動いてるものはなかったんです。すぐ消防署に連絡して
救急車を出してもらいました。ややあって救急隊員から連絡が入り、
Yさんが倒れた状態で見つかり、町営病院に搬送するってことだったんです。
ええ、蘇生措置を試みましたが、Yさんは亡くなりました。心不全という診断でした。
後で聞いた話では、テレビ電話の前に平伏するような形で倒れていたということでした。
あと、Yさん宅から、おかしな物も見つかってはいません。
・・・で、ですね。つい5日前、やはり僕が担当しているUさん、
77歳の女性の方ですけど、テレビ通話でこんな話が出ました。
「さぐめさんが来られてねえ、すごろくをやってるよ」それを聞いて目眩がしました。
すぐに課長にすべてのことを話し、前に言ったように、指示を受けてここに来たんです。






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