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バイトをする話

2018.09.14 (Fri)
工業高校を卒業して、実家を出て自動車修理の会社に就職したんです。
そこで10年近く働いたんですが、運の悪いことに、
つぶれちゃったんですよね。しかたなく再就職を探したんですけど、
なかなか見つからなくて。でも、ある会社で期間工を募集してるのに
申し込んだら採用されて。それでひとまずほっとしたんですが・・・
ほら、期間工って、最初に会社で健康診断を受けさせるじゃないですか。
そのレントゲンで、肺に影があるって言われて、
要生検になっちゃったんです。いや、自覚症状はなかったんですけども・・・
それで、大きな大学病院に行ったら、肺癌って診断だったんです。
タバコは吸ってないんですけどね。それで仕事のほうはパーになっちゃいました。
困りましたよ。肺癌ですからねえ、まだ死にたくないです。

けども、治療するとなれば金がかかるでしょ。
貯金はあったけど、わずかなもんでしたから。それで、癌っていろいろ検査する
じゃないですか。そこの大学病院で、脳のMRIと、骨シンチってのを受けたんですが、
悪いことに、どっちにも転移しちゃってたんです。
ええ、ステージⅣってやつです。だから、手術はできなくて抗癌剤治療しかないって。
でも、抗癌剤で癌が治るってことはないんでしょ。
すごいお金がかかって、それで運が良ければ数ヶ月延命するだけ。
ああ、ツイてないなあって思いました。まだ30歳になったばかりですから。
もちろん結婚とかもしてませんし。これで死ぬんだなあと思うと やるせなくてね。
その診断を受けた日、川の近くにある公園でぼーっとベンチに座ってたんです。
そしたら・・・後ろから急に話しかけられて、驚いてふり向きました。

爺さんでしたね、70歳過ぎてるくらいの。異様にやせてて背が高く、
まつげが真っ白で長かったのを覚えてます。あと、妙に古臭い黒の背広を着てましたね。
その爺さんが「なにか困ってるようだね」と言ってきたんで、
「ええ、まあ」って答えたんです。詳しいことを説明する気にはなりませんでした。
まあ、向こうもそれは聞かず、「もしヒマがあるなら割のいいアルバイトをしないかね」
こう言ってきたんです。「え、どのくらいの期間ですか?」
「そうだな、3日、4日かな」 「割がいいって?」 「20万払うよ」
これってすごくないですか。4日だとして1日、5万ってことになります。
ほら、治療費の足しになるじゃないですか。だから「話を聞かせてください」
って言ったんです。でも、その場では爺さんは詳しいことは教えてくれなかったんです。
「体を使う仕事だけど、肉体的にキツイってことはない。

 もちろん、法律に違反するようなことでもない」それで、「やります」って言いました。
そしたら爺さんは、明日の夕方5時に○○駅の北口を出れば、
この印のいついたバンが待ってるからって、一枚の紙を渡していなくなっちゃったんです。
で、翌日行ってみました。そしたらね、10人以上乗れるワンボックス車がいて、
車体の横にそのマークがついてて。俺が前に行くと、運転手が目で合図をして、
スライドドアを開けてくれたので、乗り込んだんです。
中には俺の他に7人人がいました。みんな男で、年齢はバラバラ、
俺より若そうな人も一人いたけど、50代くらいの人が多かった。
でね、運転手が「バイトの人ですね?」って聞いてきたから、「そうです」って答えました。
車は出発し、2時間ほど走って隣の県との境にある山地に入りました。
林道の途中で車は停まって、一人ひとりにヘッドランプとシャベルが渡され、

運転手が先に立って山道を登ったんです。その運転手は若かったですね。
俺と同じか、もっと若いくらい。すっかりあたりは暗くなってて、
誰も話をする人はいませんでした。山を登ったのは15分くらいかな。
傾斜もそんなではないし、キツイということはなかったです。
だから高さもせいぜい数百m程度のとこだったんだと思います。急にね、
足元が岩場になって、巨大な岩が重なり合ったような場所でした。
その裂け目の一つに、運転手が入っていき、俺らが続いたんです。
半洞窟って言うんですかね。天井は岩だけど、向こう側まで穴が通ってるんですね。
岩壁は、ヘッドランプの光があたると銀色に輝いてました。
そこの中央がちょっとした広場になってて、50cmくらいの石が円を描いてました。
俺、学がないんでよくわからないですけど、

ストーンサークルってののミニチュア版みたいな感じ。「どのくらい?」って、
バイトの一人が聞くと、運転手は「さあ? これを掘るのは1400年ぶりくらいですから、
 私もわかりませんけど、そんなに深くはないでしょう。何か出たら光るからわかります。
 強く掘っても大丈夫ですから」そんなことを言って、俺らは、
囲んでる石の内側に散らばって、めいめいが中央を目指して掘り下げていったんです。
土は固かったですけど、10分ほど掘ると、土の中からじんわりと、
白い光が立ち上ってきて・・・一人のふり下ろしたシャベルが、
ぼよんという感じで何かにはね返されたんです。運転手が「ああ、出ましたね。
 あとは土をのける感じで」でね、だんだんに白い光を放つものが出てきたんです。
うーん、蚕のマユというのがいちばん近いですかね。
長さ1m半くらいのだ円形のマユです。銀色の極細の糸で編まれてるように見えました。

それが強靭で、シャベルの歯を弾力ではじくんです。
すっかりまゆの形が出てくると、運転手は「ここからのことは他言しないでください」
そう言って、俺らを下がらせ、スーツの内ポケットから白木の刀を出したんです。
さやを抜くと、マユに馬乗りになる姿勢で、一文字にすーっと切れ目を入れ、
裂けた部分を両手で広げて・・・中に何があったと思います?
子どもですよ。5歳くらいかなあ、小学校前くらいの男の子、
それが固く目をつぶって横たわってたんです。いや、死体ではないと思います。
色は白かったけど、頬は赤みがありました。あと、身につけてるものは、
神主が着てるのと似た白装束でしたね。うーん、1400年ぶりに掘り出した
マユから出てきた子ども・・・今思い出しても信じがたい話ですけど、
そのときはそんなに異常な感じはしなかったんです。運転手はその子を両手で抱え、

来た道を車まで戻ったんです。ボックスカーの後部には、白木の箱があり、
運転手がふたを開けてその子を中に寝かせました。
で、車は出発して、途中違う道を通り、ある大きな神社に寄ったんです。
車が駐車場に入ると、神職の人が数人待っていて、
子どもが入った箱を鳥居の中、社殿のほうに運び込んでいきました。
それから、最初に集合した駅について解散。そのときに、「明日は9時にここへ」
って言われたんです。で、そのとき、同じバイトをした年配の人と少し話したんです。
「あの子ども、何なんでしょうね?」 「わからん、気にしないほうがいいと思うね。
 違法ではないって言ってたし、金さえもらえりゃ」
「20万でしたよね」 「ああ、俺は今、病気だから、そんだけもらえりゃありがたい」
そのときに、「俺も病気で」って言おうかと思ったんですが、やめておきました。

翌日、9時に集まると、直行であの神社に行ったんです。子どもが運び込まれた。
そこで白い着物を着せられ、1日中、お祓いを受けたり、
水垢離って言うんですか、頭から桶で水をかけられるやつ。
あれをやられたりしました。いや、みんな文句を言うこともなく従ってましたよ。
そのお祓いは3日間続き、バイトは終了したんです。
ですから、実際に働いたのは、最初に子どもを掘り出したあの数時間くらいなんですよね。
で、最後の日のおわりに、紙包みに入った20万円をもらいました。
まあこれで、話はおわりですけど・・・その後、検査のために病院に行ったら、
血液検査の数値、腫瘍マーカーっていうんですか。それがすごく改善してたんです。
ほぼ正常値で、医者が驚いていろいろ再検査したところ、
転移してた癌が全部見えなくなってたんです。

それと、肺にある原発の癌もすごく小さくなってて。手術で摘出して、
今のところ再発の兆候はありません。ええ、癌が小さくなったのは、
あの子どもを掘り出したことと何か関係があるんでしょうか。
それについては、思いあたることがあるんです。一度ね、正月に実家に戻ったとき、
母親に頼まれて神棚にお神酒をあげたんです。そのとき、正面に置いてある
御札に、あのバイトのときに車についてたのと同じ印を見つけたんです。
母親に聞くと、それは俺が生まれたとき、へその緒を納めた神社だって言われて。
うちの田舎じゃ、そういう風習があるんですよ。で、ちょっと調べてみると、
俺の田舎にあるのは末社で、その本社が、あの3日間もお祓いを受けた神社だった
みたいなんです。それでね、あのバイト、もしかしたら俺の病気をなんとかするために
産土の神様がはからってくれたのかなあ、なんて考えたりするんですよ。





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