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字の呪いの話

2018.10.01 (Mon)
これ、もうだいぶ前のことなんです。私がまだ、会社勤めをしていた頃です。
その会社は、名前を言えばたいがいの人は知ってる一部上場企業で、
もちろん今でもあります。ですから、差しさわりもあると思うので、
金融業とだけ申し上げておきます。そこの総務部にいたんです。
総務は外回りがほとんどなかったせいか、女子社員も多かったです。
全部で20名近かったと思います。それで、ある年です、
新規採用ではない女子社員の中から、総合職を募集することになったんです。
ええ、これ当時は、女性管理職を増やすということを、
政府が大きく打ち出してましたから。女子社員は寿退社するのがあたり前、
みたいな風潮を変えようとしてたんですね。
でも、既婚の人だとまず無理な話です。まだ子どもが小さいのに、

移動・転勤があるとなると考えてしまいます。ですから、総合職への
試験を希望して受けるのは、独身の社員だけだろうと思いました。
私はそのとき26歳で、そんなの受ける気はまったくなかったんです。
むしろ、結婚が遅れるのをあせっていたというか・・・
ですが、ある日部長にじきじきに呼ばれまして、「この試験、受けてみないか」
って話をされました。やんわりと断ろうと思ったんですが、
部長は懇願せんばかりの調子で、受けることを承諾させられてしまったんです。
思うに、会社の新方針として新しく始めたことなのに、
応募者ゼロでは、部としての立場がないということだったんでしょう。
ただ、私が承諾したのは、どうせ自分の力では受からないだろうと考えたからです。
あと、はっきり言って、会社だって女子の総合職なんかほしくないだろうと思いました。

だから、合格するのはせいぜい一人。私は社会人になってから、
特に勉強らしい勉強もしてないし、法律も語学も得意ではありませんでした。
それに、合格しないつもりなら、試験の問題のところどころを
書かずに出してしまえばいいわけですから。結局、試験を受ける希望を出したのは、
総務部で3人だけでした。一人はAさん、私より2つ年下のおっとりした女性で、
自分から積極的に何かをするタイプではまったくなく、
私と同様、部長から言われてしかたなく受けるのだろうと思いました。
実際、昼休みにいっしょに食事して聞いたら、そのとおりだったんです。
あともう一人は、B先輩です。30代前半で独身。いえ、お局様じゃなく、
男子社員顔負けにバリバリ仕事をする人で、残業も多く、総務部の中で一番遅くまで
会社にいるんじゃないかって言われてたんです。

そんなだから、新規採用の男性社員なんかはいつも叱り飛ばされてました。
Aさんと2人で「これってBさんを総合職にするための出来レースよね」って
言い合ってたんです。あ、それから、私を含めた3人には共通点があって、 
みな、ある国立大の卒業生だったんです。ええ、大卒の女性社員はいっぱいいますが、
さすがに当時は国立卒はめずらしくて。ああ、すみません。状況の説明が長くなって
しまって。試験は行われ、やはり私にはちんぷんかんぷんの内容でした。
で、結果はAさんだけが合格。Aさんは気の毒なほど困惑してました。
おそらく、真面目なのでちゃんと解答したんだろうと思います。
けど、自分から申し込んだ建前なんですから、いまさら辞退するわけにいきません。
・・・Bさんは平静を保ってるように見え、Aさんのところにきて、
「おめでとう、がんばって偉くなってよね」と肩をたたいたりしてました。         

でも、私には、内心に怒りが渦巻いてるんだろうってことはわかりました。
ええ、そのことは女子社員の間でもヒソヒソ話で広まってたんです。
「Bさんの額の縦じわが深くなった」 「ますます年下の男子社員を苛めてる」
「Bさんの後にトイレに入ったら、鏡の隅のほうが割れていた」とか。
Aさんは当面、総務部に席をおいたままで、長期の研修を受けることになりました。
それから数日後、Aさんが出社して自分の机の引き出しを開け、
「あっ!」と言ったことがあったんです。その昼休み、相談を受けました。
半紙をさらに半分にした紙が引き出しに入っていて、そこに「亻虫」と
毛筆で書かれていたんです。そんな字ってありませんよね、にんべんに虫。
Aさんは、「これ、Bさんが書いた字じゃないか」って言いました。
当時はまだワープロも一般的ではなく、案内などの字は、書道何段というBさんが

習字で書くことが多かったんです。でも、私には事態がつかめませんでした。
それをBさんがやったとして、どういう意味があるのか。
それだけだと、嫌がらせとも言えないですよね。とりあえず、
「その紙は保管しといて、何かあったら部長に相談すればいいんじゃない」
ってアドバイスはしたんです。その後、Aさんの更衣室のロッカーから、
やはり同じ字が書かれた紙が出てきました。もしかしたら中国にだけある字か、
と考えて漢和辞典を調べましたが、なかったんです。その後、
Bさんから直接なにかがあるということはなく、むしろBさんは、
Aさんに近づくのを避けているようでした。それから・・・数日後、
Aさんと社員食堂に行ったんです。日替わり定食を食べていると、Bさんが突然、
「うっ!」と言って、食べかけのカツを吐き出しました。

「どしたの?」 見ると、皿の中に落ちたのは、白い楕円形の柔らかそうなもので、
私には何かの繭のように見えました。それにコロモがついてて・・・
でも、ヒレカツにそんなのが入ってるわけはなく、私が皿を持って
調理場に行き文句を言いました。調理場の主任は気の毒なほど平謝りしてましたね。
Aさんは、その日ずっと具合が悪そうにしてたんです。
それから、おかしなことが起こり始めました。まず蝿です。今とは衛生環境が違い、
社内でも蝿が飛んでるくらいのことはありましたが、デスクにいるBさんの
頭のまわりを、蝿が何匹も輪を描いて飛んでたんです。Aさんは気にして、
手で追い払ってましたが、蝿は何度も戻ってきて、とうとうAさんは席から逃げ出して
しまいました。私が後を追っていくと、Aさんは更衣室に入って泣いてました。
私はなだめながら、Aさんの髪をさりげなく調べたんですが、

臭いがするとか、何かがついてることもなかったんです。Aさんは、
「虫が怖い、昨日の夜、私の部屋に人の腕くらいあるムカデが出た」
こんなことを言ったんです。そうしてるところへ、急にBさんが入ってきました。そして
私たちを見て、感情のない声で「おやおや、虫に好かれてるみたいね」って言ったんです。
それから・・・Aさんは本社を離れての研修に入ったんですが、
うまくいってないようでした。ノイローゼ気味で休んでいるという噂が耳に入って
きました。私は心配で、その日、退社後にAさんの部屋を訪ねたんです。
何度か行ったことがあるんですが、けっこう大きな女性専用アパ―トで、
Aさんの部屋のある4階でエレベーターを降りると、廊下にAさんが立ってました。
その姿を見て息を飲みました。蛾です。夏でしたから蛾がいるのはおかしくないですが、
大きなのから小さなのから何十匹もAさんにまとわりついてたんです。

怖かったですが、走り寄って手で蛾を払いのけ、ぼんやりしているAさんを
抱きかかえるようにして部屋に入ったんです。すると、キッチンには洗ってない食器が
山積みになり、床にたくさん和紙が散らばってました。ええ、それ全部に、
あの「亻虫」の字が書かれてあったんです。Aさんはその一枚をとり上げて、
「私は虫、虫になって飛ぶのよ」つぶやくように言いました。
私は、翌日会社の休みをとり、Aさんを大きな総合病院に連れていきました。
検査で、栄養状態がかなり悪いことがわかり即日入院になりました。それから、
実家に連絡をしました。私の実家は、名前は言えませんが京都にある大きな神社で、
私はそこの宮司の2女なんです。忙しそうな父に電話でざっと事情を話すと、
父は、「それは・・・字の呪いが起きている」と言いました。続けて、
「一刻を争うようだ、Aさんが退院したらすぐ連れてきなさい。

 それと、字を書いた紙も全部」 Aさんは1週間ほどして退院し、土日を使って、
私と京都へ向かいました。神社に行って「亻虫」の紙束を見せると、
父は顔をしかめ、長い長いお祓いに入りました。「亻虫」の紙はすべて、
御神火でお焚き上げしたんです。これでだいたい話は終わりです。その後、Bさんは急に体を
悪くして長期入院し、半年後に血液の癌で亡くなりました。そのことを電話で父に報告すると、
ただ「・・・穴二つ」とだけ言いました。Aさんは会社に復帰しましたが、
総合職は白紙に戻され、2年後に結婚して退社しました。私は・・・10年ほど会社に
いましたけど、いくら勧められても総合職試験は受けませんでした。その後、良縁がないまま
独身で退職し、ずっと今まで神社で父の手伝いをしてるんです。それにしても、
聞いた話だと、現在でも女性の総合職の6割が10年後には退社してるそうですね。
これ、社会が大きく変わらないかぎり無理なんじゃないでしょうか。

甲骨文字
201605甲骨文十二生肖




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