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池の姫の話 1

2018.10.04 (Thu)
虻川と言います。雑誌の編集をやってます。あの、俺ね、どう見えます?
痩せてるでしょう。末期癌なんですよ。まだ、何とか自分で歩けますけど、
医者に余命半年と告げられてから、5ヶ月たってます。
・・・あのね、今からするのは、しちゃいけない話なんです。
ええ、姫様にそう言われたんです。けど俺、もう寿命もないですしね、
誰かに聞いてもらいたくて。ただねえ、この話、聞いた ここの人も無事じゃ
すまないかもしれないです。ええと、都合11人死んでるんです。
俺が死ねば12人目か・・・それとも、俺は病気で死ぬのか、
どっちなのかわかんないですけど。前置きはこれくらいにして始めます。
中学1年のときですね。俺、悪ガキだったんです。いや、不良とは違う。
イジメをしたり、タバコ吸ったり、万引きしたりとかそんなんじゃなく、

とにかく親や先生の言うことを聞かないクソガキ。あのときもそうでした。
何か先生方の会があって、中学校が午前で終わったんですよ。部活もなし。
これ、すごい開放感があるんです。俺は野球部で、グランドで何時間も球拾い
やってましたから。でね、同じ野球部の親友、梅崎ってやつと、
午後いっしょに釣りに行くことにしたんです。うちの田舎には、
○城山って小高い山があって、どうやら戦国時代の昔、そこに城があった
らしいんです。いや、今は何もないですよ。復元しようなんて話も出なかった。
そこにね、有名でない戦国武将がいたみたいで、相楽氏と言ったはずです。
でね、その山の麓に、点々と池が残ってるんです。昔、城のお堀だったと言われてる。
けど、池のまわりは雑木が生い茂って、近づく人もいないんで、
学校でそこへ行くのは禁止されてました。

何かあっても、まわりに家もなく助けてくれる大人もいないから、そういう理由でした。
でも、そんなの守らないのが悪ガキです。梅崎と2人で釣竿片手に、
藪こぎするみたいにして池まで行ったんです。道は梅崎が知ってました。
でね、2時間ほどで池が見えてきたんです。かなりの広さがありました。
湖とはとても言えないけど、向こう岸までは100m近くあったと思います。
そんな広いお堀なんてないから、何かがあって広がったか、それとも言い伝えは間違ってて、
お堀じゃなかったのかもしれません。池の岸には、植物で覆われてないところが
何ヶ所か見えました。その後ろにはうっすら道もついてて、池に来てる
人がいるみたいだったんです。その場所で釣糸を垂れた。けど、一匹も釣れない。
ふつうはね、魚が水面に上がってきたり、岸辺に小魚がいたりするでしょ。
そんな気配もまったくない。池はシーンとして、虫の声も鳥の声もしないんです。

ただ池が、周囲の木の色を映して深緑に静まってました。「こりゃ釣れそうもねえ」
「ここに来たの失敗だったか」 「場所変えよう」そう話して、
いったん山側に登ったんです。そしたら、数十m離れたところに、
木のボートがあるのが見えたんですよ。「お、ボートあるぜ」 「あれに乗ろう」
何とか近づいていくと、ボートというか、和舟ですね。
人2人が乗れるくらいの。それが岸の泥土に打ち上がってたんです。
いやあ、さすがに無謀なことをしたと思います。俺ら2人とも、ボートなんて漕いだ
こともなかったですから。あのときあそこでやめとけばよかったなあって思います。
でね、舟は乾いてて、あちこち苔も生えてました。あと、和舟だから
オールなんてなくて、3m近い竹竿が上にのってました。
まず2人で動かそうと両側から押してみたけど、ピクリともしない。

底が泥にくい込んでたんですね。「ダメだな」 「俺らの力じゃ無理だ」
で、あきらめて2人で舟の上にあがり、俺が竹竿を持って棹をさすマネをしてみました。
そしたら、スーッと滑るようにして、舟が池に入ったんです。
「あ、あ、あ」 慌てましたよ。一瞬のうちに、舟は数mも進んでたんですから。
俺も梅崎もバランス崩しましたが、なんとか体を立て直して、
俺が持ってた竿で池の底を突きました。けど、何の手ごたえもない。
岸近くなのに、そうとう深かったんでしょう。でね、池は水流なんかないのに、
舟はひとりでにどんどん池の真ん中目指して走っていく。
「おい、どうする?」 「いやこれ、向こう岸に着くんじゃないか」
けど、池のほぼ中央部でぴたりと止まってしまって。「ああ、戻れねえ」
「泳ぐか?」 「いや、もう少し待ってみよ。また動き出すかもしれん」

俺も梅崎も水泳は自信ありました。けど、服を着てたし、足の立たない深さですから、
やっぱりためらいがあったんです。でも、舟は動かない。
少しして、水面をのぞき込んでた梅崎が「あああ!」声を上げました。
「どうした?」 「顔、今 顔が通った。でかい白い顔」
「何いってんだバカ!」 そのとき舟のへ先のほうに、大きな水しぶきが上がったんです。
「ああ!!」 「ああああ!!」 俺ら、何を見たと思います?
巨大な女です。今考えると、人の身長の2倍以上、4mもある女が水上に立ってたんですよ。
ただ・・・生きた女じゃなかったんです。人形・・・巨大な日本人形。
そんときは冷静に観察なんてできなかったですけど、白っぽい着物を着てるのに、
体には藻や泥はついてませんでした。水のしずくも垂れてなかった気がする。
で、さっき言ったように、ひと目で人形ってわかったんです。

人間ならありえない真っ白の肌、眉も目も鼻も何もかも作り物の人形。
ただ・・・真っ赤な唇をした口が下アゴが外れたようにがっと開いて、
大きな鯉を咥えてたんです。ビチビチと鯉は暴れて、動くものはそれだけ。
ねえ、この光景、想像できますか? 俺と梅崎は腰を抜かして舟の上にへたり込んで・・・
そのとき、声が聞こえたんです。いや、実際の声じゃなく、
頭の中に意味だけが響いてきたんだと思います。ただ不思議なのは、
それが女の声だってわかったことですね。「童、今見たことを人に話すな 話すと死ぬ 
 人が死ぬ何人何人もも死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ」
頭の中が割れそうなくらいビンビンと響いて・・・大きな口が鯉を二つに噛みちぎりました。
そしてズボッと、一瞬で沈んだんです。「うわあああ」 
「あああ、何だよ!?」またひとりでに舟が動き出しました。

大きな波紋が広がる中を、舟は縫うように進んで向こう岸に着いたんです。
地面に舟が乗り上げると、俺と梅崎は転がるように下り、
土に座り込んで荒い息を吐きました、全力疾走したみたく心臓がバクバクしてたんです。
しばらくして、俺が「人に・・・」 梅崎が「話すな・・・・」そう言い合って、
ややあって梅崎が「俺ら同士じゃ話してもいいんだろうか?」聞いてきたんで、
「忘れろ、俺もお前も何も見なかった」 「わかった。俺は死にたくねえ」
それから家に戻ったんですが、向こう岸からだったんでずいぶん回り道になって
時間がかかりました。持ってきた釣竿とかはどっかいっちゃって。
俺も梅崎も池のほうを見ようとしなかったです。ええ、このことは親にも誰にも
話しませんでした。梅崎ともしなかったです。忘れようとしてたんですね。
ただ・・・このわずか1年後、意外なところで姫様と再会したんですよ・・・





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