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池の姫の話 2

2018.10.04 (Thu)
それで、2年になって、梅崎とは別のクラスになりました。
まあ、野球部ではいっしょでしたけど、あの池で見た巨大な人形の話は
1度もしてません。もちろん池に近寄ることもなかったです。
1年が過ぎて、その頃には、俺の中ではもう悪い夢みたいな気がしてました。
で、その秋に、総合学習の一環で2年生は郷土資料館を訪問したんです。
町役場の隣に建てられたさほど大きくもない施設です。
そこで年配の館長から、組ごとに町の昔の話を聞かされました。
つまんないし、すぐ飽きたけど、授業よりはマシだ、そんくらいでしたね。
2クラスずつミニ映写室に入って、歴史のビデオを見せられて・・・
ビデオは縄文時代から始まって、戦国時代、この地域には相楽氏という殿様がいて・・・
この殿様が、山の上に城を築いたんです。けど、戦国時代が始まってすぐ、
隣の県の武将に攻め込まれて、男は全員城を枕に討ち死に。

「なんだ、弱っちいな」って思いました。で、相手は女子供は助けるつもりだったんです。
ところが、相楽氏の姫様ですね。顔みせに引き出されたときに、
相手の武将に向かって手ひどい侮辱の言葉を発した。
それで相手は怒って、相楽氏の奥方、側室、その姫と妹たちなど、
女総勢8人を斬り殺して城の堀に投げ込んだ・・・よほど勝ち気な姫様だったんでしょうね。
ただね、このビデオを見てて「城の堀」ってところが気になったんです。
ほら、俺と梅崎があれを見た池って、もとは堀だったかもって言われてた。
映写が終わって、もう学校に戻るってとき、資料館の奥にガラスケースに入った
等身大の半分ほどの人形が何体かあったんです。俺、それ見て息を飲みました。
女の人形は真っ白い顔で、一番上に白い着物を着てて、
俺があの池で見たのと同じだったんです。「あああ」思わず声を出し、
説明の人がそれを聞いて「おや、どうしたの」って。

「あの、この人形・・・」 「それ、相楽のお姫様ですよ。さっきビデオに出てきたでしょ」
翌日の放課後です。部が終った後、梅崎といっしになりました。
話は俺から出したと思います。「お前、昨日資料館でお姫様の人形を見たか?」
「見た、見たよ。あれってあの池の」 「それ以上言うな!」
「何だよ、お前から言い出したくせに。でもよ、俺らが見たの間違いなくあれだよな。
 何倍も大きかったけど」 「やめろ」 「嫌だ、やめない。
 俺、お前には言わなかったが、あの人形、夢に出てくるんだよ。
 何回も見た、1週間くらい前も」 「俺は見てない」 「いいな、俺怖いんだよ。
 だから、人形のこと、資料館の館長さんに話してみようと思ってる」
「バカ、言えば死ぬんだぞ」 「お前は言わなけりゃいい。俺、あの夢で頭がおかしく
 なりそうなんだよ、野球も手につかない。それに、あの人なら何か
 死なない方法を知ってるかもしれない」 「やめろって!」

たしかに梅崎はその頃、練習に身が入ってない様子で監督に怒られ、
せっかく手に入りそうだったレギュラーの座を逃してたんです。
けど、そのときも俺の頭にはこびりついてました。「今見たことを人に話すな 話すと死ぬ」
なんとか梅崎に翻意させようと思ったんですが、思いつめた感じで言うことを聞かず、
「勝手にしろ、俺は関係ないからな」そうケンカ別れしちゃったんです。
いや、バカは俺でした。あのとき何としても止めればよかったのに。
それから2日後、町で2人、行方不明者が出ました。
そう、一人は梅崎です。その日の放課後、部活を休んでどこかに行き、
夜になっても家に戻らなかったんです。警察の捜査で、梅崎が郷土資料館に
立ち寄ったことはすぐにわかりました。けど・・・梅崎が会ったはずの資料館の館長。
町役場を退職した60歳を過ぎた男性だったんですが、その人の行方もわからなくなってて。

ええ、面会してそのまま2人とも消えたってことです。
これね、記憶にあるんじゃないですか。子どもの失踪に大人も絡んでるってことで、
テレビや新聞で大々的に報道されましたから。せまい町にマスコミが押しかけました。
どうやら梅崎は館長の車に乗ってどこかに出かけた。けど、それからの足取りは
たどれなかったんです。・・・・・・俺ねえ、2人であの池に行ったんじゃないかって
考えてました。正直言えば。けど、誰にも言わなかったんです。
梅崎には悪いとは思ったんだけど、死にたくなかったんです。
池の話をすれば、なんでそう考えたか必ず聞かれるでしょ。
けど、あの姫様の人形のことは絶対に言えない。ほら、その証拠に、
話をしたと思われる梅崎が消えちゃったんですから。梅崎も館長も、
その後1ヶ月たっても見つからず、マスコミは警察を責める論調が大きくなってね。

いや、その間、俺には何も起きなかったです。でね、秋が終わり、
山の木の冬枯れが始まった頃に、谷底に落ちてる車が見つかりました。
館長のです。中には腐乱した死体が2つ。もちろん館長と梅崎。
でねえ、死因が不審だったんです。これも新聞に出てました。
車が落ちてた場所は急カーブで、事故が起きやすいとこではあったんですが、
2人の体にはそれほど大きな損傷はなし。ただ、2人とも、
頭蓋骨が体から離れてたんです。首の骨に断裂ががありました。
だから一時は、殺人事件になりそうだったんです。誰かが2人の首を斬り落とし、
車に乗せ、事故に偽装して谷に落とした。でも、動機がまったくないんですよ。
一人は中学生だし、一人は温厚な町の功労者。どこを探しても殺される理由がない。
それで、やっぱり事故ってことで落ち着いたんです。

梅崎の葬式に出た夜、夢を見ました。気がつくと、目の前に顔があったんです。
真っ白い、人形の顔、相楽のお姫様の顔ですが、そのとき大きさは普通の人でした。
またあのときのように、頭の中に声が響いてきました。
「童 お前の友は言ったから死んだ 老人は聞いたから死んだ
 わたしがやっているのではない 止められない もう8人死ぬ」
人形の生気のない目からつうっと涙が落ち、冬なのに汗をびっしょりかいて
目を覚ましたんです。内容ははっきり覚えてました。
「梅崎が死んだのは、人形、相楽のお姫様のせいじゃない?
 言ったから死んだ??」 その意味はわかりませんでしたけど、
少しほっとした気もあったんです。「ああ、あのお姫様にとり殺される
 わけじゃないんだ、見たことを言わなければ自分は大丈夫なんだ」って。

ただ、「もう8人死ぬ」のところを思い出し、それに自分が入ってるかもと
考えてまた怖くなりました。それで・・・
その冬ですね、町の第3セクターが運営する老人介護施設で、
インフルエンザの施設内感染によって、お年寄りが8人亡くなったんです。
これも新聞等に大きく出ました。衛生管理が悪かったせいということで遺族と
裁判が起きましたが、町が和解金を払って決着しました。
俺は、これが夢で言ってた8人なのか半信半疑でしたけど、
翌年になっても俺には何事もなく、夢も見ませんでした。だから、
あのときに見たことは絶対に誰にも話さず、俺が墓場まで持っていくって
強く心に思ったんです。けど、それから30年以上たって、
また姫と再会することになったんです・・・





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