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池の姫の話 3

2018.10.05 (Fri)
それから、俺は東京の大学を出て出版社に就職し、結婚して子どもも
2人できたんです。特に過不足もない生活でした。
故郷の町であった出来事は、梅崎の死とともに忘れようったってできません。
けど、あれから何十年もたって、意識にはのぼらないようになってきてたんです。
ええ、夢も見たことはないです。それでね、去年の4月、
社内での移動があって、俺、ホラー漫画雑誌の編集部に回されまして。
ほら、「本当にあった怖い話」って雑誌があるでしょ。
ああいうやつです。基本的には、読者から恐怖体験の投稿があって、
それを編集部で読んで、使えそうなのを漫画家さんに作品にしてもらう。
読者投稿って、話のつじつまが合わないものが多いんですよね。
そこは編集部のほうで手直しします。あとは漫画家さんの力で。

文章だけ読むとあんまりぴんとこない話でも、漫画家さんの絵柄と
話の内容がぴったり合うと、すごく怖くなるんです。
そういうときにはやりがいを感じてましたね。あと、企画ものってのがあるんです。
漫画家さんと霊能者の人に いっしょに心霊スポットや事故物件に
行ってもらって、その体験をマンガにするとか。
だから霊能者の人には何人もお会いしました。けどねえ、はっきりした能力って
見たことなかったんです。例えば事故物件の家に入ると、
「この部屋で自殺した人がいて、その念が残ってますね」とか言って。
でも、俺にはその場の思いつきでしゃべってるようにしか思えなかったんです。
で、今年の8月、やはり企画もので、三崎さんって霊能者の人にお会いしまして。
俺と同じ40代なかばくらいで、見た目は普通の主婦でした。

前もって下調べさせていただいて、他の霊能者の間での評判が高かったんです。
これ、珍しいことで、霊能者は他の同業者をよく言わないことが多いんです。
それが、誰に聞いても「あの人は力がある」って。
あと、俺と出身地が同じだったんです。会社のあるビルの近くの喫茶店でお会いしました。
俺が先に行って待ってたところへ、写真で見た三崎さんが入ってこられたんで、
立ち上がって合図したんです。そしたら、こっち見た三崎さんの顔が、
急に崩れて驚愕の表情になって。それでも、テーブルに近づいてこられたんで、
あいさつしようとしたら、三崎さんは、「・・・姫」そう一言。
それ聞いて驚いたし、すごくあせりました。まさか、俺があの池で姫の姿を見た
ことを知ってるわけはない、けど・・・三崎さんは席につくと、
「失礼しました。まさか東京で姫に関わる人と会うとは思ってなかったので」

こう言ったんです。俺のほうは言葉が出ませんでした。
だってこれ、言っちゃいけない話なんですから。俺がひたすら狼狽してると、
三崎さんは、「わかります。あなたは何も言わないで。ただ、こっちが言ったことに
 うなずくだけでいいですから。それなら何も起きないはずです」 「・・・」
「あなた姫を見た?」 「・・・」勝手に俺の頭が動いてました。「そう、やっぱり。
 身近な方で亡くなった人がいるんでしょう。私もそうです。」 
「・・・あれ、何なんですかいったい?」つい、そう聞いてしまったんです。
「あれは、あの地域に伝わる祟りのようなものです。たくさんの人が死んでいます」
「やはり相楽氏のお姫様の無念が祟ってるってことですか?」
「・・・いえ、おそらくそのお姫様の中身はもうほとんどないでしょう。
 ただ形だけが残り、中に他のいろんなものが詰まってあの町にとり憑いている」

こんな話になりました。「他のもの?」 「ええ、うまく言えませんが、
 川の橋桁にいっぱい、流れてきたゴミがからみついて溜まっていることが
 あるでしょう、あんな感じ。私はここ10年以上、たびたびあの町に戻って、
 それを解こうとしてるんです。私の力で できるかどうかわからないですけど」
「さっき、こっちを見て、姫っておっしゃいましたよね」
「・・・言いにくいんですが、あなたの体にもうほとんど姫が重なっています。
 体調が悪くはありませんか。病院で精密検査をしてもらったほうが」
これ、そのときの1ヶ月前くらいから、背中に重い痛みがあったんですよ。
そこへ漫画家さんがみえられて、この話は終わりました。
その後、上の空でなんとか仕事は乗り切りました。で、翌日休みをとって病院に
行きました。何日かかけて検査をし、胆嚢に腫瘍が見つかったんです。

広い範囲に浸潤していて、手術はできず、手がつけられないってことでした。
でね、三崎さんに連絡をとったんですが、娘さんらしい人が出て、
「母とは連絡がとれない、おそらく郷里に帰ってると思う。これまでも
 そんなことが何度もあった」あまり心配してる様子じゃなかったんです。
俺は入院して、抗癌剤の治療を受けたんですが、効果はなかったです。
でね、こないだ大きな台風が来ましたよね。
その翌日、三崎さんの娘さんから連絡が来て、「母が亡くなった」って。
あの町のJRの駅、そこの待合室のベンチに座ったまま事切れていて、
心臓の発作だったそうです。これ、姫の関係かはわかりませんけど、
もしそうだとしたら、知ってるだけで11人目ってことになります。
で、俺が12人目。これで、話はほとんど終わりですよ。

俺は、6ヶ月の余命宣告があったんで、その間に、家族のためにできるだけの
ことはしました。もう遺言も司法書士に渡してあります。
姫の話ができて、なんだかすっきりしましたよ。
ここのみなさんなら、そういうことへの対処もご存知でしょうから。
俺だけ生きのびるのも、考えてみれば死んだ梅崎に申しわけない気もします。
でね、まだ体が動くうちに、あの池に行ってみようと思ってるんです。
それでどうなるかはわかりません。ただ、なかば腐った陰気な沼地があるだけかも
しれませんけど。あとね、俺が不思議に思うのは、戦国時代の姫の姿って
誰も見たことなんかないでしょう。あの資料館にあった姫の人形って、
想像で適当に作ったものだろうに、なんで俺と梅崎は、池であれとまったく同じ姿の
姫を見たのかってことです。不思議ですよね、ここの方なら説明がつきますか?

源氏物語。2 049





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