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石を返す話

2018.10.12 (Fri)
うちは造園業やってるんです。家族経営ですけど、この地方にはお得意さんが
たくさんいて、けっこう手広く商売してます。
社長は親父です。70に手が届く齢ですけど、バリバリの現役。
ええ、剪定で木にも登りますし、力も私より強い。
しかもね、なんとフランス語がペラペラなんです。
これは、若い頃に画家を目指してて、フランスに5年ほど住んでたことがあるからで、
まあ、画家になる夢はかないませんでしたが、そのときの縁で、
向こうから日本庭園の築造を頼まれたりするんですよ。
ええ、ヨーロッパにはけっこう日本庭園に魅せられた元貴族なんかがいて、
半年近く滞在して仕事することもあります。そんなときはね、
1回の出張でかなりのお金になるんですよ。ああ、すみません。

それでね、そのときもオヤジはフランス行ってたんですが、
出発前にこんな指示を出しまして。「月末頃、山根さんが石運んでくるから。
 それ入れることができるよう、置き場を開けておいてくれ。
 それから、運ばれてきた石には、俺が戻ってくるまで触るんじゃないぞ」
ええ、私、まだ一人前と思われてないんですよ。これでももうすぐ、
この仕事について25年になるんですけどねえ。ただまあ、
無理もないところもあります。石はいろいろと難しいんですよ。
人間の寿命って、たかだか80年くらいでしょ。ところが、石は億年のレベルです。
だから中には、神性みたいなものを持ったものもありましてね。
あと、石は古代から信仰の対象になってましたから、
間違って、磐座になってた石が採取されたりしてしまうこともあるんです。

そんな場合、いろんな障りが起きるので、うかつに触れないんですよ。
あとね、石には顔と表情があるって言われますよね。
どの面を上にして、どんな向きで置くか。これを見定めるには長い経験が必要で、
不本意な置き方をされると、石が怒ったりするんです。いやいや、ホントの話です。
でね、約束の期日に、山根さんが石を運び込んできました。
個人の持ち山から親父が買ったものです。数は大小15個ほど。
大きいのは2mもあって、クレーンで運び下ろしました。
いや、私が見るかぎりでは、どれも野面(のづら)のあるいい石でしたよ。
けど、それらの石が運び込まれてきてから、おかしなことが起こり始めたんです。
まず、私の娘ね。今、高校3年で大学受験を控え、遅くまで勉強してるんですが、
あるとき、こんなことを言ったんです。

「勉強してて12時を回った頃に、部屋の空気を入れ替えようとして窓を開けたら、
 仮植え場の中が赤く光ってた」って。まあね、植木泥棒もいますから、
仮植え場には防犯灯をつけてますけど、赤く光るってのはありえない。
それで気になって、「今度光ったら知らせてくれ」そう言っておきました。
それから3日後ですね。時間は夜の12時過ぎ。私は焼酎飲みながらテレビ見てましたが、
そろそろ寝ようかとしたとき、2階の部屋から娘が呼びにきたんです。
「庭が光ってる」って。で、2階の廊下の窓から見たら、
たしかに赤く光ってるんです。ええ、石を運び込んだあたりが。
それがなんとも嫌な赤い色でねえ。朱色に近い光がチカッ、チカッと明滅してる。
もちろん、懐中電灯片手に見に行きましたよ。でもね、けっこう広い植木の
仮置場には、光るものなんて何もなかったんです。

で、家に戻ったら、玄関口に娘が出てきてまして、「お父さんが今、庭に出たとき、
 上から見てたんだけど、石の置いてあるところで、たくさん黒いものが出てきて
 囲まれてたよ」って。でも、そんなことなかったし、
もう一度2階に上がって見てみたら、赤い光は消えてたんです。
気味悪いなあと思いましたが、それ以後、娘が何か言うことはなかったんです。
それから2週間して、今度は女房が奇妙な目に遭いました。
これ、あまりに変な話なので、信じてもらえますかねえ。
その日、私は職人を連れて外に仕事に出ていて、女房が事務と店番をしてたんです。
仕事の依頼はほとんどが口こみか電話で受けるんで、
事務所に人が訪ねてくることはめったにないんですが、呼び出しが鳴って、
女房が出てみると、振り袖を着た若い娘さんが立ってたって言うんです。

女房の話では、うちの娘よりも若くて14,5歳ぐらいだろう。
目つきが少しキツイことをのぞけば、とてもきれいな娘さんだったそうです。
でも、そんな娘が造園業を訪ねてくるのも変でしょ。
女房が「どんなご用でしょうか」って聞いたら、娘さんはもじもじしてたけど、
意を決したようにこんなことを言ったそうです。
「この家のな、庭にある石な。悪いものが混じっておるぞ。
 ああいうものが近くにあると苦しゅうてならん。どうかどこぞに持っていって
 くれぬかのう」ええ、このとおりではないでしょうが、
現代の言葉じゃなかったそうです。女房はなんと返答していいかわからず、
「副社長(これ、私のことです)が戻りましたら、伝えておきますので、
 連絡先をお書きください」こう言って紙とペンを渡しました。

そしたら、ボールペンを使いにくそうにしながら何か書いたんですが、
その途中で、娘さんの顔中から金色の毛がぶわっと吹き出したんだそうです。「あっ!」
女房が驚くと、娘さんは紙を投げ出し、振り袖をひるがえして逃げていったそうで。
でね、私が戻ってきてその話を聞いて、半信半疑でしたが、紙を見ると
ひと目では読めないような達筆の字が書いてある。草書っていうんですか、
何とか判読したところ、それ、うちから500mほど離れたところにある
小さなお稲荷さんの住所だったんです。ええ、普段は神職もいないようなところです。
でね、そのままにしておけませんので、近所の人から神職の家を聞いて、
出かけてみたんですよ。神職はわりと若い人で、この地域を担当して、
神主が常駐してないこのあたりのお社をいくつも掛け持ちして
お祀りしてたんです。私が、ともかく女房が見た出来事の話をすると、

神職は少し考え込んでましたが、「うん、それねえ、心当たりがないこともない。
 私もね、最近夢を見るんですよ。狐の面をつけた女が暗い中に座っていて、
 怖い怖いって言う。何が怖いのか尋ねると、古い古い強い荒神が近くに来てる。
 怖くてたまらないから、出ていくように言ってくれ・・・こんな夢です」
でも、その神職にも、何をどうすればいいかわからず、
そのまま放置しておくしかなかったということでした。
でね、困ってしまって、親父に国際電話したんです。
親父が出たので、あったことを話すと、「うーん、見落としがあったか。 
 ちゃんとあちこち確認したつもりだったがなあ。ともかく、まだ日本には
 戻れんから、そうだなあ、お前、面倒だろうが京都の伏見稲荷まで行け。
 そこで、仮置場にある新しい石の数だけ御札をもらってきて、

 石に貼りつけておくんだ。それで当面は収まるだろ」
こんなことを言われたんです。伏見稲荷大社は、ご存知のように全国のお稲荷さんの
総本社ですよね。とにかく、言われたとおりにしました。
そしたら、それ以来おかしなことはなかったんです。
でね、数カ月後、親父が帰ってきまして。すぐに私と職人ら数人を連れて、
仮植え場に出て、搬入された石を、大きいのも小さいのも一つずつ手のひらをあてて
調べてたんですが、「ああ、これだ」って一つの石のところで言ったんです。
それ、中では大きいものではなかったです。中くらいより少し小さいやつ。
数人がかりなら人手で転がせそうでしたが、重機を使ってひっくり返してみました。
そしたらねえ、下になってた面に何か彫られてたんです。
けど、まったく読めないし、字であるかどうかもわからなかったです。

親父は「ああ、俺としたことが。見逃してたなあ。ヤキが回ったかもしれん」
こう言ったので、「社長、これ何なんですか?」聞いたら、
「神代文字だ。お前にはわからないと思うが、古代の山岳祭祀で使われたやつ。
 時代はそうだなあ、縄文中期ころか」 「それ、どのくらい前の?」
「5000年以上だ。お前は齢ばっかり食って、何にもわからねえなあ」
こう怒られました。親父は続けて、「強い神さんの気がまだ残ってるんだな。
 それで近所のお稲荷さんが怖がった。しかしなあ、こんなのにダメ出ししなかった
 俺もヤキが回ったかなあ。かといって、お前には、まだまだ任せられねえし」
その石は元あった山に返しました。あとね、お稲荷さんには、
私と女房で何回かお参りをし、お騒がせして申しわけありませんでしたと謝って、
油揚げをお供えしたんですよ。まあ、こんな話です。





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コメント
 「石は億年のレベル」という言葉はとても腑に落ちました。確かに、自然崇拝でいえば「天地草木」の一角をなす大物ですよね。
 また、「稲荷様がボールペンで自分の住所を書く」くだりのおかしみが素晴らしいです。たぶんペンに集中しすぎて変化が解けたんだろうなあ。
| 2018.10.14 14:42 | 編集
コメントありがとうございます
石の祟りという話はけっこう聞きますね
bigbossman | 2018.10.15 03:15 | 編集
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