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オブジーボとお金と年齢

2018.10.12 (Fri)
今年のノーベル医学生理学賞は、人の体の中で異物を攻撃する免疫に
ブレーキをかけるタンパク質を見つけた京都大学の76歳の本庶佑特別教授と、
米テキサス大学の70歳のジェームズ・アリソン教授に与えられた。

受賞の理由は、免疫機能のブレーキを解除することによるがんの治療法を
確立したことだった。本庶氏の研究は、小野薬品工業が2014年に発売した
新型がん治療薬「オプジーボ」につながった。
オプジーボはがんの治療に高い効果があり、世界から注目されている。

本庶氏とアリソン氏の発見を契機に、オプジーボのような「がん免疫療法」が
次々と研究・開発されている。いまや免疫療法は手術、
放射線照射、抗がん剤に続く第4の治療となり、
これまでの治療が難しい患者に大きな希望を与えている。
(グノシー)



今回はこういうお題でいきます。オカルトの話ではないのでスルー推奨です。
さて、何から話しましょうか。癌の治療法の柱として、手術、放射線療法、
化学療法の3つがあるのはご存知でしょう。この中で、手術と放射線は、
早期の癌に対して根治を望める治療法です。

癌という病気は、転移しているかどうかで治癒への展望が分かれます。
例えば肺癌になったとして、癌が肺の中一ヶ所だけで、他に転移していなければ、
これは局所疾患と見ることができ、手術で腫瘍を摘出するか、
放射線で癌細胞をすべて死滅させることができれば、根治する可能性があります。

これに対し、癌が転移している、つまり体液の中に癌細胞が入り込んで
体の中を巡っている場合は、全身疾患となります。手術でいくら切り取っても、
次々に新しい場所に癌ができ、いたちごっこになってしまうんです。
この場合、手術は患者の体力を消耗させるだけでしかありません。

実際、大腸癌などの特別なケースをのぞいて、
転移を次々に切り取る場合と、そうしない場合を比較すると、
手術したほうが生存期間が短くなっちゃうことが多いんですね。
ですから、転移した癌に対しては基本的に化学療法、つまり、
抗癌剤治療ということになります。ですが、抗癌剤ではまず根治は望めません。

癌と共存し、延命を図ることしかできないんです。現在の医学は、
転移した癌に対してほとんど無力なんですね。そこで、癌治療の4つ目の柱として
期待されるのが免疫療法です。免疫なら、全身に癌が散らばっていたとしても、
それらをすべて消し去ることができる可能性があります。

現在 注目されている「光免疫療法」も、特筆される部分は、
近赤外線を癌細胞にあてて破壊することではなく、それによって自己免疫が
癌細胞を認識し、転移巣をも攻撃するところなんですよね。
ですが、残念ながら、その部分は今一歩うまくいってないようです。

関連記事 『光免疫療法について』

さて、前に「オブジーボは夢の新薬ではない」と書きましたが、
例えば肺癌で見ると、オブジーボの効果があるのが、全患者の2割ほどです。
その2割も、癌が根治するわけではなく、せいぜい癌が縮小し、
生存期間の延長が見られる程度の場合が多いんです。

で、オブジーボには薬価問題があります。これは国会でも取り上げられ、
議論されています。最初にオブジーボが発売されたときには、一人の患者が1年間
使用すると3500万かかりました。まあ、保険適用で自己負担は3割、
さらに高額医療費制度で、患者が実際に負担する額は年間100万円台ですが、
残りの金額は健康保険から支払われることになります。

そのため、このままでは保険医療が破綻してしまうのではないかと危惧された
わけです。当時は、オブジーボが使えるのは一部の皮膚癌だけでしたが、
現在では肺癌や胃癌に適用範囲が広がっています。例えば、年間5万人の患者が
オブジーボを使うとして、これ一つの薬代だけで年1兆7500億円になります。

これでは、たしかに日本の国民皆保険制度が破綻しかねません。また、
医療費や薬剤費の約4分の1が国費でまかなわれているので、国の予算に占める
社会保障費への影響も非常に大きなものになります。こう書くと、
じゃあ薬の値段を下げればいいじゃないか、と思う方もいるんじゃないでしょうか。
実際、オブジーボの場合は特例として、年間1000万まで薬価が下がっています。

ですが、新薬の開発には長い年月と莫大な予算が必要です。本庶博士の場合も、
PD-1の発見は1992年で、薬剤として結実するまで20年がかかってるんです。
それを安易に薬価を下げることで対応してしまうと、製薬会社の新薬開発に対する
意欲が削がれてしまうことになりかねません。画期的な薬が新しく出てこないとなれば、
それはそれで困りますよね。それに、薬の多くは外国で開発されたもので、
その値段を、日本で勝手に下げるのは無理です。

じゃあどうすればいいのか。もちろん一番いいのは、オブジーボが効く患者を
厳密に選んで投与することですが、これが難しいんです。癌という病気は
遺伝子の変異であり、患者一人一人、微妙に性質が異なっています。
ですから、投与してみないと効くかどうかわからないという面があるんですね。

次に、年齢制限をもうける。例えば75歳以上の患者にはオブジーボのような
高額な薬は使えないようにするとか。でも、それだと「老人切り捨て」という
批判が必ず起きます。今の日本は少子高齢化社会で、お年寄りの有権者が多い。
そんな政策を打ち出したら、政権が倒れるかもしれません。
どこの政党でもできないでしょう。

次、オブジーボを使う場合は自己負担額を大きくする。しかし、そうすると、
お金がない人は治療をあきらめるしかなくなってしまいます。命に値段がついて、
金持ちしか長生きできない社会というのは、無保険者の多いアメリカが
それに近いですが、本当にその形でいいのかは、大きな疑問があります。

最後は、健康保険料を大幅に引き上げることです。でも、医療保険って、
若いうちはあまり使うことがなく、中年以降に生活習慣病などで
医者にかかることが多くなっていくのが普通ですよね。それを、若い人にも
多大な負担を強いることになるのは難しいと思うんです。それでなくても、
若年層の生活困難が、少子化につながっている面があるわけですから。

さてさて、ということで、どうすればいいんでしょう。現在、日本人の2人に1人が
癌になり、3人に1人が癌で亡くなっています。けっして他人事ではないんです。
今後、画期的で、しかも薬価が高い新薬は、免疫療法の進展とともに、
次々に開発、発売される可能性があります。
みなさんは、どう考えられますでしょうか。では、今回はこのへんで。

関連記事 『パラケルススとオブジーボ』





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