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扉の掛け軸の話

2018.10.23 (Tue)
今晩は。前に何度かおじゃました元骨董屋です。ほら、鋺とか屏風、鏡の話をした。
また一つ、奇妙な事件に関わったので、やってきました。
ええ、私はもう骨董屋は引退してるんですが、ときおりね、目利きを頼まれるんです。
立派な言葉で言えば鑑定ってやつです。ほら、テレビで「何でも鑑定団」なんて番組を
やってるでしょ。でもねえ、私から言わせれば、鑑定なんて言葉を使うのは、
うさん臭いやつが多いんですけどもね。それで先月、その旧家におじゃましまして。
私らが古物を仕入れる場合、方法は大きく3つあるんです。
一つは店買い。そう、お客さんが持ち込んだ品物を買わせていただく。
これはね、ピンキリですけど、あんまりいいものはありません。
それと、盗品に気をつけなくちゃならない。だから、悪いけどね、
店に来たお客さんの人品骨柄は、しっかり見定めさせてもらいます。

それはそうでしょ。貧乏くさい、骨董の知識なんてなさそうな人間が、
すごいお宝を持ってきたとしたら、やはり怪しみますよね。
次が市場買いです。ええ、仲間内の市で仕入れる。でも、これでいいものは買えません。
あたり前ですが、いい品だったら自分の店で売るでしょ。
3つ目が、宅買いです。はい、個人のお宅に出張して買い取る。
これが一番期待できます。でね、宅買いにも2種類あるんです。
まずは、亡くなった方が生前に骨董を集めていたのを、まとめて買い取る場合。
ただこれも差があって、一般のお年寄りが年金でちょこちょこ集めてたのと、
大会社の社長だった方とかのコレクションじゃまるで違います。
あと最後ね、その地方の旧家が解体されるときに、蔵にしまい込まれてたお宝を
一気に買い取る場合。これは大きな商売になりますよ。

ああ、すみません。内輪話が長くなってしまって。でね、先月、目利きを頼まれたのは、
長野のほうにある古いお屋敷で、当主の方が事故で亡くなられたんです。
狩猟を趣味にされてたみたいで、山で猟銃事故があったみたいなんですね。
で、当主の死をきっかけに、子どもたちが遺産分けをすることになり、
屋敷も、お宝類も一切現金化してしまおうってことだったんです。
私が頼まれたのは、もちろん、現役の古物商じゃないからです。
ね、自分が商いするわけじゃないから、公正な評価ができる。
そう思われたんでしょうね。でねえ、すごいお宝ばかりでしたよ。
江戸中期頃のものが多かったんですが、中には室町と思える硯箱の逸品もありました。
で、その中で一つだけ、評価に困る品物があったんです。
掛け軸でした。表装は古かったですが傷みはなく、

いい拵えでした。でも、絵柄がどうにも判断のつかないもので。
扉が描かれてあったんです。おそらくはかなり古式の、神社の扉です。
賽銭箱や鈴のようなものはなく、ただの固く閉まった扉。
でね、その前に空の三方が一つ置かれてる。ほら、神道で使う供物を乗せる台ですよ。
ねえ、おかしな絵柄でしょう。絵そのものは上手いも下手もない、
写実的なもので、正直、時代もわかりませんでした。使われてる顔料の分析をすれば
判明するかもしれませんが、そこまではねえ。もちろん署名や落款はなし。
で、値はつけられないです、って正直に言ったんです。そしたら、
お子さんの一人から、こんな話を聞かされまして。
この掛軸は、故人がとても大切にしていて、普段は厳重にしまってあるのが、
ときおり出されて、奥の和室の床の間に飾られることがあった。

故人は、株の取引、為替、先物買いなんかを手広くやられていたようで、
その掛け軸が持ち出されるのは、大きな取引の前が多かったそうです。でね、
故人は山に入って、野兎なんかを撃ってきては、その掛け軸の前に投げ出すように置く。
あと、猟期でないときは、ペット屋から小動物を買ってくる。
で、絞めてから同じようにする。畳が血で汚れたりもしたそうです。
それで、その部屋には故人が一人で籠もり、家人は朝まで絶対に入れずに一晩を過ごす。
故人は夜が明けると、憔悴した面持ちで出てきて、まず風呂に入る。
それから大飯を食ったんだそうです。ええ、中肉中背の人で、普段は晩酌をして
食事はあまりとらなかったのに、おかずなしで、おひつに山盛りの飯を平らげたそうです。
それとね、不思議なことに、その部屋に持ち込まれた狩猟の獲物の動物が、
どこにもなくなっていたんだそうです。

でね、これに関して、相続人の一人の息子さん、といっても50代くらいでしたが、
「私は一度だけ部屋をのぞいたことがある」とおっしゃられて。
その人が結婚前でまだ実家にいたとき、例によって故人が白兎を持って部屋に籠もった。
息子さんはその儀式に前々から興味を持っていたので、
夜中の3時ころに、その部屋までそっと近寄って、小さく小さく横手の襖を開け、
こっそり中をのぞいてみたんだそうです。そしたら、床の間の掛け軸を前に、
故人がきちんと正座し、目を前方に据えている。
でねえ、掛け軸の前に置かれてるはずの白兎がない。おかしいと思って見回すと、
なんとね、絵の中の三方に兎がのせられていた・・・
ええ、絵の中に入っちゃったってことですね。息子さんはひどく奇異に感じましたが、
音をしないように襖を閉め、それで戻ってきたそうです。

で、翌朝、故人が部屋から出てきたんですが、いつもと違って、手で兎の足をつかんでいて、
しかもその兎は、まだ獲ったばかりだったのが、ズルズルに腐っていたそうです。
それと、故人の額に、☓の字型の傷があり、血がしたたっていました。
故人は部屋から出てくるなり「不興をかった、何故だあ!!」
大声でそう叫ぶと、そのまま布団に入って3日3晩起きてこなかったそうです。
息子さんが責められるとかはありませんでしたが、そのときの取引は大損で、
一時は家が傾いてずいぶん困窮したそうです。ですから、それ以来、
部屋をのぞくことはしなかったということでした。
でね、故人は70歳を過ぎても、ときどき大きな取引をしてましたが、
亡くなる直前、子どもらの家族が実家に呼び集められまして。
ええ、故人からみたらひ孫にあたる幼児も何人かいたんです。

で、それまでは小さい子をかわいがることなどあまりなかった人なのに、
夕食の席で小さい子どもを一人ひとり抱きあげて、頭をなでたり頬をさわたりしたそうです。
それから、その掛け軸を出してきて、奥の部屋に飾った。
でも、その翌日、急に猟にいくと言い出し、鉄砲を持って一人で山に入り、
そこで亡くなったんですね。自分の鉄砲で頭を撃ち抜かれて。
警察は自殺も疑ったそうですが、そこは旧家ですから、猟銃事故ということにしてもらって、
葬式を終えた。でね、故人の奥さんはとうに亡くなってましたから、
最初のほうで話したように、子どもたちはその家を畳むことにして、
すべてをお金にかえて遺産分けすることになったんです。
ですが、調べてみると、現金は思いの外、少なかったんです。借金こそなかったものの、
おそらく投機の失敗が続いていたんでしょうねえ。

で、私ね、よせばいいのにスケベ心を起こしまして。その掛け軸、もっと専門的に
目利きしたいと言って、借りてきたんですよ。だってねえ、気になるじゃないですか。
これもおそらく、何かしら命を持った古物なんでしょう。
引退はしましたが、そういう興味は失っていない。でね、自分の家に持ってきて、
和室の床の間にかけてみたんです。ええ、私は今、一人暮らしで、
迷惑をかける家族はいませんから。掛け軸を前にして、つまみなしで焼酎の
ロックを飲んでました。そうやって朝まで過ごすつもりだったんです。
何が起こるか?起こらなくても、それはそれでよしと思って。
夜中の12時を過ぎても何も起きませんでした。ただのつまらない絵柄の掛け軸。
少々飽きてきまして、焼酎の杯も進みました。
それで、2時を回った頃ですか。少しうとうととして・・・

獣臭かったんです。ものすごく強い獣臭。それで目を覚まして、
反射的に掛け軸のほうを見ました。そしたら、三方はそのままでしたが、
絵の中の神社の扉が少し開いていたんです。ええ、数cmほどでしたけど。
でね、その間に目が見えたんです。人間のものではない片方の目。
黒目がちで、強い青い光を放っていると思いました。「あっ!!」そう叫んで
私が立ち上がると、「ビシャーン」大きな音をたてて絵の中の扉が閉じたんですよ。
それっきり、朝まで何事もありませんでした。でね、その掛け軸の中のもの、
それがまだ生きてることがわかりましたんで、依頼人の方たちには、
売るのはやめて、どこぞの有名な神社へ奉納するよう進言したんですよ。
まあこれで、今回の話は終わりです。え、掛け軸の中のもの?
それはわかりません。私はあくまで骨董屋で、神職とかではありませんからねえ。





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