FC2ブログ

石が見る話

2018.11.10 (Sat)
うちの座敷の床の間に飾ってあった石の話なんです。今はもうないんですけどね。
そうですね、大きさは横40cm、縦が30cmくらいでした。
やや横長の、山のような形をした自然石です。
かなり古色のついた木製の台座の上にのってました。こういうの、
水石っていうみたいですね。中国の宋の時代に始まった趣味が、
日本に伝わってきたって話です。後醍醐天皇が愛蔵していた石が、
今も美術館に遺されてるそうですね。その石、色はやや紫がかった青で、
表面がつるっとしてたんです。おそらく川の中にあって、
水流で磨かれたんだろうと思います。それで、ちょうど真ん中へんに、
そうですね、幼児の拳が入るくらいのぼこっとした凹みがあって、
離れたところから見ると、全体が目に見えなくもないっていう。

うちは新しく建ててから、まだ10年くらいで、
その石は、実家にあったものを持ってきて飾ってたってことです。
いや、私は、水石とかそういう趣味はないんですよ。古臭いし、
それにそういう石って、すごい高価みたいなんですよね。今、子ども2人が
大学生と高校生ですから、そんなお金もないですし。
じゃあ、何で置いてたかっていうと、父親の遺言で。
親父は7年前に病気で亡くなったんですが、病院で、いよいよもういけない
ってときに、私にあの石の話をしまして。ええ、「あの石は長男であるお前が
 引きうけろ。絶対に売るんじゃないぞ。お前の家の床の間に飾って、
 月の初めの日に、お神酒徳利1本に特級酒を入れてお供えしろ。
 必ずだぞ」こんな内容でした。ねえこれ、変に思いますでしょう。

だって危篤の際に言い残すことって、もっと他にありそうなもんじゃないですか。
ええ、まわりにいた親族も変な顔をしてましたよ。
でもね、親父は頭はぼけてたわけじゃないので、きっと大事なことなんだろう
と思って、言われたとおり実家からあの石を持ってきて、
新築の家の床の間に置いてたんです。はい、お神酒を供えるのもやってました。
別に難しいことでもないですからね。でね、やっぱり少し変だったんです。
お供えしたお神酒が3日くらいで空になるんです。
そんな早くに蒸発するわけないしね。それと、お神酒をお供えしてしばらくは、
さっき話した石の中央の凹み、そこだけ色が濃くなって、
さわってみると濡れてたんですよ。これ、石が酒を飲んだんじゃないかって
考えたくなりますよね。まあ、そんなことあるわけないとも思ったんですが・・・

で、3ヶ月前のことです。私、会社の接待でゴルフをやってて、
アキレス腱を断裂しちゃったんです。完全に切れてしまって、
入院して手術しました。そしたらなかなかくっつかなくて、
入院が2ヶ月におよんだんです。今はだいたい治りましたけど、もうゴルフは
無理かもしれません。でね、このときの入院騒ぎで、
石にお神酒をあげるのを1回パスしちゃったんです。そこまでまったく
気が回りませんでした。家内に言って、やってもらえばよかったんですが、
それもできなくて。手術から週間ほどしてリハビリが始まり、
そのとき病院に来てた家内が、妙なことを言い出しまして。
あの、石の置いてある座敷、ふだんは使うことはないんですが、
そっから夜中に、人の声が聞こえるって言うんです。

ぶつぶつ、ぼそぼそ、太いけど低いささやくような声が。
「お前の気のせいだろ」って言ったんですが、下の息子も聞いたって話で、
部屋に入っても誰もいない。ただ、まだ秋口なのに、
座敷の中は身震いがするくらい寒かったそうです。
そこで、「あっ!」と思い出しまして。もう月も半ばに入ってたんですが、
家内にお神酒をあげるように言ったんです。で、家内がそうしたら、
翌朝になって、お神酒徳利がつぶされたように粉々に割れてて、
中の酒が全部こぼれてたってことでした。それに、ぶつぶつ言う声は収まらず、
むしろだんだんに大きくなってきてるとも言ってました。
でね、なんとか退院することができまして、気になってたんで、
最初に石を見にいきました。そしたらねえ・・・

なんとなく色が変わってる感じがしたんです。
澄んだ青い色をしてたのが、赤い色がやや入ってるように思えました。
で、さわってみたら、何だか温かいんですよ。
そうですね、人の肌ほどではないけど、じんわり温かみが伝わってくる。
やはり変ですよね。あと、人の声が聞こえるのは夜中ってことだったから、
その座敷に布団をひいてね、私が一晩寝てみることにしたんです。
10時過ぎには布団に入ったんですが、どうにも寒くてね、
なかなか寝つけませんでした。それでもいつの間にかうとうととて、
どのくらいたったでしょうか。金縛りの状態で意識が戻りました。
目も開けられないし、指も動かない。ただ、耳は聞こえて、
ぶつぶつ、もごもごいう声がすぐ近くでしてたんです。

それと、胸の上がすごく重くて。ええ、金縛りはそういうことが多いんですってね。
どうしようもないので、そのぶつぶつ声に耳を澄ましてたら、
だんだんに言ってることがわかってきたんです。昔の言葉だったので、
そのままじゃないんですが。・・・この内容、うちの家系の恥になることですので、
なんとか他言はしないようにお願いします。
「見たぞ、見たぞ、〇〇徳治郎が死ぬのを見たぞ。徳治郎は医者に注射されて
 死んだぞ。空に手を伸ばして苦しんで死んだぞ。女狂いであちこちに妾をつくっていた
 徳治郎、家財を使い果たして女たちに捨てられ、親族にあいそをつかされた徳治郎、
 家族に暴力をふるって暴れた徳治郎は、医者に毒を注射されて死んだぞ・・・
 見たぞ、見たぞ、その息子の篤蔵は、役場の金を使い込んでいたぞ、
 金庫を開けて、溜め込んでいた金を一枚一枚数えてるのを見たぞ、見たぞ・・・」

これ、最初の徳治郎の名前は聞いたことがなかったんですが、
篤蔵というのは、うちの曽祖父です。「何の話なんだこれは?!」と思っていると、
わずかに指の先が動くのがわかりました。金縛りがとけてきてたんです。
それで、指を2本、3本と動かしてるうち、腕も大丈夫な気がしたので、
思いきって布団をはね上げたんです。ゴロリ、重いものが転げる感触がありました。
肘をついて上半身を起こすと、枕元にあの石が、ひっくり返った形であったんですよ。
床の間にもどしましたが、かなり温かくなっていて、なんだかドクンドクンという
鼓動のようなものまで手に伝わってきたんです。翌日、少し調べましたが、
曽祖父が、勤めていた役場の金を使い込んで、なんとかもみ消したのは
事実でした。徳治郎はその父親、当時の家で病死してるまではわかったんですが、
なにぶん昔のことで、それ以上は・・・

でね、これ、私の家はかなり古い旧家なんですが、その歴代の秘事を
石が知ってるということになりますよね。ああ、だから親父が、
この石はどこにも売るな、月一でお神酒をあげろって言ってたんだなって
わかりました。要は、石の機嫌をとってたってことでしょう。
それが、私が1回とだえさせてしまったためにへそを曲げた。
困りましたよ。その後は、何度お神酒をあげても、徳利が割れるばかりだし、
ぶつぶつ言う声も収まらなかったですか。あれこれ収拾策を考えたんですが、
知り合いに、古物商を引退して、今は悠々自適にくらしている人がいることを
思い出しまして。それで、その人に相談をしました。
そしたら、さすがに石のことは自分ではわからないからと言って、
水石を専門にあつかってる方を紹介してもらったんです。

ええ、大学生の息子に手伝ってもらって、その方の店舗に石を運び込みました。
店は広く、どのくらいかわからないほどの数の石が置かれてましたね。
出てきたのは、80歳すぎに見える老人で、
気難しい顔に見えたんですが、言葉は穏やかで、
「事情は聞いています。これですか」と、その数十kgある石をひょいと持ち上げ、
「ははあ、なるほどねえ、これは目を持ってる」と言って石を置き直し、
ゆっくり何度も、石の上をなでたんです。そしたら、
石にあったあの凹みのところから、だらだらと水がこぼれだしまして。
老人は「この石はわしがあずかりましょう。もう見たことを話すことはないです。
 買い取りではないから、お金は払えないですけども」こう言ったんです。
一も二もなく承知しまして、そこの店に置いてきたんですよ。

水石 石の穴は「ジャグレ、虫食い」などと言います




関連記事
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/1656-4714dcfb
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する