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海の家のバイトの話

2018.11.18 (Sun)
こんばんは。都内のある大学の2回生の、山田っていいます。
知り合いから、ここに来て怖い体験を話すとお金がもらえるって聞いて来ました。
よろしくお願いします。ただこれ、そこまで怖いかどうか微妙なんですけどね。
去年の夏休みの話です。俺、工学部の材料化学研究室ってとこに所属してるんですけど、
そこの先輩からバイトの話がありまして。はい、俺らの研究室で
代々受け継いでるバイトです。関東のある県の海水浴場の海の家で働くんですよ。
なんだ、楽そうだって思うかもしれませんが、これがそうでもなくて。
時間は長くはないです。海水浴場が開いてる10時から4時まで。時給は安かったですけど、
朝夕の食事が出ます。このバイトを受けたのは、俺ともう一人、
同期の竹島ってやつです。はい、このバイトは、俺らの研究室の誰かがやらないと、
大学の別の研究室にとられちゃうんです。

だから、先輩方も新入生をいろいろあたって、俺ら2人を確保したんです。
みんなやりたいんじゃないかって思うかもしれませんが、そうでもないんですよ。
3週間向こうに行って泊まり込みですから。都内で定期のバイトを持ってるやつは
できませんしね。でね、俺らが出発する段になって、
紹介してくれた先輩からいろいろアドバイスを受けました。
まず、日焼け対策をしっかりやれってこと。海の家ってほら、
外壁がなくて、柱に屋根がついてるだけでしょ。だから外にいるのと大して変わらなくて、
1週間で皮がむけてヒドいことになるぞって。
あと、女遊びはほどほどにしろよ、とも言われました。けっこう女の子だけの
グループでそこの海水浴場にくるらしいんです。それが日帰りだったら、
どうにもならないけど、近くのリゾートホテルに泊まってるのなら、

夜に会う約束をしといて、ナンパできるって言うんですよ。これはねえ、
期待がふくらみました。あとですね、最後に妙なことを言われたんです。
「大岩の上にある神社に、あんまり近づかないほうがいいぞ」って。
これ、イミフですよね。でも、そのときに理由を聞いても、
はっきりとは答えてもらえなかったんですよ。ただ「気をつけろ」ってだけ。
まあでも、あんまり気にしてませんでした。
そこの海水浴場には電車で行きました。俺ら車なんて持ってないですし。
竹島と、バイト開始の前日の午後にその町の駅に着くと、約束通り、
海の家のおばちゃんが迎えに来ててくれました。そうですね、齢は50代くらい。
太ってて、元気のいい人でしたよ。その場で、名物のソフトクリームをおごって
もらったんです。ああ、今年の夏は楽しくなるぞ、そう思いました。

それからおばちゃんの車に乗って海水浴場まで来ました。
泊まるのは、おばちゃんがやってる民宿の一部屋だったんですが、
最初は別のところに行ったんです。堤防の外にバンを停めて、歩きで海に向かいました。
でね、そこの海岸は磯浜で、大きな黒い岩がいくつも積み重なってるんですが、
その一つに階段がついてまして、おばちゃんがえっちら上ってく後をついてったんです。
そしたら低い鳥居が見えてきました。岩の上に神社があったんですね。
社殿はすごく小さいもので、お堂と言ってもいいくらい。
それでも、小さい注連縄と鈴がついてました。おばちゃんがそれを鳴らして、
3人でお参りをしたんです。おばちゃんは、今年の夏が事故なく無事に終わるようにって
ことだと言ってましたね。岩の上から下を見ると、波が砕けた上のほうに、
ワカメのような形の赤っぽい海藻がたくさんうちあげられてました。

あと、そのとき、ここの岩は満潮時には鳥居のすれすれまで海が来るって話も聞いたんです。
それから、おばちゃんの家に行きましたが、海から100mも離れてない近くでした。
かなり古い家で、外壁は潮風のせいかボロボロに剥げて、民宿の看板が出てました。
そこの一部屋が、それから俺と竹島が3週間過ごす場所。
6畳の畳の部屋で、テレビがあって、小型の冷蔵庫もありました。
おばちゃんに、近くにコンビニはないかって聞いたら、
「ここらにはそいう気の利いたものはないな」って言われて、少し離れたところの
酒屋を教えてもらったんです。それで、竹島と缶ビールを買いにいきました。
道はすぐわかって、帰りに、竹島と神社の話をしたんです。
「先輩にバイトを紹介されたときに、神社に近づくなって言われなかったか」
「ああ、言われた。あそこのことだろうけど、どういう意味なんだろうな」

でも、そのときにはまったくわかりませんでした。で、翌日からバイトが始まったんですが、
慣れるには時間がかかりましたね。午前中はジュースやアイスを買いにくる客。
それとかき氷ですね。作り方は簡単でした。けど、昼時になるとすごく混んだんです。
他にも海の家はいくつもありましたが、どこも満員状態。
ひっきりなしにお客さんが来て、ラーメン、焼きそば、カレーなんかを注文します。
おばちゃんが一人でそれらを作ってたんですが、午後になってお客さんが
少なくなった時間に、2人で作り方を習ったんです。まあ、カレーは作り置きでしたが、
焼きそばはコツがあってけっこう難しかったです。そんな感じで、一日一日と
バイトの期間が過ぎていったんです。おばちゃんは、どうやら一人暮らしの
ようでしたね。でねえ、ナンパのほうはなかなかうまくいきませんでした。
女の子の2人連れをねらって、俺らの海の家に来たときに声掛けしたんですが、

後で彼氏が合流するとか、大きな市に出て宿泊するとかが多かったんです。
それでも2組、女の子たちと、夜の8時に海の家の前で待ち合わせする約束を
取りつけたんですけど、2回ともね、女の子たちは来なかったんですよ。
で、3回目、あんまり期待してなかったんですが、やっと女の子たちが来てくれて。
やった!って思いました。まずね、その子たちが持ってきてた花火を、
浜でやったんです。俺らの他に人影はなかったです。
でね、そのときに、海際がだいぶ深くまで入り込んできてるのがわかりました。
新月の満潮になってたんです。花火が終わって、女の子たちともだいぶ気持ちが近づいて、
さあ、街に飲みに出て、それからってときに、竹島のやつが神社の話を出したんですよ。
満潮時には、鳥居のある ひたひたのところまで海がせまってきてるって。
そしたら、女の子たちが、ぜひ行ってみたいって言い出しまして。

それで、神社には浜からは近づけないので、いったん堤防の外の道路に出て、
それから階段を上って大岩の上に出ました。月のない晩でしたけど、
社殿の屋根に1個、防犯灯がついてて、あたりの様子は見えました。
でね、たしかに海が近かったんです。鳥居のすぐ外を波が洗ってました。
岩は傾斜がついてるので、もし足を滑らせたりすると、
そのまま海に落ちていきそうでした。ですから、それぞれ女の子たちの手を引いて、
鈴を鳴らし、簡単にお参りを済ませたんです。そしたら、それまで穏やかだったのが、
ドーンと急に大きな波が来て、それが退くと、鳥居の内側に何か大きな黒い固まりが
打ち上がったんです。「ああ、びっくりした。あれ、何だろ」
「もじゃもじゃした形だから、海藻じゃないかな」 「ちょっと見てくる」
よせばよかったんですが、女の子たちの前でカッコつけたかったんですね。

俺と竹島が近づいていくと、遠くからの明かりで、やっぱり海藻のからまったものに
見えました。一部を引きちぎって女の子たちのところに持っていこうとしたとき、
その中からにゅっと白い手が伸びたんですよ。そして、竹島の腕をつかみました。
「あああっ」竹島が腕をメチャクチャに振り回しても離れない。
俺は逃げてしまいそうでしたけど、横からその竹島をつかんでる腕を蹴り上げたんです。
手が離れ、それと同時に海藻の固まりが上に持ち上がりました。
白い顔があったんですよ。若い女の真っ白な顔が。女の腕はパタパタと岩の上を動き、
何かつかまえるものを探してるような・・・俺は、腰が抜けて座り込んでいる
竹島の脇に手を入れて立たせ、女の子たちがいるところまで下がったんです。
そのときまた大きな波が来て、次に見たときには、何もなくなっていたんです。
もうナンパどころじゃなく、怯えてる女の子たちをリゾートホテルまで送っていきました。

それから、おばちゃんの民宿に戻ったんです。もちろん、竹島とで見たもののことを
話しましたが、海藻を全身にかぶった女ということしかわかりませんでした。
・・・ここから話すことはあまりないです。3週間のバイト期間が終わり、
おばちゃんは、ボーナスと言って、1万円色をつけてその週のバイト料をくれました。
それから、「ちょっと拝んでいってくれるかい」と言って、母屋の、
仏壇のある部屋に連れてかれて。仏壇は開いてて、お線香の匂いがしました。
手前のほうに小さな写真立てに入った遺影があり、若い女の子が海を背に
笑って立ってました。おばちゃんは、「これね、17歳のときに海で死んだうちの娘,
そのことが原因で夫とも離婚してね」そう言ったんですよ。・・・これで終わりです。
娘さんの写真は、あの神社で見た顔と似ているような気も、そうでない気もしました。
え、ナンパですか? それがねえ、その後は1度もチャンスがなかったんですよ。





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