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万華鏡の話

2019.02.05 (Tue)
1月2日の夜です。5歳の息子を連れて初詣に出かけたんです。
大きな神社にはいきませんでした。運動公園の野球場とサッカー場の間に
せまい林があって、その中に建ってる小さな神社。
はい、大きな神社に行かなかったのは、息子が人が多いのを嫌がるからです。
車で行ってサッカー場の駐車場に停め、息子を車から出そうとしたら、
少し嫌がるそぶりをみせました。それで、「だいじょうぶ、暗いし、
 そんなに人は出てないから」そんなふうに言いました。
息子は、齢のわりに体が小さく、左手が不自由なんです。
息子の頭にヤッケのフードを深くかぶせ、満足なほうの手を引いていくと、
そんな場所の神社でしたが、ちらほらと参拝客はいて、
ほとんどが近所の人なんだろうと思いました。

まだ早い時間で、社殿の扉は開いており、お灯明が灯されていました。
その日に降った雪を踏みながら、前まで行ってお賽銭を投げ、
それから、2人で並んでお参りをしました。ただ、さっき言ったように、
息子は片手が利かないので、手を合わせることはできないんです。
夜店なども出てないので、そのまま帰ろうとしたんですが、
息子に「何をお祈りした?」と訪ねても、黙ったままでした。
「おみくじを引いてみようか」と、さらに聞いたんですが、
息子は「いらない」と言って、少しかがむような動作をしたんです。
でも、そのときは暗かったので、何をしたのかはわかりませんでした。
車に戻って、息子を後部座席のチャイルドシートに乗せました。
で、家に戻ったんですが、家といっても私の両親が住んでる実家なんです。

何から話をすればいいんですかねえ。どこから始めても恥ずかしい内容ですから。
私は、地方から東京の大学に出て、東京で就職したんです。
有名大学ではなかったんで、中規模の流通・配送の会社でした。
そして、大学のときに知り合った妻と結婚し、4年して息子が生まれました。
それで一念発起して長期のローンを組み、新興住宅地に建売の家を買ったんです。
いや、小さな家で、新築でもなかったんです。
はい、前の住人がローンを払えないで手放した家なんですね。
そういうところは多いんです。安くはなっていましたが、
若造のサラリーマンには高い買い物だったんですよ。ただ、
その家では、いい思い出は一つもないんです。
まず、妻の精神状態が悪くなってきました。

私が勧めて心療内科に通わせたんですが、原因ははっきりしません。
毎日イライラした様子で、言葉の端々にトゲが出てきたんです。
もしかしたら、近所の奥さん方と何かがあったのかもしれません。
息子が保育園に入ったのを期に、妻はパートに出ようと言い出し、
私は、そのほうが気が紛れてかえっていいかもと思って賛成しました。
で、その矢先、私が会社をリストラされてしまったんです。
はい、会社の経営がうまくなく、大量の人員整理があって、
それに私も引っかかってしまったんです。もちろん妻には話しました。
次の仕事はすぐに探すが、この家は手放さなくちゃならないかもしれない、って。
妻は荒れに荒れました。その日から毎日のようにケンカです。
妻は、「あなたと結婚したのは間違いだった」とまで言い、

それで私のほうも激昂しまして、つかみ合い寸前にまでいきました。
そんなことが、息子が寝てから毎晩続いたんですよ。
それから1ヶ月たたない夜中ですね。家が火事になりまして。私も妻も
自力で逃げて無事でしたが、家はほぼ全焼で、隣に延焼しなかっただけ幸いでした。
火事の原因はまだ決着がついていません。警察の話では、
ブレーカーの近くから火が出ており、漏電の可能性があるとのことでした。そのため、
今も、建売を販売した不動産会社、火災保険会社ともめてるんです。
それと、私と消防士に助け出された息子なんですが、左の腕から肩、
左の首と頬に大きな火傷を負ってしまったんです。病院で皮膚の移植をし、
8ヶ月ほど入院しました。そして、息子の退院の後すぐ、
私たちは離婚したんです。はい、妻は息子を連れていく気はまったくなかったので、

私が引き取ったんですが、家は焼け、仕事もない最悪の状態で、
どうにもならず、郷里に戻って両親の実家に転げ込んだんです。
はい、両親は嫌な顔をせず受け入れてくれましたし、ひどい火傷の跡の残った息子を
とても可愛がってくれています。今、仕事のほうは、近くの市場の配送に
アルバイトで出ています。まあ、こんな事情で。
で・・・初詣から帰って、私たちの部屋に戻ったとき、息子がヤッケのポケットから、
筒のようなものを取り出したんです。「何だそれ?」 「拾った」
見ると、筒は十数cmほどで、きれいな和紙がまわりに貼ってありました。
息子は片手でそれを持ってのぞき込み、「わあすごい」と言ったので、
「お父さんにも貸して」中をのぞくと、色とりどりの模様が広がっていました。
「ああ、万華鏡だな」そう言って息子に返しました。

拾ったものだから、神社に連絡しようかとも考えたんですが、社務所もないような
ところですし、警察に届けても持ち主には届かないと思いました。「まあ、いいか」
息子は、幼稚園にも保育園にも通っていません。引っ越しのドタバタがありましたし、
火傷の跡を気にしているのか、息子が行きたがらなかったんです。
でも、今はいいとしても、いずれ小学校にあがります。
それから、私が仕事から帰ってくると、息子は、テレビはあるのに見ないで、
じっと万華鏡をのぞき込んでいることが多くなりました。
そんなに気に入ったのかと思った反面、病的なものも感じたんです。
でも、取り上げようとすると息子が怒るだろうとも思って・・・
1週間ばかり前の夜ですね。私が仕事から戻ると、息子はもう寝ていて、
枕元にその万華鏡の筒が転がっていました。

ふと取り上げて、電灯のほうに向けてのぞいてみたんです。
そしたら、細かなビーズの模様ではなく、四角い窓が見えたんです。
うまく説明できませんが、ガラス障子についているような和風の小さな窓です。
「あれ」と思って、見続けていると、そこがスクリーンのように広がっていって、
映像が映し出されてきたんです。映っているのは別れた妻。
前の家の洗濯機を置いてある裏口前のコンクリの土間・・・そこに電気のブレーカーも
あるんですが、妻が近くの電線に何かを塗りつけていました。そして、
ライターを出して火をつけ、燃え広がると、顔に笑みを浮かべながら、
土間の照明を消したんです。「これは、今のは!?」
いったん万華鏡から目を離し、もう一度のぞくと・・・
若い、大学生の頃の自分がいました。女の子と喫茶店で話しているようでした。

その子に見覚えがあります。妻とつき合うようになる前の彼女です。
その子とはうまういってたんです。それが、サークルの飲み会で、
大学生時代の妻のほうから誘われて浮気してしまい、噂が広まって、
その子とは別れてしまったんです。そうして私は妻と結婚し・・・
あとはさきほど話したとおりです。
万華鏡の、私と話しているその子の笑顔が広がったとき、
妻と結婚したことを激しく後悔したんです。自分が選んだ道なのに。
あの場所に戻りたい。でも、その映像は薄ぼんやりと消えていき、
前に見たガラス障子のようなものがまた見えました。そのときに、
わたしは思わず、万華鏡をのぞきながら、片方の手を握りしめていました。
自分でもはっきりしないんですが、そのガラスを割ろうとしたのかもしれません。

そのとき、万華鏡の中が暗くなったんです。「え?」と目から離すと、
息子が起きていて、不自由ではないほうの手のひらを万華鏡の前にかざしていました。
そして、「お父さん、だめだよ、割らないで」と言ったんです。
これで話は終わりです。その万華鏡は、息子とよくよく話をして、
初詣に行った神社の神主さんに連絡をつけ、引き取ってもらいました。
前の持ち主はまだ見つかってないようです。その万華鏡が何なのかはわかりません。
それと、前の家の火事の原因ですが、妻が火をつけたのかもしれませんが、
そうではなく、あの万華鏡の中に、私自身が見たいと思っている幻が
映ったんじゃないかとも思うんです。はい、自分の心の奥底をのぞき込んだのかも
しれません。あと、息子に万華鏡の中に何が見えたか聞いても、
恥ずかしそうに笑って、答えてはくれませんでした。






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