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サッちゃんの話

2019.03.25 (Mon)
俺がよく行ってた、あまりたちのよくない一杯飲み屋に、
「サッちゃん」って呼ばれてる人が来てたのよ。
その人は男で60代、頭が禿げて小柄で、
ガラの悪い常連の中では言葉少なく、いつもにこにこしてたな。
しゃべるときは誰に対してもていねいな口調で、
けど、バカにされてる雰囲気でもなかった。

週に2、3回はそこに来てたが、つまみはいつも関東炊き。
銚子 数本飲んで、10時過ぎには帰っていく。
堅気ではねえんだろうが、人のいいオッサンて感じだった。
その人があるとき「また山田さんが来るようになった」ってぼそっと言った。
俺は隣りにいたが、意味わからないんで黙って顔を見ると、
サッちゃんは「ほら」と言って上着を脱ぎ、シャツをずり下げて首を見せた。

すると、両肩の彫物の上の首のまわりぐるっとが、赤くアザになってたのよ。
「ひでえな、アレルギーかなんかか?」そう聞いたら。
「いや、夜中に山田さんが首絞めてくるんで」続けて、
「今晩も来るのかなあ、・・・嫌だなあ」って言い残して帰ってった。

サッちゃんは次の日も来て、また俺の隣に座ると、
「山田さんがなあ、どんだけ謝っても許しちゃくれねんだよ。困ったな、
 ああ、嫌だ嫌だ。俺も覚悟決めにゃあかんかなあ。気がのらないなあ」
って言いながら、上着をはだけて見せたのよ。
したら、内ポケットに白い木鞘が見えて、ドス呑んでるんだってわかった。

俺が「おいおい、危ねえなあ」と冗談めかして言うと、
低い声で「お前に何がわかる!」って吐き捨て、
急に立ち上がって、飲み食いせずに帰ってった。
そんときは、普段と違う、なんとも言えない迫力があったんだよ。

その翌日から、サッちゃんは飲み屋に来なくなって、
10日ほどして、死んだって噂が聞こえてきた。それも自分で頸動脈を切り、
部屋の天井まで血が飛んで酷いあり様だったらしい。
でな、マスターに前の話を少ししたら、
元ヤクザで若頭までいったマスターは半笑いで、
「あの人、なんでサッちゃんって呼ばれてたか知ってるか?」

こう聞いてきたんで、「名前に幸(サチ)がつくんじゃねえのか?」
そしたら、マスターはますます笑って「それな、サッちゃんってのは
 殺人者の略だよ。若い頃に一人殺して、長くムショに入ってたんだ。
 だから、殺ちゃん」 「ええ!? 誰 殺したんだよ?」
「ああ、飯場の元締めで、そういや、たしか山田って言ったなあ」
こう答えやがったのよ。





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