FC2ブログ

ルメートルの苦悩

2019.04.02 (Tue)
従来「ハッブルの法則」と呼ばれてきた宇宙膨張に関する
法則の名称について、国際天文学連合では今後、
「ハッブル・ルメートルの法則」と呼ぶことを推奨すると発表した。
ハッブル以前に同様の成果を発表していたルメートルの
貢献を称えるためのものだ。
(Astroarts)



昨年11月のやや古いニュースになりますが、今回はこの話題を
取り上げます。みなさんは、相対性理論と聞くと、
アインシュタインの名を思い浮かべるでしょう。ビッグバンなら
ジョージ・ガモフ、宇宙膨張ならエドウィン・ハッブル。

しかし、じつは、ハッブルが宇宙膨張についての論文を書く
2年も前に、宇宙膨張および宇宙の始まりについての論文を
発表していたのが、ベルギーの天文学者にして正式なカトリックの
司祭であった、ジョルジュ・ルメートルなんですね。
その業績が、今回、再評価されることになったわけです。

エドウィン・ハッブル
ase (2)

なぜルメトールの名前が今まで出てこなかったかというと、
その論文は無名のフランス学術誌に掲載されたため、
成果が広く知られることなく、長く歴史に埋もれることとなった、
とされています。しかし、これは表向きの話で、
ルメートル本人が、自分の名前が出ることを嫌がっていたんです。

さて、アインシュタインの宇宙方程式ですが、これを解くと、
宇宙は膨張する、あるいは収縮するという解が得られます。
しかし、アインシュタインはその解答が気に入りませんでした。
そこで、「宇宙項」という定数を加えることで、
膨張も収縮も起こらないようにしたんです。

宇宙方程式 Λが宇宙項


ただしこの宇宙項、その目的が宇宙を安定した状態に置くためだけの
ものなので、計算上のインチキと言っていいかもしれません。
アインシュタインは後に、宇宙膨張が事実であることを知り、
「(宇宙項は)生涯最大の過ちだった」とまで述べています。

さて、エドウィン・ハッブルは観測者でした。彼は、当時世界最大の
天体望遠鏡をのぞいて遠くの銀河の赤方偏移を観察し、
宇宙が膨張していることをつきとめました。これは理論ではなく
観測された事実なので、結果を見せられたアインシュタインは
ぐうの音も出ず、宇宙項を取り下げることになります。

いっぽう、ルメートルは理論物理学者です。彼は純粋に式を操作し、
宇宙膨張をつきとめたわけですが、その計算結果を見せられた
アインシュタインは、「あなたの計算は正しいが、
あなたの物理は忌まわしいものです。」このように述べたといわれます。

アインシュタインとルメートル
ase (5)

なぜ、アインシュタインは「忌まわしい」などという言葉を使ったんで
しょうか。それは、科学にキリスト教の神が介入してくることを
嫌ったためです。宇宙が膨張しているということは、
時間を逆戻しすると、宇宙はある一点まで収縮していくことになりますよね。
その点を、ルメートルは「原始的原子 primeval atom」と呼びました。

温度・圧力無限大の点、原始的原子が爆発することで宇宙が始まった。
これは『旧約聖書』の創世記に「神は光あれと言われた、すると光があった」
と書かれる、この世界の始まりとじつによく符号します。ですから、
当時のカトリック教会勢力は、ルメートルの理論を強く支持しました。

ときのローマ教皇ピウス12世が、「ルメートルの発見は、
神の存在を科学的に証明したものだ」と、ビッグバンを歓迎する発言を
したんですね。このことはルメートルをたいへんに困惑させ、
ルメトールは自分から教皇に対し、自分の理論と天地創生は
関係がないことを進言しています。

ピウス12世
ase (1)

さて、ルメートルの研究仲間は、宇宙膨張の発見の栄誉が、
ハッブル一人に集まっていることを惜しみ、もとのフランス語論文を
イギリスの『王立天文学会月報』に転載することを勧めました。
ですが、そこに発表されたものは、肝心の膨張宇宙の発見について
書かれた部分が、ほぼすべて削除されていました。

削除したのは、もちろんルメートル本人です。彼は苦悩の末に、
聖職者の自分がそれを発表することが、科学界とキリスト教勢力との
対立につながると考えたためです。かつてキリスト教は、
ガリレオを異端審問にかけるなどの不幸な歴史をつくっていますが、
今回もそのようなことが起きるのを危惧したんですね。

ビッグバンからの宇宙膨張のイメージ
ase (4)

これは、ルメートル自身の人生の重心が、科学者としてよりも、
聖職者のほうに大きくかかっていたことと関係していると思います。
彼は他人から、「ハッブルの名前ばかり出て悔しくないか」と聞かれても、
ただ静かに笑っているだけだったそうです。

さて、このルメートルの複雑な心境の理解者がいなかったかというと、
そんなことはありません。遠く離れた東洋の片隅に、
ルメートルを深く理解している人物がいました。誰だかおわかり
でしょうか。これは前に少し書きましたが、宮沢賢治その人です。
賢治の詩「北いっぱいの星空に」の下書きの裏に、

「アインシュタイン先生、ルメートル先生・・・」と書かれたものが
発見されています。当時、もちろんアインシュタインは高名でしたが、
ルメトールの名を知っている日本人はごくわずかだったはずです。
ご存知のように、賢治は自身も熱心な宗教者であり、海外論文などを
原語で読んで、ルメートルの心情をよく理解していたんだと思います。

関連記事 『宮沢賢治と相対性理論』

教壇に立つ宮沢賢治
ase (3)

さてさて、ということで、引用したニュースの背景をざっと見てきた
わけですが、科学と宗教の関係は難しいなあと思いますね。
ダーウインの進化論もそうですが、どちらかがどちらかに強権をもって
介入するのは、あってはならないことです。では、今回はこのへんで。



関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/1856-eb128505
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する