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瓶を運ぶ話

2019.04.07 (Sun)
あ、じゃあ話してくけどよ、謝礼は間違いなくもらえるんだろうな。
そうか、わかった。あれはもう10年くらい前になるかなあ。
俺がまだ組にいたころのことだ。いや、もう足は洗った。
ていうか、組自体が解散しちまってな。・・・ヤクザ屋は今はどこも
そんなもんだろ。食っていけねえんだよ。
当時の俺はチンピラに毛が生えたようなもんでな。
まともなシノギはやらせてもらえず、兄貴たちの手足になって、
言われるままに雑用をこなしてたんだ。
で、その日は俺が当番で事務所の前で見張りをしてた。
ああ、何かあっちゃいけないから、若いやつらが2人組で、
交代で見張りに立つんだよ。そしたら夕方になって、

高坂さんて上のほうの兄貴がやってきたんで、俺ともう一人が直立不動で
あいさつしたら、「おう、お前ら、明日の夜ヒマか?」って聞かれた。
「あ、俺は大丈夫っす」そう答えたら、「じゃあ仕事たのむわ、
 明日の夜9時にここに来てくれんか」こんな感じで、
もう一人、三島ってやつといっしょに高坂さんの仕事をすることになったのよ。
でな、次の日の9時前に事務所に行くと、三島がいたんで待ってたら、
地下の駐車場からランクルが出てきて俺らの前に停まった。
窓から高坂さんが顔を出したんで、あいさつしてから、
「いい車っすね」って言ったら、「親父さんのを借りた。まあ乗れ」
あ、親父ってのは組長のことだ。三島といっしょに後部座席に乗り込むと、
三島さんはランクルを走らせて、近くのコンビニに寄った。

で、三島に1万円札を渡して、「これで食いもんを買ってこい。
 腹にたまるやつ。パンとおにぎりとかだな。あと飲み物、その金 全部使え」
こう言われたんで、三島とコンビニに入って言われたとおりにした。
袋5つ分くらいになったよ。高坂さんに、「これどうするんすか」って聞いたら、
「俺らで食うんだよ。どういうわけかわからねえが、腹が減る仕事でな。
 あ、それから、こっからお前運転代われ。行き先はナビに入れてあるから」
でことで、俺が運転席、高坂さんが助手席、三島と食いもんが後ろで出発した。
ナビの行き先は隣の県になってて、高速使っても2時間以上かかる。
街中はまだ混んでたが、そんな時間だから、
高速に入るとガラガラでトラックがいるくらいだったな。
三島さんは、「なに、物を運ぶだけだ。難しいことはねえが、

 ちょっと重いんでお前らに声かけた」こんなことを言った。
それから、ナビの指示どおり走って、隣の県の田舎の山すそに入ったあたりで
案内が終わった。高坂さんが、「ほら、そこに寺の門があるだろ。
 その横の道から裏に回れ」細い道を進んでくと、
砂利道になって街灯がなくなり、山につきあたりそうになったところで、
前に懐中電灯を振ってる人がいたんだ。高坂さんの指示で車を停め、
俺らも懐中電灯を持って外に出ると、高坂さんが、「あ、住職、例のもんは?」
そう聞いて、「用意してあります、こちらに」
その人、坊さんだったんだよ。でな、俺らは崖の下にある小屋に連れてかれ、
鍵のかかった戸をあけると、中に荒縄と板でフタをした瓶が並んでたんだ。
全部で4つあったと思う。どれも同じで、高さ1mくらい。

ほら、田舎で漬物をつけるやつがあるだろ。あれじゃねえかと思った。
高坂さんが、そのうちの一つを俺らに持てって命じたんで、
三島と2人で両側から抱えた。重いといえば重いんだが、
男2人ならそう難しくはねえ。たぶん50~60kgくらいだろ。
高坂さんが「絶対落とすなよ」って言ったんで、緊張しながらゆっくり動いて、
瓶をランクルの後ろにのせた。高さはギリギリだったな。
それから倒れないよう厳重にヒモをかけ、その間に高坂さんが
次の行き先をナビに入れてた。そっからは三島が運転して
俺らの県に戻ってったんだが、どういうわけか、すげえ腹がへったんだよな。
その時間がだいたい12時前で、俺は8時ころに飯食ってる。
けど、腹がへってへって、隣りにあるコンビニ袋のパンを手あたり次第に

食いたいくらいだった。そしたら高坂さんが三島に、
「次のパーキングエリアに入れ」って指示出して、俺らはそこの駐車場で、
買ってきたもんをむさぼり食ったんだよ。ああ、高坂さんも食った。
でな、驚いたことに、20分もかからず食い物がなくなった。
俺はパンとおにぎり10個くらいは食った。
今の、なんだっけ、フードファイターみてえだろ。
腹がふくれたところで車を出し、県境を越えて、ある市に入った。
で、そこの郊外の工事現場でナビの指示が終わったんだよ。
かなりでかい現場だった。ランクルから瓶をおろして、また俺と三島で
持っていくと、たて回したフェンスの中か作業服の人が出てきて、
俺らを手招きしたんで、それについてってプレハブの建物に運び込んだ。

これで仕事は終わり。組事務所の前で解散になったが、
高坂さんは俺らに5万ずつくれたんだよ。でな、その後、三島と2人で
24時間営業のファミレスに入ったんだ。パーキングであんなに食ったのに、
またまた腹がへっててな。俺はステーキセットとハンバーグセットを食い、
三島も2人前食った。けどまだ、なんか食い足りねえ気がしたんだよ。
実際、それから3日くらいはずっとものを食いっぱなしで、
もらった5万もすぐになくなっちまった。・・・でな、その仕事、
高坂さんはどういうことなのか説明しちゃくれなかったし、
俺らも聞かなかったが、俺は工事現場に入ったときに看板を見たんだよ。
その工事の目的とか期間とか書いたやつ。それによると、
そこ、老人ホームが建つみたいだったんだ。

後になって地図を見て確かめたら、やっぱり医療介護つきの有料老人ホーム
だったんだ。それから、4年の間に2回同じことをやった。
行き先はあの寺で、瓶を運ぶのもいっしょ。運ぶ先は「肴和会」っていう
福祉法人の老人ホームで、それぞれ別の場所だった。
どこも基礎工事中なのは同じ。ものすげえ腹がへるのもな。なあ、不思議だろ。
あの瓶の中に何が入ってるか気になってしかたなかったが、
最後の仕事のときにそれがわかったんだ。また夜中、瓶を積んだランクルで
高速を走ってた。そしたら、田舎の山の中だからな、
脇の繁みから何か動物が飛び出してきて、車で撥ねちまった。
運転してたのは俺だよ。そんとき急ハンドルを切ったせいで、
荷室でガコンという音がした。「バカヤロ!!」高坂さんが怒鳴り、

俺は横から拳で殴られた。路肩に車を停めて確認すると、
轢いたのはイタチかなんかの小動物で、ランクルに傷はなかった。
高坂さんはイラついた声で、「荷室 開けろ」って言い、
俺と三島で確認すると、瓶が傾き、木のフタが割れててな、
そっから黄色い乾いた土といっしょに頭が半分飛び出してたんだよ。
ああ、人の頭なんだが、カリカリに乾いててミイラだと思った。
それ見て俺らは呆然としたが、高坂さんが「○○!しくじったお前がもどせ」
って怒鳴ったんで、しかたなく瓶を立て、頭を押し込んでこぼれた土を入れ、
車に入ってたゴミ袋とヒモで間に合わせのフタをしたんだ。
瓶をまた工事現場に運び込み、高坂さんが中身が出たことを説明してたな。
で、また組事務所で解散したんだが、俺は高坂さんにもう一発殴られたよ。

けど、金はもらえた。これでだいたい話は終わり。その後、この仕事はなかった。
ていうか、最初に言ったように、組自体が左前になっちまった。
でな、瓶の中のミイラ、何なのかがわかったんだよ。数年後、県警の摘発で、
あの寺の坊主が逮捕された。この事件はでかいニュースになったんで、
あんたらも知ってるだろ。そこらは即身仏ってのが昔からあるんだが、
坊主は塚を勝手に掘って、中のもんを処分しちまったんだ。いや、俺んとこに警察は
来てねえ。それはラッキーだった。最後の仕事の後、俺は腹がへるどころか、
逆にまる1ヶ月間ものが食えなくなって、体重が10kg以上減った。
今もガリガリだろ。え、老人ホーム? ああ、そこも別に警察の手は回って
ねえようだ。肴和会の老人ホームは評判がいいんだよ。
あそこに入った年寄りは、苦しまず、すぐに亡くなるってな。





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コメント
面白い!
全部説明せず、読手側の想像を掻き立てる感じが好みです。
最近、めんどくさくて活字を読まなくなって、私大丈夫か?って心配してたけど、
面白い読み物に出会って無かっただけでした。
久々に気持ち良く集中出来ました。
ありがとうございました。
165 | 2019.04.14 23:50 | 編集
コメントありがとうございます
自分が書いている怖い話は創作ですが
実話怪談のテクニックを使ってまして
話の主人公の人物が体験した以外の部分は
真相がわからない形になってるんです
今後もよろしくお願いします
bigbossman | 2019.04.15 00:52 | 編集
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