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アーカイブ 凶

2019.04.29 (Mon)
小学校6年生のときのことです。当時、自分はいじめられていました。
自分の小学校は学年一クラスの小さなところだったんですが、
そういう学校というのは、小さい頃からの力関係がずっとつきまとっていて
ガキ大将はずっとガキ大将のまま、いじめられっ子はイジメられっ子のままなんです。
ただお互いに気心がしれているから、そんなにひどいイジメはないんです。
そのかわり、力が上の側は下のやつとの関係が逆転するのをすごく嫌がってましてね。
そういう兆候に敏感というか、下のやつが反抗しそうなそぶりを見せたときには
かなりキツくガツンとやるんです。

今のニュースなんかになるイジメともちょっと違うんです。
親分と手下の関係というか。ああ、話がそれてしまいましたね。
ガキ大将は松山ってやつでした。幼稚園にいかないでいきなり
小学校に入学して、すぐクラスを支配してしまったんです。
主に腕力ですね。親が山屋・・・林業をやってまして、
小さい頃から親について山に入っていたらしく、腕力、体力があるんです。
自分は悪いことにこいつと家が近かったから、すぐに目をつけられてしまいました。
勉強はできません。小6でも漢字がほとんど書けませんでした。
そもそも授業中に自分の席にいることなんてなかったですから。
いつも担任を困らせていましたよ。

そのくせ悪知恵は働くんです。狡猾と言えばいいんでしょうか。
松山の親は、金がないわけじゃないんだけど子どもに無関心で、
学校で悪さをして先生方が親を呼びだそうとしても、絶対に出てこないんです。
そのかわり松山にも、何か買ってやったりとか、どっかに連れてったりとか
しないんです。自分はじいちゃんばあちゃんと同居で、
可愛がられていろんなものを買ってもらってたんで、ゲームとかラジコンとか、
そういうのを松山にねらわれて巻き上げられてしまうんです。
物をとられても親には言いませんでした。そんなことをしたら、
手ひどく叩かれる上に、物は戻ってこないんだから。
さあねえ、家族もうすうすは知ってたんじゃないですか、松山に取られてることを。

ただね、最初から暴力で巻き上げるわけじゃないんです。
そのあたりは松山にもこだわりがあったんでしょうか。何か最初に恩を売って、
「お前のためにこれやってやったから、ゲームソフト貸してくれや」
とか、いろんなパターンがありました。あと賭けなんかも。
2月のことでした。松山といっしょに帰ってたんです、カバン持たせられて。
松山はランドセルを最初から持ってなくて、大人が使うようなカバンで登校してました。
雪道を歩いていると、松山が「神社にいって賭けをしようぜ」と言い出しました。
学校からの帰り道に小山に登る細い道があって、村の氏神神社に続いているんです。

神社といっても神主はただの農家のおっさんで、資格はあるんでしょうが
何かの祭事があるときしか社殿にはいません。
田舎なんで旧正月の行事があるため、1月過ぎても雪寄せして道はついてました。
神社での賭けがどういうものかわからないままついて行ったら、
鳥居をくぐって短い参道を脇道にそれました。そこは松の林になっていて、
その枝におみくじが結びつけられている場所がありました。
枝の重なった下のために、連日の雪でもくじはけっこう残っていましたね。
ほとんどがその年の初詣のものだったでしょう。

「これほどいて、どっちがいい順番かで賭けをしよう」
この順番というのは、大吉とか末吉とかああいうやつのことでしたね。
「もしお前が負けたら、◯◯のソフトをしばらく貸してもらうぜ」こう言いましたが、
松山自身が負けたら・・・ということは絶対に言わないんです。
こちらが言い出せないことを見透かしていたんだと思います。
自分はこのおみくじはとっちゃいけないものなんじゃないかと思いましたが、
それも言い出せませんでした。午後になって寒さがゆるんで、
松の木からはぽたぽた水が落ちていました。

「いっせいの、でとって、手にはさんで同時に開くんだ」
それで手近ののを一つ外して、濡れてよれたのを開いて松山のと比べました。
自分のは中吉、松山のは凶でした。負けたのがわかったんでしょう。
「今のは練習な。もう一度やろう」
二度目は自分が末吉、松山はまた凶でした。
松山は「ふん」と鼻を鳴らし、くじをもみくちゃにして足元に捨て、
「最後もう一回やろう。最後に勝ったのがホントの勝ちだ」
松山は木の下をうろうろして、時間をかけてくじを選ぶふりをしながら、
透かして字を見ているようでした。

よさそうなのを見つけたらしく、自信満々に戻ってきて開いて確認していました。
ズルですがしかたありません。それから同じように掌に入れて開いたとき、
松山の掌から長い褐色のものがこぼれ出ました。
ゲジゲジだと思いました。20cmはありました。こんな冬中にゲジゲジが
外に出ているはずはないし、そもそも子どもの掌には入らないでしょう。
それが松山の足元に落ちて雪の上で身もだえし、
また松山の足を這い上がってきました。

「うわっ、何だこれ。うわ」と言いながら松山は払い落し、足で踏みつけました。
ゲジは雪に埋もれてすぐ見えなくなり、本当にいたのかどうかも
あやふやな気になりました。松山の手にあったはずのくじも
見当たりません。松山は「何なんだよ」とつぶやき、
興味をなくしたように「もう下りようぜ」と言いました。

それでもソフトのことは諦めてなくて、雪道を下りながら「貸せよ」と言ってきました。
当分返ってこないとわかっていても「うん」と言うしかありませんでした。
もうすぐ下の道に出るというところで、パトカーのサイレンの音が聞こえました。
松山はもう神社であったことを忘れて興味津々の様子でした。
自分たちの家に近づくとサイレンはどんどん大きくなって聞こえ、
パトカーが数台、松山の家の近くに停まっているのが見えました。
向こうから車が一台近づいてきて自分らの前で止まると、
大人が出てきて「こっちやこい」と言って松山の手を引いて車に乗せました。

松山にカバンを渡そうとしたとき、
ジャンバーの背中にピタリとおみくじが貼りついているのに気がつきました。
「大凶」と書かれているようでした。
後で聞いたところによると、松山の父親が架空取引詐欺でつかまったということで、
そのまま松山もどこかに転校していってしまいましたよ。




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