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白い町内の話

2019.05.12 (Sun)
こんばんは。それでは、お話をさせていただきます。
私、化粧品の訪問販売員をしてるんです。もう10年になりますね。
少し仕事のことを説明させていただきますと、
私たち訪問販売員は、すべて嘱託社員なんです。お給料は完全歩合制で、
自分が努力した分だけ返ってきます。ですから、セールスに向かない人は、
1年も続かずにやめてしまうんです。それと誤解されているのが、
訪問販売と言っても、お客様のご自宅で商品を直接売ることは
ないんです。昔はそうしてた時代もあったそうですが、
ほら、浄水器とか羽毛布団とか、訪問販売のイメージを悪くするような
事件がいくつもあったでしょう。それで、私たちはあくまで商品のご紹介を
するだけで、お客様が店舗に来て買っていただくことになります。

そのときに、私の紹介ということで査定ポイントが入ります。
はい、そうですね、訪問販売は年々厳しくなってきてます。
まず、女性の社会進出が多くなりましたので、昔ながらの主婦って方は
ほんとうに少ないんです。なにかしらパートなどに出ておられて、
在宅率が激減しています。それから、セキュリテイですね。
マンションの住人の方など、いいお客さんなんですが、
警備員が常駐していて、中に入れない場合が多くなってしまいました。
あつかわせていただいている商品も、以前とはかなり変わってきています。
化粧品というより、健康食品に近いものが多くなりました。
これはご高齢のお客様が増えたためです。顔のシミ消し、小ジワとりなど、
どちらかというと体の内部から効果を発揮する商品。

かつては、お客様の対象が30、40代だったのに対し、
現在は50、60代に変わってきています。高齢化の影響が出てるんです。
あ、すみません、関係のない話を長々としてしまって。
私は今の販売所で2つの市を担当していたんですが、
先月一人が辞めてしまいまして。臨時にですが、しばらく、
その人の担当地区も回ることになったんです。でも、それほど大変なこともなく、
売り上げもかなりのびました。ですから、もし販売員の補充がなければ、
私がそのまま そこも担当しようかと考えていました。それで先週の火曜日です、
初めてある町内を訪問したんですが・・・小高い丘の上にある、
やや古い建売団地で、脈がありそうだと思っていました。
30代で家を建てて、それから20年がすぎると、

奥様は50代になりますよね。子育ては終わり、ローンもほぼ完済、
旦那様の地位が上がって奥様は働いていない。そういうご家庭が多いだろうと
考えたんです・・・ 時間は10時過ぎ。はい、主婦が旦那様を送り出し、
ちょうど一息つける時間帯です。その日はそれほど天気はよくなかったんですが、
その団地を見渡して、すごくまぶしく感じました。白い家が多いんです。
形はそれぞれ違いますが、どの家も白い壁、屋根まで白いのもありました。
まあでも、そういう団地は、同じ設計士を使って、一つの住宅会社が
建てている場合が多いので、そのときは特に不思議とは思いませんでした。
手近の1軒をお訪ねしました。その家はわりと広い庭があり、
白いバラが一面に咲いてました。チャイムを押すと、すぐにインターホンの
返事があり、ややあってドアが開きました。

出てこられたのは奥様・・・だと思います。でも、予想してたよりずっと若く、
30代だと思いました。化粧品の訪問販売だと告げると、
うれしそうに笑って「どうぞお入りになって」そうおっしゃったんです。
はい、訪問販売はまず、家の中に入れるかどうかが勝負の分かれ目です。
同僚の中には、水をかけられたって人もいます。居間に通されまして、
お金のかかっている家具や内装で、座ると「ちょっと待ってね」と
お茶を出していただきました。私はいつものように商品の説明をしたんですが、
奥様は、どうも乗り気でないというか、上の空で聞いておられる感じが
したんです。それで「ちょうど現在くらいの年齢が、お肌のケアを始める
 のにぴったりです」みたいな話をしました。すると奥様は
クスッと笑って、「現在の年齢って、私、いくつに見えます?」

そう聞いてこられたので、「20代の後半でしょうか、もしかしたら30代の
 はじめ」そう答えましたら、口に手をあててひとしきり笑われてから、
「私、今年で64歳です」こうおっしゃったんです。
正直言って「嘘! 信じられない」と思いました。これでもプロですから、
お客様の年齢を読み間違えるなんてありえないです。
そしたら奥様は、「信じていらっしゃらないようね。じゃあ」
そう言って、ご自分の運転免許証を出してこられたんです。
拝見しましたら、たしかに生まれ年から64歳、貼られてある写真も、
間違いなく目の前にいる本人・・・ご家族のことをお聞きしたら、
「子どもたちは独立しました。主人は一昨年亡くなりまして」
こんな話だったんです。シワのなさ、肌の張り、絶対に64歳には見えません。

結局、商品には興味を示していただけず、20分ほどいてその家を出ました。
・・・ここからの内容は信じていただけないかもしれません。
あまりに奇妙なことがあったので、私自身が信じられないくらいですから。
その後、8軒のお宅を訪問したんですが、どの家も奥様だけご在宅で、
しかもみな若くお美しいんです。でも、年齢は50代から60代、
お一人だけ70代の方がいましたが、30代後半にしか見えませんでした。
商品の契約は一つもなし。でも当然ですよね。
みながみな あんなに美しいのなら、化粧品なんて必要ないです。
はい、どの方も厚化粧なんてことはなかったです。むしろすっぴんのように
思えました。あと、一人暮らしされてる方が多かったんです。
8軒のうち、6軒までが旦那様が亡くなっていて、

残りの2軒も、現在病気で入院中とのことだったんです。
それで、本末転倒もいいところなんですが、最後のお宅で、私のほうから
逆に「こちらの町内、どこのお宅もお美しい奥様がおられて、
 何か特別な美容法などをやっておられるんでしょうか?」
こんな質問をしてしまいました。化粧品の訪問販売員としては職務放棄、
白旗をあげたのと同じです。そしたらその家の、58歳なのに20代にしか
見えない奥様は大きく笑って、「特別なことは何もしておりませんのよ。
 ふだんはお化粧もしません。ただ・・・白幡様のお水をいただいて
 毎日少し顔と手につけてるだけ」 「白幡様のお水?」
「ええ、この団地の外れの坂を下りる途中にある神社。団地ができる前から
 あったみたい。そこのご神水ですよ」こうおっしゃられました。

それで、私も行ってみようと思ったんです。私、来年40歳になるんです。
ほら、化粧品の訪問販売員って、自分自身が商品の宣伝塔みたいなもの
じゃないですか。ですが最近、目じりの小ジワや皮膚のたるみに悩んでまして。
「そのご神水は、だれでもいただけるんですか?」そう尋ねると、
奥様は含み笑いしてから、「あるものをご奉納すればいただけます。
 それ、坂を下りる途中のペットショップで売ってて、高くはありません。
 あと、あなたはお水を入れる容器を持ってきてないでしょう。
 そうね、うちで貸してあげる」そうおっしゃられ、1Lのペットボトルを
渡されました。ペットショップ? わけがわかりませんでしたが、
団地が終わりになって突きあたった坂を下りていくと、
たしかにペットショップがあったんです、かなりみすぼらしい感じの。

中に入るとすぐ、たくさんの竹籠が積み重ねられてあり、一つ一つに、
そうですね、ハムスターよりも少し小さいくらいの白い生き物が入ってました。
実験用のマウスなのかもしれませんが、よくわからなかったです。
出てきた男性店員に聞くと、「これは白幡様のご奉納の品です」
値段は500円、それだと竹籠代にしかならない気がしました。
思い切って一つ買い、さらに坂を下りていくと、横手に鳥居が見えたんです。
入っていくと参道は短く、すぐに社殿に突きあたりました。社殿の扉は
閉まっており、お守りなどを売る小さな社務所にも人影はありませんでした。
とまどっていると、その社務所の裏から作務衣の老人が出てきて、
「あ、ご神水の方かね?」そう聞かれたので、「はい」と返事をすると、
「じゃあこっちへ」神社の裏手に連れていかれました。

そこにちょっとした岩があったんです。高さは2mくらい。
真っ黒で、中央から細く水がしたたり流れ、木の樋に落ちていました。
「その樋の端で水を受けるとよい」と言われたので、ペットボトルを
置きました。水の流れは弱く、たまるまで時間がかかりそうでした。
老人が、「ご奉納するんでしょ?」と言ったので、チイチイと鳴いて
竹棒を握りしめている生き物の入った籠を渡しました。
老人が籠を持って社殿のほうへ去ろうとしたので、不躾かと思ったんですが、
「それ、どうするんですか?」と聞きました。すると老人は
少し顔をしかめ「ああ、団地の人じゃないんだね。じゃ知らないほうがいい」
そう言って いなくなってしまいました。そうしてるうち水が溜まり、
私はペットボトルにフタをして持ち帰ったんです・・・まだ、使ってはいません。





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