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アーカイブ 芥子人形の話

2019.05.13 (Mon)
こんばんは。では、私の祖母と芥子(からし)人形の話をさせてもらいます。
祖母は、これは母方の祖母のことで、
某県に住んでいてそこから出たことはありませんでした。子供のとき、
こちらから訪ねていったことは何度かありますが、典型的な昔の豪農の家の造りで、
門内には馬小屋がありましたし、家のぐるりを縁側が取りまき、
さらにその外の庭には池が巡っていました。
祖母は和服をきちんと着こなした姿勢のよい女性で、私には優しかったですけど、
なかなか心から打ちとけることはできませんでした。
これは、祖母がある神様を深く信心していたこととも関係があると思います。
奥の間にしつらえた神棚というか・・・大掛かりな祭壇の前で、
1日のうち何時間もお祈りしていることが多かったんです。

そのときの顔の真剣さといったら怖いくらいでした。
次に芥子人形のことを説明します。これは私が生まれてほどなくして、
祖母から送られてきたというもので、いつも神棚の上に置かれていました。
和紙を折ってこしらえた、紙雛のような形をした女の子の人形です。
着物の色は芥子色ということではなく、白でした。袖の細い着物の両腕を広げた、
全体として十字の形をしていました。ええ、そんなに手のかかったものではありません。
もちろん両親は大事に扱ってはいましたが、傷つけたり汚したりすれば、
何か罰があたるというようなことはありませんでした。汚れた頃合いを考えて、
数年おきに祖母のところから新しい人形が送られてきて、古いのを送り返していました。
え? 芥子人形という由来ですか。ああ、いい忘れていました。
人形は折り方によって、そうですね、胸のところが紙の鶴のような袋になっていたんです。

その中にはからし菜の種が入っていて、振るとカラカラ音をたてたんです。
祖母のところではからし菜を畑で栽培していたんです。ご存知でしょうか?
からし菜は外来種ですが、弥生時代から日本にあると言われています。
でも現在では、和がらしの原料としての菜は、ほとんどを輸入に頼っているんです。
祖母の畑で栽培しているからし菜も量としてはごくわずかで、
食用ではなく、芥子(がいし)という漢方薬を作るのに使われていました。
神経痛やリュウマチの薬になるのだそうです。それと神事にも使用されていたようですが、
これは詳しいことはよくわかりません。あと、私の4つ下に妹がいるんですが、
やはり私と同じように、妹用の芥子人形があったんです。
そうですね、両親からは「おばあさまがあなたの健康を願って作ってくださったもの」
と説明されていましたが、普段はあまり意識したことはありませんでした。

これが役に立ったのは、私が大学生のときです。
親元を離れてアパート暮らしをしていました。
そのとき・・・ストーカーの被害にあったんです。友人に誘われ、
軽い気持ちで出た合コンでしたが、別の大学の方にしつこく連絡先を聞かれ、
なんとなく陰気な感じの人でしたのでお断りしたんですが、
私の大学のほうから情報を仕入れたらしく、アパートの住所を知られてしまいました。
最初は偶然を装った形で、その後も何度も部屋の近所で出会ったんです。
声をかけられるたびに、はっきりお付き合いは断っていたんですが・・・
このままだと両親に連絡して、転居することも考えなければと思っていました。
それと警察にも相談しようかと。その矢先です。祖母から封筒が
送られてきまして、中には真新しい芥子人形が入っていたんです。

それ以外の手紙などはなかったので、はじめて祖母のところへ電話をかけました。
出てくれるか、少し心配もありました。というのは、
祖母はとにかく電気製品を嫌っていて、子どものときの記憶ではテレビも見なかったし、
電話はありましたが、祖母が出たり、自分でかけることはなかったですから。
電話には祖母とともに暮らしている長男の伯父が出まして、人形の話をしたら、
やや間があって「おばあちゃんは、人形がなにもかもよくしてくれると言っている」
という返答が返ってきました。人形の扱いについても伯父が祖母から取り次いでくださり、
「アパートの部屋には神棚はないだろうから、鴨居の煤を払って、
 そこに差しこんでおくだけでいい」と言われたんです。
それから2日後のことです。私は理系の研究室でしたので実験で遅くなり、
自転車で公園と民家の塀の間を走っていて、塀と塀の間の前を通ったとき、

急に自転車の後ろを強い力でつかまれ、引き倒されてしまったんです。
幸い頭は打ちませんでしたが、右の腿と肘を強く地面に打ちつけました。
なんとか立ち上がろうとしたときに、後ろ側にストーカーの男がいたんです。
刃物を持っているように見えました。大声で叫ぼうとしましたが声が出なかったんです。
人間、パニックになったときって、思ったような行動ができなくなるんですね。
私が見を固くすると、塀にうっすらと影が映るのが目に入りました。
ええ、遠くの街灯の光のぼんやりした影だったんですが、
それが見るまに濃く、くっきりとなって・・・
筒袖を横に広げた芥子人形の影だと思いました。
その影はぐんと伸び、ストーカー男の影に覆いかぶさっていき・・・
すると男は急に口を押さえて膝をつきました。

指の間からだらだらよだれをこぼしながら、「からい、からい」と泣き声をあげました。
私は、倒れていた自転車を起こし、全速力でこいでその場を逃げ出したんです。
体はあちこち痛みましたが、そのまま駅前の派出所まで走って被害を訴えたんです。
その後、その男はつかまり、実刑にはなりませんでしたが、
大学を辞めさせられ、親元に引き取られたようでした。
あれからは1度も姿を見かけてはいません。
警察に行った後、しばらくは友人のところを泊まり歩いていましたが、
物をとりにアパートに戻ったとき、鴨居の芥子人形の胸がカッターで切ったように、
鋭く破れていて、芥子の種子がぱらぱらと床にこぼれていました。
心配をかけたくなかったので、両親には知られたくなかったのですが、
そういうわけにもいかず、この一連の事件の最中に両親がそろってアパートに来たとき、

母から「お前は覚えてないだろうけど、3歳で事故に遭いそうになったときも、
 あの人形に助けられているんだよ」と言われ、父もうなずいていました。
だいたいこんな話ですね。はい、祖母は80歳を過ぎましたが今も健在です。
この頃はますます信心が盛んになって、一日の大半を祭壇の前で過ごしているようです。
芥子人形ですか。妹のはまだ実家に送られてきているようですが、
私のはもうありません。お役御免になったみたいです。
かわりというか・・・おととし結婚しまして、昨年女の子が生まれました。
その子用の芥子人形が、大学のときのと同じような封筒に入って、
祖母から私の新居に送られてきたんです。神棚もなかったんですけど、
さっそくしつらえて、そこにお祀りしています。振るとカラカラっと懐かしい音がして・・・
祖母にはいつまでも長生きしてほしいと思っているんです。







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