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「海難法師」について

2019.05.14 (Tue)
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今日は妖怪談義にしますが、「海難法師」の場合は妖怪というより
怨霊のほうが正確なのかもしれません。
なぜかというと、元々は人間だったからです。
まず、海難法師の話が伝わっているのは伊豆諸島です。
ちょっと歴史を見てみましょう。

680年 、駿河国から分かれるかたちで伊豆国が設けられ、
724年、 伊豆国は遠流の地として定められます。
以来ずっと、伊豆諸島は流刑地としてのイメージがつきまといます。
このことは海難法師の伝説に何かしら関係があるかもしれません。

有名な流刑人としては、保元の乱の源為朝が伊豆大島に、
関ヶ原で負けた戦国武将の宇喜多秀家が八丈島に流されていますね。
江戸時代からは幕府の直轄地になり、代官が治めていました。
現在は東京都の管轄になっています。

宇喜多秀家


さて、海難法師の話には2つの説があります。その一つめは、
江戸時代の寛永5年(1628年)のこと。
豊島忠松という悪代官が島民たちを苦しめ、憎まれていたという。
そこで島の人々は忠松を殺すために、わざと海が荒れる日を選んで、
島巡りをするように勧めたのである。

まんまと罠にはまった忠松は、
言われた通りに海に出て波に呑まれて死んでしまった。
それ以来、毎年旧暦の1月24日になると、島民たちに騙されたことを怨む
忠松の霊が、赤い帆船に乗った海難法師となって島々を巡るという。


うーん、年次や代官の名前もわかりますし、かなり具体的な伝承です。
豊島忠松(作十郎)というのは実在の人物で、
寛永5年から20年ちかく八丈島の代官を務めた後、
最期は溺死したという記録があるようです。



もう一つの説は「(上記の)悪代官をなんとか殺そうとした島の村の若者25人が、
暴風雨の夜にそれを決行し、船で逃亡した。しかし、後難を恐れて、
かくまってくれる島や村はなく、船でさんざん島の周囲をさまよったあげく、
1月24日に海で全員が死亡した。村人に裏切られ、
この世に恨みを残して死んだ25人の怨霊が、島々を巡るのが海難法師である。


先の話とはだいぶ違いがあります。同じ名称の言い伝えなのに、
こうまで話の内容が違っているのは変な気がします。
殺された代官と、殺した25人の若者たちのどちらも海難法師とされるのは、
伝承として不自然ですよねえ。それと疑問に思うのは、

なぜ「法師」つまり、仏教に帰依するお坊さんという
言葉が入っているのか。代官にしても村の若者にしても、僧侶であった
とは考えにくいですよね。さて、このことがあって以来、
伊豆諸島では次のような風習が行われるようになりました。

伊豆諸島


1月24日は決して外に出てはならず、
ずっと家にこもっていなければならない。
その際には門口に籠をかぶせ、雨戸に柊やトベラなどの、
匂いが香ばしい魔除けの葉を刺し、外にある便所にも行かず、
屋内で瓶や甕などを使用して用を足した。

どうしても外出しなければならないときは、頭にトベラの葉をつけるか、
あるいは袋を被って、外の様子(特に海)を見ないように移動した。
これにしたがわず、言い伝えをバカにして、この日外に出たものは、
死んだり、全身血まみれになったり、口がきけなくなったりしたという。

トベラの葉


これは物忌みということですね。物忌みとは、ある特定の期間、
ある行為を控えて、穢れを避けることです。もともと伊豆大島には、
「日忌様(ひいみさま)」という風習があったようです。
1月24日から25日にかけて、家の外に出ずにずっと身を慎みます。

このとき、神棚には25個のお団子や餅をお供えし、海で拾った
丸い小石を出入り口に25個並べて道を作り、海水をかけて清めたりします。
1月の24日、25日といえば、ちょうど旧正月のころにあたります。
(太陰太陽暦のため、旧正月の期日は一定ではない)
ネットで海難法師について検索していたら、面白い記述を目にしました。

(24日の日は)大昔はよその村の人を絶対に村に入れず、村の入口で
何人かに番をさせ、よその村の人間が来たらボコボコにしていたらしいです。
でもそのうち「郵便屋さんだけはいいか」と会議で決まったらしくて、
郵便屋さんだけは村に入れるようになったとか。でも家に郵便屋さんがくると、
懲らしめましたという証拠に、叩くまね事だけはしていたようです。


さてさて、このようにみてくると、ずっと昔からあった旧正月の
伊豆大島の集落の排他的な物忌み行事に、
江戸時代になって代官が溺死したという事実がかぶさり、
怖い話となって全国的に広まっていったというのが、「海難法師」の真相
ではないかと考えることができそうです。






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