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青いテント

2013.07.13 (Sat)
私は野生動物の写真を撮って自然誌に寄稿するという仕事をしていました。
夜間に山中の獣道でテントを張り動物が通るのを待って撮影する。
また、赤外線センサーを用いて自動シャッターで撮影するなどです。
仕事柄、人気のない山中に一人でこもるのが怖いと思ったことはありませんでした。
あの時までは。

奥多摩秩父山地を沢沿いに登ったときのことです。
地図を見て想定していた付近には午後の1時頃に着きました。
河原に一人用のテントを貼って、
5時過ぎまで仮眠をするのがいつものルーティンです。
絶対に人のいるはずのない山奥ですので都会のただ中よりは安全なはず
・・・そう思っていました。
クマよけのラジカセを木の枝にかけ、眠りにつきました。

起きた時にはもう外はかなり暗くなっていました。ランタンをテント内につるし、
機材を準備してヘッドランプを装着し撮影に出かけます。
期待と緊張の瞬間です。テントを出て、おかしなことに気づきました。
沢の上流に向かって10mほど離れたところにやはりテントが見えます。
青い色のようです。
ここは釣り場ではないし、本当に人外の地です。
私の他に登山者がいるとはとても考えられませんでした。

テント内の明かりは透けて見えません。だれかが眠っているのでしょうか?
礼儀としてテントの人に一声かけるべきなのだろうか、
そう思いましたが、後からきた向こうが、
何のあいさつもないのにそれも変かな、と考えました。
・・・実はそれはいいわけで、何よりそのテントが不吉な感じがして怖かったのです。
大変だけど場所を変えよう、と思いました。
そこでテントを撤収し、なるべくそのテントのほうを見ないようにして
さらに1kmほど沢を登りました。
これで今夜の撮影はできなくなってしまいました。

上流の河原でテントを張り直したら時刻は9時近くになってしまいました。
簡易食を食べて眠りにつきました。まだ肌寒い五月のはずですが、
びっしりと寝袋内に汗をかいて夜中に目を覚ましました。午前2時頃です。
テント内の空気がこもっていたので
ジッパーを開けて外の空気を入れようとして、愕然としました。
私のテントのすぐ目の前にさっきの青いテントがあったのです。「えっ、嘘!」
・・・するとテント内に明かりがつきました。
そしてまだらになったテント内から、
二つのてのひらが黒く浮かびあがりました。
テント内の人が私のほうに向かって手を突っ張っているのです。

それにしても、私がテントを張ったときにはなかったのは間違いありません。
私の仮眠の間に音もなく誰かがやってきた、ということなのでしょうか。
私は一瞬気が遠くなりかけましたが、
急いで反対側から外に出て横に回り込み、
持っていた懐中電灯でそのテントを照らしました。
そのテントの中のものはあちこち手探りをしていましたが、
ジッパーを開けて外に出ようとしています。
私は後ろも見ずに沢に入り膝までぬらして駆け下りました。
途中真っ暗な中で何度も転びながら駆けて駆けて駆け下りました。
途中で懐中電灯も放り出してしまいました。息が切れて走れなくなったところで、
うずくまって震えながら朝を待ちました。

次の日ふもとから人を呼んで昨夜の場所に行ってみると、
二つのテントがならんであり、一つは私のもの一つは青いテントでしたが、
昨日見たよりもずっと朽ち果てていました。
テントの中には10年以上経過したと思われる男性の人骨がありました。
私はそれ以来動物の撮影はやめ、山へも行っていません。
以上本当の話です。





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