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山に登った話

2019.06.02 (Sun)
あ、どうも、下村と言います、よろしくお願いします。
仕事は地方公務員です。ある市の教育委員会に勤務してます。
さっそく話に入らせてもらいますけど、僕、大学のときに生物学を
専攻していまして。でね、生物学って言うと、白衣を着て顕微鏡を
のぞいてるイメージを持ってる人が多いんですよね。まあそれは、
現在、分子生物学って大人気ですから。就職もいいですし、
DNAを切り貼りしたり、かっこいいイメージがあるんです。
でも、僕が学んでたのは、同じ生物学でも環境生態学って地味な
分野なんです。主に植物なんですけど、植生を調べたり、
木の病気の治療法を研究したりっていう。はい、そんなだから、
学生は分子生物学科の何十分の1しかいませんでしたね。

けど、これも就職は悪くないんです。同期生はほとんど公務員に
なってます。森林管理局とか、地元の教育委員会で少年自然の家に勤務とか。
僕もそういった仕事をしてて、自然の中にいることが多いんです。
給料は高くないけど安定してるし、子どもの相手も好きです。
だから満足してるんですけど、自然って怖い部分もあるんですよね。
いや、災害とかそういう話じゃなくて。あれは大学の3年のときですね。
夏休みに、ゼミのメンバーで山の植生調査に行ったんですよ。
といっても、単位をもらえるようなものじゃなくて、
レクリエーションをかねてのことです。参加者は僕を入れて4人で、
リーダーは元木先生っていう、当時助教授の先生でした。
はい、今もご健在ですけど、まだ助教授のままみたいですね。

この元木先生が、当時40歳を少し出たくらいでしたけど、山が大好きで、
よく講義の途中で脱線して山の話になるんですよ。
で、その先生のもとに僕ら山好きの学生が集まってたんです。
テントの張り方とか、焚き火のしかたとかいろいろ教えてもらいました。
それでね、そのときに行ったのは長野県のほうのだったんですが、
登ったのは名もない山ですよ。地図に頂上の印だけがついてる。
登山が目的じゃなく、あくまでも植生調査ですからね。それでも標高
1000mは超えてました。中央線で大月駅ってとこで降りて、
そっから徒歩で山に入っていくんです。2泊3日の予定でした。
観光地じゃないので他の登山客の姿は見なかったです。
元木先生はそのあたり毎年来てるらしくて、

地図を見なくてもずんずん進んでいくので、僕らはその後についてくのが
やっとでした。で、麓から山に登り始めるんですが、
登山路なんて立派なものじゃなく、獣道みたいな感じでしたね。
でね、やることがたくさんあるんです。まず高度計を見て、
標高100mごとに生えている植物の種類を調べて写真を撮る。
それから標本の採集です。そんな感じで少しずつ登っていくんですが、
もともと高山じゃないので、その日のうちに山頂まで到達しました。
夕暮れになってきたんでテントを張ったんです。そんな夏中にテントを張る
場所がよく見つかったなって思われるでしょうが、元木先生にしたがって
山の反対側に降りていくと、雑木林の中に、ぽっかりテントを張れるような
空間があったんです。総勢5人ですから、テントは大型のものを一張りだけ。

でね、夕食のカレーを食べて、その後は酒盛りです。
みな飲めるほうだったんで、かなりの量を飲んだんですが、それでも
寝たのは10時前だったと思います。でね、そういうめったに人の入らない
山って暗いんですよ。一歩テントの外に出るとホントの真っ暗闇です。
街灯なんてないのはもちろんだけど、近くに街がないんで空が暗いんですね。
街があると、その明かりが空に反射して夜でもぼうっと明るい。
あと、けっこう音がするんです。夏場は野生動物の活動が活発になりますから、
夜行性の生き物が木の間を飛び回ってて。でね、夏用の薄い寝袋に
入って寝てたんですが、夜中にトイレに行きたくなって目が覚めました。
たぶん2時ころじゃないかと思います。もちろんトイレなんてないから、
そのあたりの木の陰でやるんですが、真っ暗なのでペンライトをつけて、

近くに寝てた友だちを起こさないよう這ってテントを出ようとしたとき、
その友だちの顔の上で何かが動いてたんです。小さいものです。
直接照らすと友だちが起きちゃうと思って、顔からやや離れたところに
ライトを向けると、友だちの顔の上に裸の小人が乗ってたんです。
いや、これは絶対に小動物とかの見間違いじゃないです。
そうですね、身長10cmないくらいで、僕のほうに背中向けてたんですが、
かなり痩せてた肩甲骨が見えました。体つきは男。「ええっ!?」
その小人は友だちの鼻にしがみつくような格好で、後ろ向きだったから
はっきりしないですが、友だちの鼻をかじってるように見えたんです。
それで、手を伸ばして小人を払い落とそうとしたんです。
いや、そのときはとっさで、怖いとかは思わなかったです。

そしたら僕の手が届く前に、小人は友だちの顔を走り下りて、
すごい速さでテントの隅に走ってって、姿が見えなくなっちゃったんですよ。
よっぽど友だちを起こそうかと思ったんですが、
起こして「お前の顔の上に小人がいたぞ」なんて言っても信じないですよね。
だからそれはやめて、トイレに行って戻ってきました。
もう小人の姿は見あたらなかったんで、僕も寝直したんです。
それで、次に起きたら明るくなってて、先生始め他のやつらもみんな
起きてたんです。テントの外で川上を囲んでました。
あ、さっき言わなかったんですが、夜中に顔に小人が乗ってたやつのことです。
「どうしたんですか?」そう言って出ていくと、元木先生が、
「川上のやつがおかしいんだよ。どうも自分の名前もわからないみたいなんだ」

川上はぼうっとした顔で目をしょぼしょぼさせて「わからないです、
 僕、川上っていうんですか。ところで、あなたはどなたです?」
みたいなことを言って、顔を洗わせてもやっぱり抜け殻みたいな感じでした。
元木先生が腕を組んで考え込んだので、笑われるかもしれないと思ったけど、
夜中に見た小人の話をしたんですよ。そしたら先生は「うーん、それは
 関係があるかもしれんなあ。とにかく降りて川上を医者にみせないと」
それで急いでテントを撤収して山を降りたんです。
川上は目の焦点が合ってなかったですが、なんとか歩くことはできたので、
縦列の真ん中にはさんで、みなでゆっくりゆっくり降りてったんです。
その途中、元木先生があちこちずっと見回してるので、
「何か探してるんですか?」って聞いたら、「うん、もしかしたら

 山を怒らせたものがあるかもしれんから」そう言いました。
でね、15分ほど降りたところで、細い道の横に湧き水の出てる場所があって、
登ってくる途中にみんなで飲んだんです。元木先生が「あれくらいしか
 思いつかんなあ」そう言って湧き水のほうに入っていき、
僕らもついてったら、「あ、これかもしれんぞ」って地面を指さしました。
苔の上に、奇妙な形で石が並んでたんです。そうですね、一つが握りこぶしより
少し小さいくらいのが20個ほど、中には2つ重なってるのもあって、
全体が星座みたいな形になってまして・・・その中に足跡が一つついてたんです。
元木先生は「ああ、水飲むときに、これ壊したせいかもなあ」そう言ってしゃがんで、
足跡が壊した元の形を復元するみたいにして石を並べ直したんです。
そしったら、川上が「うああああっ!」て声を出したので、

そっち見ると、川上の鼻の穴から小人が出てきたんですよ。はい、前の夜に
見たやつです。人間の鼻の中にそんな10cmちかいものが入れるわけはない、
と思うかもしれませんが、僕だけじゃなく、元木先生や他のメンバーも
見てるんです。小人はすごい勢いで川上の服からずぼんへ伝わってくると、
地面に降り立ち、四つん這いになって草むらの中に消えてったんです。
僕らが呆然としてると、川上が「あれ、みんなどうしたんです、
 テントはどうなったんですか?」そんな声を上げて、名前とかを聞いてみると、
「川上にきまってるじゃないですか」って、正気に戻ってたんです。山を降りて
病院に連れてってもなんともなかったです。ただ、川上はその後1年くらい、
しょっちゅう鼻血を出してました。・・・山って、そういうことがあるんですね。
みなさんも、変な石組とか見かけたら、崩さないようにしたほうがいいですよ。


 


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