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さぐめさんの話2

2019.07.03 (Wed)
※ これは続き物というわけではないんですが、まだ読まれてない方は
こちらを先に参照されると、意味がわかりやすいかと思います。
関連記事 『さぐめさんの話』

どうも今晩は、看護師をしている柴田と申します。よろしくお願いします。
さっそく話をさせていただきます。私は、総合病院の呼吸器内科の
入院病棟に勤務しているんですが、先週まで、そこに祝田さんという
高齢の女性の方が入院されていたんです。はい、残念ながらもう亡くなられて
しまいました。年齢は88歳でした。祝田さんは高熱のため、
うちの病院が提携している養護老人ホームから救急搬送されてきたんです。
そこには非常勤の医師がおられるんですが、手におえない病状のときには、
うちに来る手はずになっています。経営母体が同じなんです。
誤嚥が原因となった典型的な老人性肺炎でした。
でも、そんなに重い病状ではなかったんです。意識はありましたし、
数日、抗生剤を投与することで熱は下がっていきました。

でも、年齢が年齢ですから、私たちは慎重に看護していたつもりだったんです。
祝田さんは、頭のほうは認知症はほとんど出てなかったと思います。
それと病状が安定してきてからは、気位が高い方でしたので、
オムツをつけるのを拒否され、ご自分で病室のトイレに行かれてました。
はい、手のかからない患者さんだったんです。私が担当でしたから、
検温などのときにいろいろ話をさせていただきました。
そしたら、お気の毒な境遇におられることが、だんだんわかってきまして。
ご家族がおられなかったんです。結婚はされていたんですが、
旦那さんはだいぶ前に亡くなられてました。それと、息子さんが一人
おられたものの、そちらも若くして亡くなっていたんです。
病院の保障人には、これも亡くなった弟さんの娘さんがなっていました。

何度か病院に来られていますが、身寄りはその方しかいなかったんです。
祝田さんとはそれほど親しい間柄には見えませんでしたし、
祝田さんのほうで、保障人になってもらったことを申しわけながって
ましたね。それで、祝田さんの病状が安定して点滴がとれたころ、
頼み事をされたんです。はい、祝田さんは看護師に何かわがままを言う
なんてことはない人でした。ただ小さなスケッチブックと色鉛筆のセットを
買ってきてほしいと、お金を渡されたんです。
「どうされるんですか?」と聞いたら、にこにこしながら、
「少し絵を描きたいと思って」という答えが返ってきて、
「ああ、元気が出てきたんだな」と思いました。それから少し長く
お話して、祝田さんが高校の美術の教師をされていたことがわかったんです。

「すごい、私のこと描いてくださいますか」 「うーん、でもねえ、
 人物はあんまり得意じゃないのよ」そんなやりとりをしました。
色鉛筆などは病院の売店にはありませんが、難しい頼み事ではないので、
文具店によって買い求め、祝田さんに渡すとたいへん喜んでおられました。
祝田さんはテレビを見ることはほとんどなく、午後の体調がよいとき、
色鉛筆でスケッチブックに絵を描いておられて、私が「見てもいいですか」
と言うと、微笑んで見せてくださったんですが、ひと目でプロ級ということは
わかりました。広い野原を突っ切って川が長く伸び、手前に小高い山、
山には神社の屋根のようなものが木の間から見えました。そしてその下の
野で遊ぶ小さな女の子が2人、そんな構図でしたね。「これ、どちらの
 風景ですか」そう聞くと、「中根畑って言う、私の生まれた場所。

 でもね、豪雨のときに山崩れで流されてしまって、今はもうないのよ」
そのニュースはテレビで見たような気がしました。「この子たちは?」
「私と、幼馴染だった近所のみさとちゃん」小さくてはっきりとしなかったですが、
女の子2人は仲良く手をつなぎ、野原を駆けているようでした。
「この建物は?」 「それはね、さぐめさんという怖い神様を祀る神社」
「こわい神様?」 「そう。ほんとうは油彩で描きたいんだけど、
 もう絵筆を握ることはないでしょうね」 検温をすると平熱で、血圧はやや低いものの
問題はなし。この分なら、もうすぐ施設に戻れるだろうと思っていたんですが・・・
その2日後です。私が夜勤の日でした。夜勤は看護師が2人で、3時間ごとに
病棟の見回りをします。高齢の患者さんが多いので容態の急変などもあり、
気が抜けないんです。4人部屋の、祝田さんのベッドのカーテンを少し開けたとき、

背中がぞくぞくっとしたんです。強い冷気を浴びたように思いました。
でも病院内はつねに25度に保たれているはずです。ペンライトで祝田さんの
顔を確認すると、規則正しい呼吸でした。テレビ台の上にスケッチブックが
立てかけてありました。結局、その夜は何事もなかったんですが・・・
次に勤務に出たときです。祝田さんはなんとなく沈んだ様子で、スケッチブックを
出されてなかったんです。「絵は完成されたんですか?」そう聞くと、
「・・・いえね、何だか思ったようにうまく描けないのよ。それで、つまらなくなって
 しまってねえ・・・」そう言ってスケッチブックを開かれたんです。前に見せてもらった
山里の絵でしたが、柔らかなパステルカラーで描かれた中に、緑と黒で
強く塗られた部分があったんです。祝田さんと手をつないでいたもう一人の
女の子でした。その上に塗られた、紙がやぶれるほど強い緑と黒・・・

私が次の言葉が出せないでいると、「この子ね、前も話したでしょう、お友だちの
 みさとちゃん。でもね、中身はもう半分、さぐめさんになっているの。
 だからうまく描けない」 「どういうことですか」そう聞いても、
祝田さんは首を振るだけで、ベッドを下げて横になってしまわれたんです。
はい、それからは、検査の数値に異常は見られないのに、祝田さんはどんどん
元気をなくされていったんです。主治医の先生にお聞きしても、
「精神的なものかなあ」こうおっしゃられるだけでした。
それで、次の夜勤の夜です。あれは午前2時の見回りのときだったと思います。
祝田さんの4人部屋に入ったとき、天井に黒い影が踊るように動いているのが
見えたんです。これ、ベッドの枕元の読書灯をつければそうなるんですが、
カーテン越しに、誰も明かりをつけてないのは確認できました。

わけがわかりませんでしたが、一人ずつカーテンを開け、様子を確認しても
よく眠られていました。窓際の祝田さんのカーテンに手をかけたとき、
天井の影が消えました。ベッドの祝田さんは、かっと両目を開いて天井を
見つめていたんです。「どうされました?」聞くと、「とうとうさぐめさんが来たよ。
 私のところに」これはただ事ではないと思い、バイタルチェックをしましたが
手が冷たい他に異常はありませんでした。「ご気分、悪くないですか」
「さぐめさんが来た」ナースコールを祝田さんの手に握らせ、
当直の医師のところに知らせにいきました。「別に数値に異常はないんだろ」
ぶつぶつ言う若い医師を連れて、もう一度祝田さんのカーテンを開けたときには、
祝田さんは天井をにらんだまま息をしていなかったんです。すぐに救命措置が
始まりましたが、そのまま亡くなってしまわれたんです。心不全ということでした。

でも、それまで心電図の数値に問題はなかったんです。祝田さんの身の回りの
品はごくわずかなもので、それらをまとめて、病院に来られた姪の方に渡しました。
そのとき、怖かったですけどスケッチブックを開いてみたんです。
前に描かれていた絵は、みさとさんという女の子の部分が完全に破れ、
なくなっていました。姪の方にみさとさんという子の話を聞いてみたんです。
そしたら、「みさんとさん・・・ああ、たしか伯母さんから聞いたことがある。
 伯母さんの生まれた田舎の子で、8歳のときに行方不明になったみたい。
 1ヶ月後くらいに木から吊るされて死んでいるのが発見されたって。
 むごいことに体はずたずたで、犯人は見つかってないって言ってた。
 ずいぶん昔のことだから、その後どうなったかはちょっとわからない」
そんな内容だったんです。そのときまた、背筋に冷たいものが走りました。

だいたいこんな話なんですけど・・・祝田さんは簡素なお葬式をあげ、遺骨は
郷里には戻されてはいないということでした。祝田さんが言っていた「中根畑」
という集落についても少し調べてみたんです。3年前、豪雨で山崩れがあり、
十数世帯ほどの集落は壊滅。でも、事前に避難勧告が出ていたため
犠牲者は数人で、崩れたのはどうやら、祝田さんが絵の中に描いた
さぐめさんという神様のお社があった山のようでした。
それで・・・ここ数日のことなんですが、病棟に入院されている高齢の
女性患者の方が気になるお話をされてるんです。夜中にカーテンを開けて
緑色のものが入ってくるっていう。「人ですか?」と聞いても、
よくわからないように首をかしげられて。それが一人じゃなく、3人から
同じことを聞かされたんです。はい、もちろん師長には話したんですが・・・





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