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猫たちの世界の話

2019.07.09 (Tue)
今晩は、山本と申します。よろしくお願いします。こちらでぜひ
話をするほうがよいと知人に勧められたので、まいりました。
ただ、あんまり怖い話ではないんです。そのことをまずご承知おきください。
えー、どこから話せばいいんですかねえ。お聞き苦しいと思いますが、
やはり、夫のことからなんでしょうね。夫はある証券会社の役員を
しておりました。過去形で話したのは、3年前に亡くなっているからです。
結婚したのは私が23歳のときでした。社内結婚だったんです。
当時は、夫は私よりも7歳年上で、バリバリの若手社員でした。
はい、将来出世するのは間違いなしと誰からも見られていたんです。
私は大学を出たばかりでしたから、強引に言い寄られて、
ああ、この人についていけば間違いないって気にさせられたんです。

目が曇っていたんでしょうね。というより、世間を知らず人を見る目が
最初からなかった。結婚した翌年に長女が生まれ、その2年後に次女。
子どもはそれでおしまいでした。夫は男の子をほしがっていたんですが、
どうしても授からなかったんです。私は最初の子の出産を機に退職し、
専業主婦になりました。夫はローンを組んで郊外に家を建て、
誰から見ても幸せそうな生活だったんですが・・・
たしかに、夫は仕事ができましたので、同期の中でも一番に出世して
いったんですけど、毎日帰りが遅く、家庭で過ごす時間が少なかったんです。
それだけなら世間にはよくあることですが、浮気癖がひどかったんです。
最初の浮気が発覚したのは、次女がまだお腹の中にいるときでした。
そのときには、私の実家も入って大騒ぎになったんですが、

夫が手をついて謝ったので、離婚は見送ったんです。
あれも間違いでした。それからは、私にわからないようにと、夫なりに
巧妙に、相手をとっかえひっかえ浮気してたんです。
でも、わからないはずないじゃないですか。どれほど苦しんだことか。
でも、離婚に踏み切ることができなかったのは、やはり娘2人の存在です。
あ、すみません。ここは身の上話を聞いていただく場じゃありませんよね。
でも、その後のいきさつにかかわりのあることですから、
もう少し続けさせてください。そういう家庭でも娘たちは順調に育ち、
2人とも大学に入りました。そのときには、すでに夫とは別居中だったんです。
若い愛人にマンションを買い与えて、そちらに住んでいたんです。
子どもたちに手がかからなくなったことで、もう何度目かわからない

離婚の話を切り出したんですが、夫は「会社の聞こえが悪い」
その一言で、どうしても判子をついてくれようとしなかったんです。
夫はそのとき、会社の常務になっていました。
娘たちはそれぞれ自炊生活をしていて、私は広い家に一人だけ。
その頃ですね、寂しさのあまりというか、猫を飼いはじめたんです。
はい、一匹目はペットショップで購入したサイベリアンです。
メス猫で、とてもおとなしい子でした。名前はナーシャってつけたんです。
最初は、飼うのはその子一匹だけのつもりだったんですが・・・
それから3ヶ月後ですね、家の生垣に、生まれたばかりの子猫が
突きささってたんです。やっと目が開いたばかりで、ミャーミャーという
声で見つけました。すぐペット病院に連れていきまして、

その猫もうちの子になったんです。雑種の白黒のオス猫で名前はトムにしました。
トムと言うと、どうしてもアニメの「トムとジェリー」を思い出しますよね。
あの、ネズミに猫がいじめられる。でも、トムは野性がかなり残っていて、
トカゲや虫をつかまえては、半死の状態で私のところに持ってきました。
そのたびに悲鳴をあげさせられたものです。その後、私、
猫の保護と里親探しのボランテイアの会に加わったんです。
そのご縁で、自分のところでも2匹の子猫を引き取ることに・・・
オスとメスで、名前はライチとレモンです。そうして、4匹の猫と暮らし始めて
2年ほどたちました。家飼いで外に出すことはなかったです。
4匹には、それぞれ相性もありましたが、特に仲がよい悪いということもなく、
互いに勝手気ままな生活を続けていました。

そんなとき、会社から夫が倒れたという知らせが入ったんです。
心筋梗塞でした。夫は家に帰ってなかったので、私は知りませんでしたが、
検診の結果は毎年よくなかったようです。無理をして仕事してたんですね。
しかたなく病院に駆けつけましたが、夫が生きているうちに病院に行ったのは、
それも含めて2回だけです。あとは亡くなってから。
薄情なようですが、夫の世話は愛人の方がやっておられましたので。
2回目、病院に行ったとき、夫はやっと離婚届に判を押してくれたんです。
娘たち2人は、どちらも1度も見舞いにはきませんでした。
私がずっと夫の浮気に悩まされているのを見てきましたので、
夫を嫌っていたんです。あ、それと、離婚して生活に困るということは
ありませんでした。家を夫から慰謝料としてもらいましたし、

私の実家は弁護士事務所をやっていて裕福なほうなんです。
1ヶ月ほどして、夫は入院中に亡くなりました。順調に回復しているという
話だったんですが、ある日突然に容態が急変し、麻酔が効かず、空を
かきむしるなど、それは苦しんだ最期だったということでした。それを聞いても私は、
ああ、せいせいしたと思うだけで、のんびりと猫たちとの生活を続けていました。
そのうち、娘たちはそれぞれ結婚し、式には私だけが出席しました。
すぐに長女には男の子が生まれました。娘はどちらも私とは違って、
幸せな結婚生活を送っているようで、安心してたんですが・・・
長女は孫をよく家に連れてきて、目に入れても痛くないほどという言葉どおりに
私もかわいがっていました。その子が急な病気になったんです。
2歳になったばかりでした。高熱が続いて原因は不明、

大きな病院に入院しましたが、日に日に衰弱していくばかりだったんです。
もちろん私も何度も病院に行きました。娘の憔悴はひどかったんですが、
何もできず・・・そんなときに、夢ともうつつともつかないものを見たんです。
私が夜中、ベッドで目を覚ますと、いつもは猫ベッドやソファ、私の布団など、
それぞれ勝手な場所でばらばらに寝ている猫たちが、
ベッドの下の一ヶ所に集まり、頭を寄せ合っていたんです。何か相談している
ように見えました。普段はそんな姿は見たことはなかったんです。
私は起き出そうとしましたが、体が動きません。そのうち、
相談がまとまったように、中の一匹がベッドの私の胸の上に飛び乗りました。
トムでした。トムは、室内のわずかな光に黄色い目をランランと輝かせながら、
「〇〇の病気は治りません」人間の医師のようにそう言ったんです。

〇〇は初孫の名前です。思わず納得させられてしまうような重々しい口調でした。
「でも、その病気、わたしがもらっていくことに決まりました。
 安心ください」トムはこくこくとうなずくように頭を動かし、
そこで私の記憶は途切れたんです。翌朝、起き出して猫たちの様子を
確認しようとしたら、トムの姿だけが見えません。外を探したら、ベランダの
床下に黒い足が出ているのが見えたんです。トムでした。さわっても動かず、
引き出してみるとものすごい苦悶の表情を顔に浮かべ、口から内臓を吐き出して
死んでいました。動転していると、スマホに連絡が入り、病院についている
長女からでした。はい、孫の容態が劇的に回復したということだったんです。
熱が下がり、一晩で肺炎の症状も治まり、意識を取り戻して笑顔さえみせてるって。
・・・ああ、昨晩の夢は本当のことだったんだ、トムが孫の病気をもらって

いってくれた・・・信じられないことですが、そう思うしかありませんでした。
トムはペット霊園に埋葬しました。他の猫3匹は、トムがいなくなっても特に
悲しんでいる様子もなく、やはり好き勝手に動き回っていましたね。
猫たちが1匹でいるとき、それぞれ話しかけてみたんです。「あなたたち、
 人間の言葉が話せるの? ○○の命を救ってくれたのはあなたたち?」って。
ライチとレモンは何も答えず、甘えた声をだすだけでした。まあ、あたり前ですよね。
その日はずっとナーシャの姿が見えず、探していると、夕方になって
窓際にいるのを見つけ、やはり「○○の命を救ってくれたの?」って聞いたんです。
ナーシャはふり向き、銀の毛並みが、夕日でギラギラした金色に光って見えました。
ナーシャは静かに「はい、そうです。ご主人様がそう望みましたから。
 △△の命をとったのも」って。△△は主人の名前なんです・・・





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