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ラマルクの子孫たち

2019.07.14 (Sun)
19世紀、オーストリアの司祭だったグレゴール・ヨハン・メンデルは、
エンドウマメの交配実験から、生き物が持つ形や性質が子孫に遺伝する
ことを発見しました。それ以来、子孫に遺伝するのは「遺伝子」
という形で生まれつきに持っている要素のみだといわれてきましたが、

近年は親のストレスや記憶も遺伝する可能性が指摘されています。
そんな中、「Geisel School of Medicine」の研究チームが新たに、
「親が後天的に得た経験も子どもに遺伝する」ことを示す実験結果を
報告しています。
(GIGAZINE)

DNA2重らせん構造
zzzz (1)

今回は科学ニュースからこういうお題でいきます。うーむ「後天的に
獲得した形質が遺伝する」といった話で、こういうのを
「ラマルキズム」と言います。「用不用説」と訳されることが多いんですが、
この翻訳は自分はあまりよくないと思ってます。
ラマルキズムは用不用説を含むものの、もっと多様な概念です。

さて、まずはニュースの詳細から。「Geisel School of Medicine」
というのは、アメリカ、ダートマス大学医学部の研究室のようですね。
実験は、キイロショウジョウバエを用いて行われました。
このハエは、幼虫に寄生するハチの存在を感知すると、エタノールを含む
餌の周りに卵を産みつける傾向があります。

ショウジョウバエ
zzzz (6)

幼虫がエタノールを含んだ餌を食べて育つことで、寄生バチによって
命を奪われにくくなるということです。で、ハエを2つのグループに分け、
Aグループは近くに寄生ハチを置き、Bグループにはハチを近づけない。
するとAグループがエタノールを含む餌に産みつけた卵は全体の94%。
寄生バチにおびやかされないBグループは34%だったそうです。

この卵から生まれてきた「F1世代」を、どちらも寄生バチに近づけず
飼育しました。すると、寄生バチを知らないはずのF1世代が産んだ卵のうち、
Aグループは73%がエタノールを含む餌に卵を産み、
Bグループはほとんど変わらず。これをF6世代までくり返しましたが、
Aグループの子孫は、その傾向が続いたんですね。(下図)

zzzz (2)

この実験結果から、「産卵におけるエタノール嗜好性」という後天的に
獲得された形質が遺伝したことで、その子孫もまたエタノールを含む餌の上に
卵を産みつけるようになった、と研究チームは主張しているわけです。
これがもし正しいとしたら、親がアルコール中毒だった場合、子どもにも
それが遺伝する可能性があるんですが、みなさんはどう思われるでしょう。

さて、ジャン・バティスト・ラマルクという人物をご存知でしょうか。
18、19世紀のフランスの博物学者で、biology(生物学)という語を、
現代の意味で初めて使った人物の一人とされます。またダーウインに先立ち、
「進化」という概念を持っていたことでも知られています。

ラマルクの主張は、ある個体が後天的に身につけた形質が子孫に遺伝し、
進化の推進力になるとするものです。簡単に言えば、キリンの首が長いのは、
高いところにある餌をとろうとして首を伸ばす行為を続けたため、
それが子孫に遺伝して、だんだんに首が長くなっていったわけですね。

ジャン・バティスト・ラマルク
zzzz (4)

でも、この説、現在の生物学では支持者は少ないんです。
突然変異説で説明されることが多いでしょう。キリンの中で、遺伝子の
突然変異により、他よりも首の長いキリンが生まれ、
それが環境に適していたため、適者生存で首が長くなった。
(ほんとうはもう少し複雑な話です。)

さて、ラマルクの説はわかりやすいですし、ありそうな感じもします。
ですが、批判も多かったんです。ワイスマンという生物学者が、
ネズミを使って実験を行い、尾を切り取り、それを育てて子を産ませ、
その子ネズミもしっぽを切って育て、22世代にわたってくり返しても、
尾のないネズミは生まれませんでした。

ラマルキズムの信奉者は、これに対し「ネズミにとっては尾は必要な器官で
あるから、人工的に切り取ったとしてもなくならないのは当然」と再反論します。
しかし、生物側で、どうやって尾は必要なものであると判断したのかという
説明はできないんです。ラマルキズムに関しては、不幸な歴史もあります。

パウル・カンメラーというオーストリアの生物学者は、カエルを水中で
交尾させることに成功しましたが、カエルの足に滑りどめになるコブができ、
それが子孫に遺伝したと主張しました。つまり、水中での交尾に必要なので、
新たにそのコブができたというわけです。

パウル・カンメラー
zzzz (3)

ですが、この報告を受けて追試を試みても誰も成功しませんでした。
さらに、他の研究者が足にコブのあるカエルの標本を検証したところ、
コブの中からインクが出てきました。つまり、そのコブはインクを注射して
人為的につくられたものだったんです。この後しばらくして、
カンメラーは森の中でピストル自殺しました。

さて、ラマルクの頃はもちろん、ダーウイン当時でも遺伝子構造は
発見されていませんでした。現在われわれは、生物の形質は遺伝子情報
によって伝わることを知っています。いくらキリンが高いところの餌を
食べようと首を伸ばしたとしても、そのためにDNAの塩基配列が
変化するということはありえないですよね。

上記引用の研究グループも、そのへんのことはわかっていて、
ハエがエタノールを含む餌に卵を生むのは、ハエの脳の特定領域で、
「神経ペプチドF」と呼ばれる物質の発現が抑制されていることが
要因の1つだと述べ、遺伝子そのものが改変されているわけではないが、
「記憶」は受け継がれる可能性があるのではないかと主張しているようです。



さてさて、自分からみると、この実験は段階を踏んでないと思います。
生物は複雑で、どんなことが実験結果に影響を与えているか
わかりません。まあ、生物学では物理学のような精密な実験は
なかなか難しいんですが、それでも、

ショウジョウバエがどうやって寄生バチの存在を感知するのか、
どうして餌にエタノールが含まれていることがわかるのかなど、
そのあたりのメカニズムをしっかりと解明することが必要で、そこに
子孫のハエがエタノール餌を好むヒントが隠されているのかもしれません。
記憶が遺伝するとは、自分にはちょっと信じがたいですね。

人間でも、親がアルコール中毒だった場合、子どもは何かの依存症に
なりやすいという統計結果がありますが、父母が争ったり、経済的に
困窮したりで、精神的なトラウマによる要因が大きいんじゃないかと
思います。では、今回はこのへんで。

関連記事 『殺人遺伝子と悪の起源』





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コメント
ハエが寄生バチに襲われて「こいつらヤバイ!」と学習してなおかつ「こいつらの弱点はアルコール!」という結果を得るまでどう実験をするのか。不思議ですね。
いや、寄生されてしまえばハエはほぼ死ぬだろうから、実害を受けての『学習』では無いのでしょうか。
ハチが怖いというストレスでやけ酒してるんだったりして(ヲイ)
いや、それも実害受けたら死ぬ前提で行くと、生きてるハエはまだ攻撃されて無いはずで怖がる理由がなくなってしまう…。
そもそも、ハチに直に接触せずともそばにいるだけでアルコール好きになるんですもんね。
咬まれなくてもゴキブリを怖れる人は多いでしょうし、そういう…?ハエもハチの羽音だけでゾワッとしたりするんですかねぇ…。
| 2019.07.15 11:19 | 編集
コメントありがとうございます
この話は難しいです
おそらく、寄生バチの存在を察知する機能、エチルアルコールを感知する機能
エタノールを寄生バチが嫌うと知っていることなどはすべて
ハエの遺伝子に書き込まれていると思うので
自分はまずそれを解析するのが先だと思うんですよね
またもし、ハエがエタノールに卵を産む機能を真に獲得したのであれば
実験の前後で遺伝子の変化があり、その性質は何代たっても失われないでしょう
ところがそうではないみたいですよね

実験グループは医学系のようですが、もっと分子生物学的な
アプローチが必要な気がします





bigbossman | 2019.07.15 12:05 | 編集
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