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海を探す話

2019.08.15 (Thu)
あ、どうも今晩は。また来てしまいました。はい、いつもの引退した
骨董屋です。今回も、古物にかかわる話をさせていただきます。
あれは、私が結婚して4年目ですか。一人娘が3歳になった頃でした。
やっと自分の店舗が持てて、それははりきってましたね。
自分の未来には広く豊かな世界が開けている、そんな感じに思ってましたよ。
いや、それは不安もありました。骨董というものに対する不安です。
みなさん、骨董と聞くと、まず頭に思い浮かべられるのが、
真贋ということじゃないかと思います。たしかにね、偽物をつかませられるのは
大恥です。でも、そんなことはめったにあるもんじゃない。
骨董の世界は深いんです、気が遠くなるほどにね。
その古物がつくられた時代、作者、それと様式。わずかな様式の違いで

値段が何十倍にも跳ねあがる、それが骨董です。あ、すみません、
本題とは関係のない話で。あれは6月の夕方でした。そろそろ店を閉めようか
というときに、若い男性が一人来られたんです。20代後半くらいの。
ああ、買い取りだなって思いました。案の定、その方が車から運び出して
きたのは、高さ1mほどのガラスケースに入った西洋の人形、
いわゆるアンティーク・ドールってやつです。ひと目見て、
断ろうと思ったんです。西洋物はいっさいあつかってなかったですから。
「ああ、すみませんが・・・」そう言いかけたとき、
娘がひょこっと土間に降りてきまして。で、ガラスケースのほうに
歩み寄ってきて、「このお人形、ここにいたいって」こう言いました。
娘はね、普段は店に入ることはないんですよ。

ほら、黒ずんだ大黒様とか、そういうのが置いてありますでしょ。
それらが怖いって言ってね。でも、そのときだけは違ってた。
でね、私も変に思って、その男性から話だけは聞いてみたんです。
そしたら、母親がまだ若くして亡くなって、遺品といってもその人形くらい。
独身者が持っててもしかたないので、値段はいくらでもかまわないから、
売れるかどうか聞きにきたということでした。どうも母子家庭だったようです。
まあね、私の店には置けませんが、市に出すことはできます。
ケースから出してみたんですが、なかなか不思議なものでした。
作者は不明ながら、フランス製で間違いなし、おそらく50年はたっている。
ただ、顔がねえ、真っ直ぐな黒髪で、目も黒かったんです。
その手の人形って金髪か栗毛で、黒髪なんて初めて見ました。

さらに事情を聞いたら、その人形、母親がその母親、つまり男性の祖母から
受け継いだものってことで。それなら古いのは納得。保存状態もいい。
ですが、買い取るのは気乗りしなかったんです。いえね、
儲けが出ないとかじゃなく、人形の顔があまりにも寂しげに見えて。
そしたら、娘が私のズボンを引っぱりまして、「ねえ、ねえ、ここに
 置いてあげて」何度も言うもんですから、当時のお金で、
1万円で買い取ることにしたんです。男性は喜んで帰っていきましたよ。
もちろん、西洋物は雰囲気がおかしくなりますから、店には置けません。
奥の居間のテレビ台の横に立てておきました。娘は、しばらくその前で
人形を見つめてましたが、「このお人形、海に行きたいって言ってる」
そんな話を始めまして。「どうしてそう思うの」って聞いても、

首をかしげながら「わからない」と言うんです。その日はそれで終わりました。
いやいや、夜中にその人形がケースを抜け出して寝ている胸の上に
乗ってきたとか、そんなことはありませんでしたよ。
ただね、奇妙な夢を見たんです。カンカンに晴れた日の海岸でした。
テトラポットが積み重なった岸辺に何度もくり返し波が打ち寄せてる、
ただそれだけの夢。でね、布団から起き上がると磯の香りがしたんです。
鼻をくんくんさせていると、女房も起きて「ああ、海のにおいがする、
 まだ夢の続きなのかしら」って。「え、どういうこと?」
「ずっと波が打ち寄せる夢を見てたのよ」 「ええ、俺もだ」
どうも同じ夢だったようなんです。立ち上がって部屋をうろうろすると、
海のにおいは人形のあるあたりから漂ってきてました。

ケースを開けると、ますますにおいが強くなって、人形の空色のドレスが
しっとりと濡れてたんです。首をかしげていると、私と女房の間に寝ていた
娘が目を覚まして一言、「海」って言ったんです。
これはね、さすがにただ事じゃない。それで、その日の午前中、
人形を売りにきた男性に連絡をとってみました。もちろん住所などは
控えてあります。昼に喫茶店で待ち合わせて、その人形のいわれを
詳しく聞いてみたんです。こんな話でした。男性は、自分もはっきりとは
わからないが、母親が生前話してたところだと、母親のやや齢の離れた妹、
その子が7歳のときに行方不明になったんだそうです。
突然、豪雨になった日、学校帰りの通学路で消息がとだえ、
警察に連絡して広範囲に捜索したものの、不明のままだったということでした。

おそらく川に落ちたのだろうということで、かなりの人数で舟も出して
探したそうです。でも見つからず、変質者の線もありえると。
その後、その子の葬式なども出さなかったということでした。
あきらめきれなかったんでしょう。それからまたしばらくたって、
買ってきたのがその人形だということです。「いえね、祖母とは同居した
 ことはないんで、それくらいしかわかりません」
一つ気になったことがあったので、聞いてみました。
「この人形、前からこんな顔でしたか、黒髪の日本人みたいな」
「うーん、僕が最初に見たときからそうだったと思います。それが何か」
「いえ、その子がいなくなったときに住んでたのは」 「○○県の△△です」
ここまで話を聞いて、おおむね事情はわかったつもりでした。

その後、人形が家にある間、朝になると海のにおいがしてドレスが濡れている。
そのくり返しで、重い腰を上げて、日曜日に私の一家でドライブに出たんです。
軽自動車の後部座席に、女房と娘とケースから出した人形。
ええ、走ったのは○○県の海岸沿いの道です。娘には、「お人形が何か話したら
 知らせて」と言ってありました。2時間ほども走ったでしょうか。
夢で見たのと同じような、晴れていて気持ちのいい日でした。
漁村の堤防沿いの道にさしかかると、娘が「ここだって!」と叫び、
でも、人形がなにか言ったとは、私たちには聞こえませんでした。
適当なところに車を停め、堤防を越えると、ずらっとテトラポットが並んでいて、
女房が「あ、夢で見た場所かも」と言いました。私が娘を抱き、
娘が人形をかかえて、さすがにテトラポットの上は歩けませんから、

堤防の下の平らなコンクリの上を進んでいくと、数分歩いたところで、
娘の手からふっと人形が浮き、とととっと、テトラポットの上を数m転がり、
隙間に落ちていきました。まあね、まだ私も若かったですから、
テトラの上を渡っていき、人形の落ちた隙間に頭を入れてみました。
むっとする磯臭さで、手を伸ばして人形の足をつかむと、
そのすぐ下の海中に、コンクリとは違った白さのものがありました。
もうおわかりですよね。子どもの頭蓋骨です。
そこの浜は、大きな川が流れ込んでくる近くで、豪雨の日に流された
女の子が川を運ばれ、何十年も前、そこにたどり着いたんでしょう。
それから先は、私ではどうにもならず、警察に連絡しました。
親子で海に来て遊んでたら、人間の骨らしいものを見つけたって。

それ以上の話はしなかったです。信じてもらえないでしょうからね。
骨は警察が苦労して引き上げましたが、頭蓋骨だけで、
他の部分は見つかりませんでした。結局その骨は、身元不明、
事件性があるのかどうかもわからなかったんです。ほんとうは、
人形を売りにきた男性のところで供養できればよかったんでしょうが、
頭蓋骨には歯も残ってなくて、証明する手立てがありませんでした。
まあでも、見つかっただけよかったと思います。これで話はほとんど終わり
なんですが、後日談として、その人形の髪がね、だんだんカールして金色に
変わっていったんです。目も黒から青に。それがもともとだったんでしょう。
え、その人形ですか、結局売りませんでした。ずっと蔵にしまったままで、
まだあるはずです。今日、ここに持ってくればよかったですねえ。

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