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「脳オルガノイド」とは

2019.08.31 (Sat)
実験室で培養した脳から、人のものに似た電気的活動を初めて検出したとする
研究論文が29日、発表された。この研究結果は、
神経学的状態のモデル化、さらには人の大脳皮質(灰白質)の発達に関する
根本的理解への道を開くものだという。

豆粒大の「培養脳」に意識があるかどうかは、まだ明らかになっていない。
今回の革新的進展をもたらした研究チームは、検出された電気的活動が
早産児のものに似ていることから意識はないとの見方を示しているが、
確かなことは言えないという。これはこの研究分野に
新たな倫理的次元を開く問題だ。
(JIJI.COM)

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今回はこういうお題でいきます。これもなかなか難しい話ですね。
こういうニュースを読むと、「試験管の中の脳が意識を持つ」
みたいに考える人が多そうですが、そこまでいくにはさまざまな問題があり、
もしできるとしても、長い長い時間がかかると思われます。

この研究を発表したのは、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の生物学者
アリソン・ムオトリ(Alysson Muotri)氏と研究チームです。
このような人工培養によりつくられた臓器を「オルガノイド」と言います。
オルガノイドには肝臓や膵臓、肺など、人間のほぼすべての臓器があり、

今回の記事のものは、「脳オルガノイド Cerebral organoid」と呼ばれます。
オルガノイドは、「臓器 organ」と「接尾辞ーoid のようなもの、もどき」を
組み合わせてつくった造語なんでしょう。
アンドロイドは人造人間と訳されますよね。

いかにも勝ち組という雰囲気の、アリソン・ムオトリ博士


これらのオルガノイドは、各種幹細胞からつくられ、3次元的な培養で、
自己組織化により形成されていきます。この技術は10年ほど前から
急速に進展してきていますが、機能的な神経細胞ネットワークを
発達させたのは今回が初めてだということです。

さて、引用ニュースの脳オルガノイドについて、脳波を測定したところ
最初まばらで、みな同じ周波数で発せられました。
ですが、時間がたって体積が増えるにつれ、異なる周波数の脳波が現れ、
信号がより定期的に出現するようになったということです。
これはまあ、組織が成長していると考えてもいいと思います。

今回の結果について、研究チームは、幹細胞培養技術が向上したこと、
オルガノイドが成長する十分な時間をとったことが成果につながったと
述べています。ちなみに、人間の胎児の脳が子宮の中で
成長するには10ヶ月程度の時間が必要です。

今回の研究の脳オルガノイド 神経系はつくれますが血管などは無理なようです
athe (6)

さらに、研究チームは、この脳波パターンを初期発達段階にある
人間の脳の脳波パターンと、コンピュータソフトを使って比較しました。
その結果、早産児の脳波とよく似ているという結論が出たんですね。
研究チームは、この脳オルガノイドには意識はないと考えるが
はっきりとはわからない、と述べています。

まあねえ、ここは痛し痒しなんだと思います。「培養脳が意識を持った」
こう発表すればセンセーショナルです。ですが、それだと倫理面の
問題があるとして、研究にストップをかけられる可能性が出てきます。
アメリカの大学の研究の多くは産業と結びついていて、教授がベンチャー
企業を経営してたりするので、ここで研究を止められるとお金になりません。

athe (4)

では、この脳オルガノイドは意識を持っていないんでしょうか。
これがたいへんに難しい部分で、まず「意識とはなにか」という定義が
はっきりしていません。脳波がこうなれば意識を持っている、脳内の血流が
このように流れれば意識がある、などという定量的な測定ができないんです。

もう一つの問題は、脳波パターンが早産児のものに似ているのが
事実だとしても、人間の子どもが、どの時点で意識を持つのかについては
大きな論争があるからです。人間の赤ちゃんが産まれた時点では
まだ意識は持たない、とするのが現在の主流の説です。

脳波パターンから、意識が発生するのは生後5ヶ月ころからではないか
とする意見もあります。さらに、これと同様の研究は米オハイオ州立大学など
他の大学でも行われましたが、そのすべてで、脳オルガノイドの発達が
約9~10か月で止まってしまっているんですね。

脳オルガノイドの電気信号
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脳はおそらく、単体では成長を持続することができないんだと思います。
人間の脳は、神経によって各種の感覚器や運動器とつながっています。
赤ちゃんは人の顔をじっと凝視しますよね。また物を持たせると
握りしめます。物を見る、音を聞く、皮膚感覚、指を動かす、
これらのことと同期して、脳の神経系が発達していくんでしょう。

脳の発達の初期段階は、遺伝子にインプットされています。ですから、
ある程度のところまでは自動的に成長していくはずですが、
やはり感覚器などとつながれていなければ、すぐに限界がくると思われます。
脳は人体の重要臓器ですが、脳が主、その他の部位が従ということではなく、
人間の体は、すべての部位がそろっていることで成り立っているわけです。

研究チームは、脳や神経系の疾患に対する治療法を開発する過程で、  
培養された脳を治験に用いることで、人体実験によらず、
薬剤の副作用などを調べることを意図してるんだと思いますが、
でもそれ、いつになったらできますかねえ。

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さて、ここで少し話を変えて、前にも記事でふれていますが、
人工知能に意識を持たせようという研究も盛んですよね。
ただこちらも、現状では道のりはかなり遠そうです。これまで、
そういった工学的なアプローチと、脳科学からのアプローチの間で、
交流はほとんどありませんでした。

ですから、「意識とは何か」という定義についても、てんでんバラバラな
理解のままで研究が進められてきています。倫理的な問題も含め、
さまざまな分野の研究者が集まって意識の研究に取り組む
機関があってもよさそうですが、宇宙論などと違って、
研究の目的がみな違うでしょうから、難しいかもしれません。

さてさて、ということで、自分は培養脳が意識を持つ、あるいは
AIが意識を持つ、どちらも数十年、下手すれば百年はかかるんじゃないか
と思っています。しかも、人工的に意識をつくりあげることが、
人類にとって役立つかどうかもよくわからないんですよね。
では、今回はこのへんで。

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