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棟梁から聞いた話

2019.09.08 (Sun)
自分(bigbossman)は大阪のあるホテルのバーにたまに行くんですが、
そこで千田さんという元大工さんと知り合いました。
年齢は70歳を少し超えたくらいだと思います。工務店をやっておられた
んですが、そちらのほうは息子さんに代替わりして、現在は悠々自適の
生活です。で、千田さん、そのバーでは常連から「棟梁」って呼ばれて
るんですね。名刺を出すと社長と言われてしまうんですが、それが嫌で、
自分から「千田でいいんだけど、社長よりかは棟梁のほうがいいな」
こうリクエストされて、それで呼ばれてるんです。
まあ、昔かたぎの人だってことです。先週の金曜日、試写会に行った帰り、
そのバーに寄ったら棟梁がいて、そこであれこれ話をお聞きしたんです。
ちなみに、棟梁はいつもスコッチのシングルモルトを飲んでるんです。

「それで、家を建てる上で何か怖い話ってありますか」と自分。
「怖い話・・・そうだなあ、ないこともない」 「どんな?」
「家を建てるときには、昔から言われてる決まり事がいくつかあるんだ」
「はああ、鬼門とかですか」 「いや、たしかに昔は、鬼門なんかを気にする
 人は多かった。けど、今はそんなことは言ってられないだろ。
 特に都会だと、ぽっと空いてる土地があって、そこを買って家を建てる。
 だから最初っから制限があるんだ」 「ああ、そうですよね。当然、
 道路に面したほうを玄関にしなくちゃいけないし、家の向きは
 どうしようもないか」 「まあそうだ。でもよ、地図見てみればわかるが、
 鬼門にあたる北東に玄関がある家ってのはそんなに多くはない。
 日当たりなんかの関係で、道がまずそうなってる」

「ははあ、それは知りませんでした。他には何か?」 「そうだなあ、
 細かい決まり事はいろいろあるよ」 「例えば?」 「2階の窓な、
 あれって壁に直付けはあんまりよくないんだ。意味がわからんか、
 窓の下には、ちょっとでもいいから屋根があったほうがいい」
「え、それ、どうしてです?」 「これは俺の親父から聞いたんだが、
 2階の窓ってのは、悪い物が入って来やすいんだ。だが、どういうわけか、
 庇みたいなのでも屋根があれば、たやすく入ってこれなくなる」
「うーん、でも、マンションとかは窓に屋根ないですよね」
「けども、そのかわりにベランダがあるだろ」 「ああ」 「アパートはな、
 ベランダなんかついてないから、じつはあんまりよくない」 
「他には?」 「そうだな、家の裏口ってあるだろ、あれな

 塀を回した家の場合、玄関から裏口まで行き来できないと具合が悪い」
「どうしてです?」 「これは俺もよくわからんのだが、昔から言われてる」
「塀がなければ関係ないんですか?」 「そうだ」
「あ、そういえば、自分の実家もそうです。塀の内側を通って
 玄関から裏口まで行けます。けど、これって設計段階のことですよね」
「建築士はみな知ってるよ。それに、うちは設計から全部やってたから」
「なるほど。実際にご自分で体験されたことってありますか」
「ああ、ないことはない」 「ぜひ」 「あれは昭和40年代だな、
 当時俺は大工になったばかりでね、他の棟梁のとこに修行に行ってた」
「で?」 「当時の修行は厳しかったぞ、ヘマをすると鉋の角で殴られたから」
「まさに修行ですね」 「でな、あるとき、神社の解体・移築の現場に行った」

「へえ、神社って宮大工がやるんじゃないんですか」 「それは有名な大きな
 神社の話で、そこらの町に専業の宮大工なんていねえよ」 「で?」
「そこの神社は明治になってから建てられたもんで、そう古いわけじゃない。
 まだ木材も十分使えるから、バラして少し離れた場所にそのまま移す」
「ははあ、神社建築って釘を使わないって聞きますが」
「いや、それは江戸時代とかそれ以前の話で、理由は2つある。      
 一つは神様が金気を嫌うってことだが、それは表向きのもんで、
 昔は鉄が貴重だったからだよ」 「ははあ、初めて知りました」
「でな、その神社は小さく、本殿と拝殿がかねられてて、解体は1日で終わった」
「どうして移築したんですか、それと神社の御祭神は?」 
「移築の理由はよくわからん。氏子の代表になってる元町長は、

 裏手の山が土砂崩れを起こしそうで危険だからと言ってたが、
 俺にはそう見えなかった。あと神社は、どこにでもある神明社だよ」 
「ああ、天照大神ですね。すみません、何度も話の腰を折って。続けてください」 
「屋根は檜皮葺で、これだけは移築できんから新しくするしかない。
 で、その屋根の葺地の中から妙なものが出てきたんだ」 「何でした?」
「縦3尺、横2尺くらいの金属板を2枚重ねて何かをはさみ、鎖でぐるぐる巻きに
 されてた。すごい重さで、職人2人じゃ持てなかった。後でわかったんだが、
 その金属板は鉛製だったんだよ」 「中には何が?」
「まあそう先を急ぐな。氏子や神職に聞いたら、それはこっちで処分してほしいって
 ことだったんで、トラックに積んでな。で、解体後に儀式をやるだろ。
 俺は神社のことはよくわからんが、祝詞とかあげるやつ」

「ああはい」 「その最中、神主が祝詞を読むのをつっかえたんだよ。
 これがやっちゃいけないことなのはわかるよな」 「はい、そのために
 必ず紙に書いたのを読み上げます」 「そしたら、脇に控えてた元町長が
 突然、前のめりに倒れた。地べたに手をついてえずき、そのまま頭を
 草の上に落としたんだが、みるみるうちに血が広がってな」
「吐血したってことですか」 「そうだ。神事は中断して、救急車が呼ばれたが
 元町長はピクリとも動かず白目を剥いてたから、素人目にもこれはダメだって
 わかったよ。結局、動脈瘤破裂ってことで、その日のうちに病院で死んだ。
 あと、祝詞を上げてた神主も具合が悪そうだったな」 「で?」
「ひとまず会社に戻って、ほらさっき言った鉛板な、みなで鎖を切って
 開けてみたんだ。何が入ってたと思う」 「いや、わからないです」

「写真額だよ。白黒でガラスは入ってなかった」 「何の写真でしたか」
「それがな、結婚式の記念写真だった。新郎が軍服を着てて、歳はまだ若いが
 将校だと思った。で、新婦が花嫁姿」 「それ、もしかしてムカサリって
 やつでしょうか。死後に結婚式をあげる」 「ムカサリというのはよく
 知らんけど、実際の結婚式の写真だよ。おそらくは新郎に召集がかかって、
 出征する直前に式をあげたんだと思った」 「ははあ」
「ただな、不気味なのは、写真の花嫁の顔が、何か尖ったものでこそげたように
 削り落とされてたってことだ」 「うわあ」 「鉛板をもとに戻し、とりあえずは
 会社の倉庫に保管しといたんだが、その写真、祟ったんだよ」
「どんなふうに?」 「まずは、倉庫番のやつが全身に湿疹ができ、高熱が出た。
 市の大きい病院に入院して命はとりとめたけどな」

「で?」 「あと、当日解体に行った大工連中も、多かれ少なかれ
 体にできものができたんだよ」 「棟梁も?」 「ああ、頭の髪の中に
 水ぶくれができて、治るまで半年近くかかった。それだけじゃない、
 その神社のな、氏子の主だった者が次々死に始めたんだよ、みな病死」 「う」
「まあ、その人らは高齢ではあったが、3ヶ月で4人は尋常じゃねえだろう。
 入院とかしてたわけじゃないんだから」 「その写真はどうなったんですか?」
「大工連中はみな触るのを嫌がったが、移築した神社の屋根の中にもとのとおりに
 入れといたんだ。そのときの神事には、奈良にある有名な神社の宮司が来た。
 おそらく氏子たちが頼んだもんだろうが、何事もなく終わったんだよ。
 それで、大工たちにできものができるのも、氏子たちが死ぬのも
 収まった」 「いや、怖い話ですね。その神社に写真額を

 封印してたってことだと思いますけど、被写体の新婚夫婦で何かわかることが
 あったんですか」 「・・・それから10年くらいたって、ある人から
 話を聞いた。その新郎のほうは元町長の次男で、海軍兵学校を
 卒業してすぐ許嫁と結婚し、1ヶ月もたたずに出征。それで、
 昭和20年の初めに戦死公報が入ったんだ。乗艦中に沈没させられたという話で、
 当然、遺骨も遺品もなし。で、遺された花嫁のほうは、その後の空襲のときに
 家から避難せず、仏壇に向かったまま焼死したらしいんだ。これは噂だが、
 姑に、息子の後を追わないことを責められていたらしい」 「うう」
「でな、終戦になって、死んだはずの新郎が復員してきたんだよ。
 戦死の報は手違いだったらしい」 「ええ、そんな!」 「けども、その息子も、
 せっかく生きて帰ってきたのに、しばらくして山中で首を吊ったんだよ」

怪奇ロマン『君待てども』
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