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反骨の人とノーベル賞

2019.09.27 (Fri)
星を活発に生み出す銀河の発見により、現在の理論を見直す必要が出てきた。
銀河内で星が生み出されていく、すなわち銀河が進化していく様子を
調べるために、銀河が発する可視光線や赤外線を観測することがある。
しかし、初期の宇宙で生まれた銀河は、可視光線や赤外線を吸収するちり
(炭素などからなる小さな粒)を大量に含んでおり、

可視光線や赤外線が地球には届かない。そのため、これまでの観測では
発見できていない銀河が存在すると考えられていた。
東京大学のタオ博士らは、ちりに吸収されない性質をもつ「サブミリ波」
とよばれる光(電波)を観測することによって、初期の宇宙に生まれた
銀河を39個検出することに成功した。

そして、これらの銀河はいずれも110億年以上前に生まれ、
初期の宇宙に生まれたものにしては非常に大きく、かつ活発に星を
生み出していることがわかった。宇宙や銀河の進化を説明する
現在の標準理論では、活発に星を生み出す巨大銀河は、初期の宇宙には
これほど存在しないと考えられていた。
(Nature日本語版)

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今回はこういうお題でいきたいと思います。冒頭の記事は長く引用しましたが、
じつはあまり関係のない内容です。ここで取り上げる人物は、
フレッド・ホイル卿。イギリス人で、卿がつくのは、
英王室からナイトの叙勲を受けているためです。

さて、フレッド・ホイルというと、何を思い浮かべられるでしょうか。
まず「定常宇宙論 steady state cosmology」がくるんじゃないかと思います。
現在の宇宙論の主流は「ビッグバン宇宙論」と呼ばれることが多く、
この big bang という語をつくり出したのがフレッド・ホイルですが、
彼はビッグバン理論とは正反対の立場に立つ人物でした。

フレッド・ホイル
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ビッグバン理論成立の経緯は、これまでにも当ブログで書いてきましたし、
ご存知の方は多いと思います。アインシュタインが一般相対性理論を
発表したのが1915年。このとき、アインシュタインの宇宙方程式には
宇宙が膨張(あるいは収縮)する解が存在していました。

ですが、アインシュタイン自身は、そんなことがあるとはまったく考えず、
自分の式に「宇宙項」というのを加えました。これは、
宇宙を定常状態に保つための数式上のトリックと言っていいもので、
確かな根拠があったわけではありません。後年、アインシュタインは、
「宇宙項を式に加えたのは生涯最大の過ちだった」と述べます。

ノーベル賞のメダル
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1929年、天文学者のエドウィン・ハッブルが、当時最大の望遠鏡を
用いて、遠くの銀河がかなりのスピードで後退していることに
気づきます。「宇宙膨張」の発見ですね。これは観測事実であり、
誰が観測しても同じで、否定のしようがないものです。
余談ですが、科学者には実験・観測屋と理論屋がいます。

どちらがノーベル賞を取りやすいかは難しいところですが、理論については、
いくら整合性が高くても、実際に証拠が発見されなければ受賞することは
ありません。かのホーキング博士がノーベル賞を取れなかったのも
このためです。日本のノーベル賞第一号である湯川秀樹博士は
理論物理学者で、中間子の存在を理論的に予言したのが1935年。

ピーター・ヒッグス
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それが1947年になって、宇宙線の中からパイ中間子が発見されて
理論の正しさが証明され、1949年の受賞につながります。
以前、話題になったヒッグス粒子などは、論文が書かれたのが
1964年。それが長い年月を経て加速器によって発見され、
ヒッグス氏がノーベル賞受賞したのが2013年です。

なんと50年もかかってるんですね。これに対し、実験観測については、
画期的なものならば、すぐに受賞の対象になります。近年の
重力波観測がそうでしたし、日本の小柴昌俊氏のニュートリノ観測も
同じ。物理学ではありませんが、山中伸弥氏のiPS細胞もそうです。

ジョージ・ガモフ
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さて、宇宙膨張の発見を受けて、現在膨張しているのだから、
時間を遡っていくと、宇宙はどんどん小さくなって最後には極小の一点に
いきつくと考えたのが、神父でもあったジョルジュ・ルメートル。
ビッグバン理論というと、創始者としてジョージ・ガモフの名前が
有名ですが、最近、ルメートルの再評価の機運が高まっています。

ですが、ビッグバン理論は完全に正しさが証明されたものではありません。
それでガモフはノーベル賞をもらえてないんですね。このビッグバン理論に
対し、まっこうから意を唱えたのがフレッド・ホイルです。彼は反骨の人
というか、定説に対しては何でも反対することで知られていました。
調べてみればわかりますが、一つや二つじゃなく本当に「何でも」です。

ホイルが対抗案として出してきたのが定常宇宙論。宇宙の膨張は
観測事実として認めますが、宇宙の時空は基本的に今のままで
昔からあったとする仮説です。でも、宇宙が膨張してるんだから、
そのうちに物質密度がスカスカになってしまいますよね。そこで、
定常宇宙論では、新たな物質が絶えず生成されていると説きます。

ビッグバン宇宙論と定常宇宙論
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無から物質が生じるわけですから、質量保存の法則に反しているんですが、
生まれてくる物質は、せいぜい1年間に1立方kmあたり水素原子1個程度で、
荒唐無稽というほどでもありません。むしろ、宇宙は温度・圧力無限大の
特異点から始まったとするビッグバン理論のほうがありえないとも言う
ことができ、ホイルはラジオ番組で「big bang idea(大ボラ)」と揶揄します。

それが理論の名前になってしまったんですが、ガモフなどは気に入っていた
ようです。1950年代ころまでは定常宇宙論にも一定の支持者がいましたが、
1964年、「宇宙背景放射」が発見されてビッグバンの大きな証拠とみなされ、
一気に形勢が傾きます。現在の定常宇宙論では、宇宙背景放射は大昔の恒星から
放出された光が、銀河内の塵によって散乱されたものであると説明しています。

さて、フレッド・ホイルはマジで天才的な理論家でした。最大の業績としては、
宇宙の初期には中性水素しかなかったのが、ヘリウム他の重い元素は
恒星内部の原子核反応で作られたとする「元素合成」のアイデアを
最初に提唱したことでしょう。これは事実と認められ、1983年の
ノーベル賞につながりますが、受賞したのはホイルの共同研究者だけで、

元素合成
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ホイル自身は除外されました。これについては、不当だとする大きな議論が
起きています。なぜホイルが選ばれなかったのか、いろいろ言われてますが、
パルサーの発見に対して贈られた1974年のノーベル賞の人選を
ホイルは強く批判していて、それがスウェーデン王立科学アカデミーの
選考委員会の心証を害した可能性も取り沙汰されていますね。

さてさて、フレッド・ホイルはSF作品も書いていて、代表作は1966年の
『10月1日では遅すぎる』でしょう。専業作家ではないのでドラマ性は
イマイチですが、「意識は時空を超越する」というアイデアは、
50年以上前の作品ということを考えれば画期的です。彼は意識と時間に
ついて、作中でじつに深遠な考察を展開しています。では、このへんで。

dfgrt (8)



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