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偉い木像の話

2019.10.02 (Wed)
あ、今晩は、また来てしまいました。引退した骨董屋です。
つい最近、新しい話があったのでご報告をしようと思いまして。
私が昔、少し世話をしたことのある後輩の骨董屋から話が持ち込まれて
きました。「この間、ちょっと変わった木像を買い取ったんですが、
 値打ちがよくわからない。それと、なんだか不気味なところもある。
 先輩がそういったことに詳しいのはよく知ってるので、
 鑑定してもらえないか」こういうことだったので、
二つ返事で引き受けました。まあ、その後輩もね、なかなかの目利き
なんですよ。簡単にまがい物、いわくつきの物をつかまされるような
人間じゃない。それが、よくわからないって言うんだから
興味を持ちましてね。2日後、私の家に後輩がやってきました。

ケースから出したのは、20cmに満たないような小さな木彫りの像。
もっと大きいものだと思ってたので、ちよっと意外でした。
仏像・・・のようでもありますが、何の仏なのかわからない。
彫刻刀で木目が浮き出るように、正座姿が荒々しく彫られていて、
像の頭は髪の毛が火炎のように盛り上がり、顔は憤怒の形相。
でも、不動明王にしてはちょっとおかしい。木の黒ずみ具合などから、
古いものであることはわかりました。おそらく江戸中期以前。
まあ、私に鑑定できるのはそのくらいでしたので、後輩に、
その像が手に入ったいきさつを聞いてみました。1週間ばかり前、
70歳を過ぎた老人が店に売りに来たということです。
自分は分家だが、その像は本家で長く家宝にしていたもので、

宮本武蔵が彫ったという伝えがあると言っていたそうです。
さすがにまさかと思いますよね。宮本武蔵は江戸初期の剣術家ですが、
画家、細工師としての顔も持っています。ただ、その生涯は伝説に
いろどられていて、どこまでが史実なのかはっきりしません。
生まれた土地がどこなのかもよくわからないんです。
たしかに、武蔵作の水墨画や馬の鞍などがありますが、
木彫で明らかな武蔵の作品というのは残ってないんです。
ですから、比較のしようもありません。「その爺さんはどう言ってたの?」
重ねて後輩に聞くと、「爺さんの本家は九州の田舎の名主を務めた
 古い家柄だったが、その家に宮本武蔵が泊まったときに、礼として
 残していったものという話でした。それから長く家宝として

 大切にしていた。でもね、その本家、昭和の初期に絶えてしまったと
 言うんです。地震のときに山津波が起きて屋敷がのみ込まれ、
 使用人ともども全滅した。どうしようもないので屋敷は掘り返さず、
 遺体のない状態で葬式を出した。でね、屋敷の瓦屋根の上部だけが
 かろうじて土から出ていて、その突端に、普段は床の間に飾っていたはずの
 この像が、ちょこんと乗っかってたのが見つかったということでした」
「妙な話だねえ、まさか像が一人で逃げ出したってわけでもないだろうが」
「それでね、分家筋の代表だった爺さんが譲り受けたんですが、
 もう爺さん、齢で長くはないだろうから、価値のわかる人に
 保管してほしいってことで、店に持ってきたみたいなんです」
「うーん、お前さんはこの像、どう思うんだ」 「宮本武蔵はさすがに

 眉唾でしょうけど、力を感じさせる彫りで、名品と言っていいと思います。    
 ただね、見つめていると、なんというか背筋がぞくぞくする感じが
 するんですよ。それで、こういうことにお詳しい先輩に見ていただこうと
 思って」 「話はまあわかった。どのくらいのことが鑑定できるか
 何とも言えんが、調べてはみるよ」ということで、その像を預かりました。
私は引退してもう店はないので、2階の仏間の箪笥の上にあげておいたんです。
それから、奇妙な出来事が連続して起こりました。像が来て2日後ですね。
ほら、私は家内を早くに亡くしてるでしょう。毎朝、仏壇にお線香と
お水をあげにいくんです。そのとき、箪笥の上の像を見たら、
その前に何か小さい黒いものがある。「え?」と思ってみると、
それが動いたんです。全体が墨の色でしたが、昔の装束、

衣冠束帯をつけた5cmくらいの人物だったんです。烏帽子も被ってました。
その小さい人物は、像に向かって平伏し、何度もお辞儀をくり返してましたが、
それが終わると、ふわっと浮かんで空中を泳ぎ、部屋の窓に向かっていきました。
窓は閉めてたんですが、カーテンはしてなかったです。
で、ガラスにあたったと見る間に、すっと通り抜けて空に消えてったんです。
いや、不思議でしたけど、怖いとは思わなかったです。
そのくらいの経験なら何度もしてますからね。むしろ、これからどうなるのか、
興味津々でした。でね、翌朝も似たようなことが起きたんです。
ただ、像の前に平伏してる人数が増えてました。5人はいたと思います。
やはり真っ黒な影の人物が並んで正座し、頭を擦りつけるような深いお辞儀を
何度もしてから、窓に向かって飛び立って消える。

どういうことなのかはさっぱりわかりませんでしたが、「ああ、この像は
 偉いんだな」とは思いました。それから、日に日に小さい人の
 人数が増えていき、最終的には20人ほどになりました。
で、お辞儀が終わると全員が立ち上がり「わーっ」と ときの声のようなのを
あげてから消えたんです。それでいったんは収まったんですが、
また3日くらいして、やはり朝、仏間に行くと、今度は像の前に蛇がいたんです。
といっても本物じゃなくて、おもちゃの蛇です。ほら、昔の玩具で
竹を短く切ったのをつないで、カクカク曲がるようにした蛇って
あるじゃないですか。あれがトグロを巻いてました。でね、やっぱり
像に向かって何度も頭を下げてたんです。私が一歩そちらに近づくと、
蛇はふり向いてこちらを見、箪笥の下に落ちて部屋の隅に向かって消えたんです。

うーん、よくわからないですが、黒い小人や竹蛇は、像に何かをお願いしに
来てるんじゃないかと思いました。でも、像そのものはそれほど悪いものだとは
感じなかったんですが・・・ また3日ほどたって、その日、像の前にいたのは
不気味なものでした。高さ10cmくらいの寒天です。四角くてぐにゃぐにゃした。
しかも色がどす赤い血の色で、よく見ると寒天の内部に目玉が一つ
浮かんでたんです。「うわ、気味が悪い」と思いました。そのとき、
頭の中に声が響いてきたんです。「何とぞ何とぞお願いいたす。つきましては、
 チロを贄として差し上げ申そう」おそらく赤い寒天の言葉です。
そして寒天はゴムのような体を2つに折り曲げるようにしてお辞儀をし、
どろっと溶けたんです。走って近寄ってみましたが、液体などはこぼれて
ませんでした。寒天が言ったことの意味は、このときはわからなかったんですが・・・

翌日、隣家の奥さんとたまたま玄関先でお会いしたとき、ひどく憔悴してたので
理由を聞くと、飼っていた室内犬のチワワが昨晩急に亡くなったということでした。
まだ4歳で寿命ではないし、病気でもなかったのに、姿が見えなくなって
さがしたら、カーテンの陰で内蔵を吐き出して死んでいた。
そのときに聞いた犬の名前が「チロ」。あっと思いました。
昨日、贄と言ってたのはこのことだったのか。犬とはいえ、そうやって
簡単に死なせてしまうのはただごとではないですよね。ですから、
その像は悪いものだと判断しました。後輩を呼んであったことを話し、
像は、私が懇意にしているお祓い専門の神社でお焚き上げしてもらうことに
したんです。そこでもね、像は燃やされるのにかなり抵抗したようですが、
詳しいことは聞いてないです。まあ、こんな話ですよ。

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