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天井裏の蛙の話

2019.10.14 (Mon)
こんばんは。岸川淳一と申します、よろしくお願いします。
私、今年の4月から町内会の会長を務めることになりまして。
2年続けて務めた前の会長さんが引退するにあたって、内々に打診されて
いたんです。考えましたが、お引き受けさせていただくことにしました。
私は3年前、中学校の教員を校長で退職しまして、現在は
単位制高校の講師をさせていただいてますが、週3日、1日6時間の
勤務ですので、時間の余裕はあります。そのことはご近所さんも
ご存知なので、私のところに大役のお鉢が回ってきたんでしょう。
前役の方々のお力添えで春の総会をなんとか無難にこなしまして、
まだ1年目の途中なんですが、なかなかやりがいのある仕事だと
思っております。最初にお話をいただいたときには、

回覧板を回す程度のことだろうと考えていたんですが、
やることはさまざまにありますし、町内のみなさんのお役に立てることが
うれしいと感じるようになりました。私が会長を務める町内は、
〇〇市みどり谷1丁目と申しまして、名前を聞いておわかりのように
新興住宅地です。といっても、できてからもう40年になりますので、
最初期に入ってこられた方々は私よりも上の年代です。私のように
教員などの公務員、団体役員などの方が多く、問題の少ないところなんです。
それで、せっかく会長になったんだから、新事業を企画しようと思いまして。
考えついたのが、この町内にはなかった老人会のようなものです。
月に1、2度、公民館に集まって会費制でお茶会を開く。
まず、そのあたりから始めようと思いました。

会費は500円程度で、そのくらいなら気軽に参加できますよね。
で、ゆくゆくは地域の小学校との交流会や、講師の先生に来ていただいて、
ストレッチングなど、堅苦しくない講演会なども開こうと考えていたんです。
それで、この趣旨を説明しに、ある日曜日の午後、65歳以上の方がおられる
家々を、副会長の一人の木村さんとともに回らせていただいたんですが・・・
はい、町内の世帯数は約300、そのうち該当するのが180ほどでしたので、
不在のお宅にはチラシを入れておくだけにしても1日では終わりません。
50軒ほどを回ったところで日が暮れてきました。ここで今日は終わりにしよう、
そう思って入ったのが、浜村さんというお宅です。そこは70歳を
過ぎたおばあさんが一人暮らししてるんです。それもなんとも気の毒な事情で。
浜村さんは長男ご夫妻と一緒に住んでおられて、長男の方は50歳過ぎでした。

仕事は市のJAの役員。お孫さんたちはもう独立されています。
それが半年ほど前、長男ご夫妻が事故に遭われたんです。遠くの市に就職した
お孫さんを訪ねようと朝早くに車で家を出、高速道路で居眠り運転の
長距離トラックと衝突しまして、お二人とも即死でした。
はい、そのときの葬儀には私も参列いたしました。浜村さんは茫然自失と
いった様子で、励ましの言葉もかけられませんでしたよ。
それから、明るい方だったのに、家に引きこもるようになりまして。
たまに買い物に出たところをご挨拶しても うなずく程度で、元気がなく
ずっと心配だったんです。お宅の前にくると、玄関先の観葉植物の
鉢がみなしおれていました。呼び鈴を押しても返事がなく、木村さんと
目配せして表戸を開け、「浜村さ~ん、おられますか」

大声で呼びかけました。在宅しているはずだと思ったんです。何度か
声をかけると、ややあって、「は~い」という小さな返事が聞こえ、
玄関に面した階段を一足ずつ、おぼつかない足取りで浜村さんが下りてきました。
「あ、やっぱりおられたんですね。お元気でしたか」私が努めて明るい声で
そう言っても、浜村さんは無表情のままででした。玄関先でチラシを渡し、
会の趣旨を説明したんですが、浜村さんはその間、何度も後ろの
1階の廊下をふり返ってました。で、私たちが説明を終えたときに、
こんなことを言われたんです。「あのな、1階の天井裏に動物が入り込んで、
 うるさくてな。夜じゅう音がするんで、足が悪いのに2階で寝とるんだよ。
 会長さん、すまんがちょっと見てもらえんか」って。
「ははあ、猫か何かですかね」まあ、その程度のことならと思い、

木村さんとともに上がらせていただきました。浜村さんの家は団地の
初期に建てられたもので、それなりに古く、廊下を歩くときしみ音がしました。
台所には洗ってない皿などが山積みで、そこを抜けてリビングに入ると、
浜村さんは天井を指差し、「ここが一番うるさい」そう言ったんです。
「いつからですか」と尋ねると、「息子らが死んでからすぐだなあ」
そのときに少し変だなあと思いました。事故は半年も前で、もし小動物や
鳥が入り込んだとしても、そんな長く生きてはいられませんよね。
実際、耳を澄ましても、そのときは何の音もしなかったんです。
精神的なものか、と思いましたが、そう言うわけにもいかず、
「どっか、天井裏に入れるとこはありますか」って聞いたんです。
そしたら、居間の隣の寝室の押し入れの天袋から入れるという話で。

懐中電灯があるか聞くと、大型のを持ってこられました。
押し入れを開け、布団の入ってない上段の隅の天袋の板をモップの柄で押すと、
フカフカと動いて外れそうでした。木村さんは私よりも若いんですが、
私は体育教師だったので体が効くと思い、押し入れに上がり板をずらすと、
パラパラと埃が落ちてきました。頭を突っ込んで懐中電灯で照らしても、
埃だらけ、クモの巣だらけで、生き物がいた様子はなかったんです。
もし鳥とかが入ったのなら跡がつくし、死んでるなら臭いとかもするはずでしょう。
「何もいませんよ」と言いながら反対側を向いて照らすと、
手が届くところにダンボール箱があったんです。文字を見るとパソコンの箱です。
古いもので、現在のよりも箱がかなり大きい。片手を伸ばして引き寄せようと
したら、中で「ゴロゴロッ」という音がしました。

そうですね、猫が喉を鳴らす音にも思えましたので、中に生き物がいる? と考え、
引っぱると重い。それに、大きさが天袋の穴ギリギリですぐには下に下ろせそうにない。
ここで開けてみようと片手でどうにか上の紙ブタをはね上げると、「わあっ!」
懐中電灯の光の中に赤黒いぶつぶつが無数に見えたんです。なんだこれは?
「ゴゴゴッ」そのものはくぐもった音を出し、箱の縁に手のようなものをかけ、
ぐるっと半分向きを変えたんです。蛙だと思いました。水かきのある手を持った
40cmほどの蛙。食用蛙だったら そのくらいの大きさになるのかもしれませんが、
さらに、動いて向きを変えたその顔が・・・白いお面をつけてたんです。私には
よくわかりませんが、能などで使用するお姫様の面じゃないかと。「ああああ」
私は天井板に片手をかけたまま、押し入れの上段に尻餅をつき、
べリッと板が剥がれて、段ボール箱ごと落ちてきたんです。

私は押し入れから床に転げ落ち、「蛙が!?」そう言って箱を指差しました。
でも、箱のフタは開いた状態で、中には何か紙切れのようなものが一枚。
木村さんが拾い上げると、それは裏向きになった写真で、黄ばんでいて
古いものでした。おそらく、事故で亡くなった浜村さんの息子さん夫婦の
結婚式のときので、ケーキ入刀の場面が写ってました。・・・その後、
木村さんが押入れに上がって見ても、面をつけた蛙なんていなかったんです。
私が幻覚を見たんだろう、そう考えるしかありませんでした。
押し入れを壊してしまったことを詫び、こちらで修繕は手配するからと
申し出てその場を後にしたんですが、浜村さんはすぐに2階に上がって
しまわれました。それから3日後、修繕に入った工務店の人が、
寝室で首を吊って亡くなっている浜村さんを発見したんです。

死後3日くらい、私たちがおいとました直後に自死されたんだろうという
ことを警察から聞きました。・・・まあ、これで話はだいたい終わり・・・
終わりだといいんですが。つい先日、こんなことがあったんです。
私もじつは息子夫婦と住んでいて、2人とも教員の共働きです。孫は5歳の
男の子が一人、幼稚園に行ってて、私が迎えに行くこともあるんですが、
その子がこんなことを言ったんです。「おじいちゃん、お面をかぶった蛙っている?
 大きい蛙」って。浜村さんのお宅での話は誰にもしてません。
変に思われますからね。「○○は見たのか?」って聞いても、「ふふ」と笑って、
それ以上は答えませんでした。それから、昨日の夜です。
その孫が母親に、「お母さんたちの結婚式の写真ある? 見たいな」って
言ってたんです。これってどういうことでしょうか。まさか・・・





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