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ある老人の家の話

2019.11.26 (Tue)
高校生 山根洋司さんの話
うちの家はけっこう古い住宅街にあるんです、たぶん明治とか、
もっと前からの。もちろん家は建て替えられてるんですけど。
中学校の社会の時間に少し勉強したんですが、うちの町内はもと
馬喰町といって、江戸時代には、牛や馬の仲買商人や下級武士が
住んでたみたいですね。で、それほど広くはない町内なのに、
神社が4つもあるんです。一つはけっこう大きい〇〇神社で、
夏のお祭りにはお神輿もかつぎますし、そのときは夜店も出ます。
あとの3つは小さいですね。その〇〇神社からの道が一番広くて、
1kmほど進むと川に突きあたって行き止まりになります。
はい、どこにも続いてない道なんです。それで、川の手前にあるのが
今問題になってる家なんですよ。

正田さんという家です。建物は古いですが、かなり大きい二階家。
つい1ヶ月前まで、正田孝蔵さんというおじいさんが一人暮らし
してました。正田さんは、うちの父から聞いたところでは、
先祖が代々、この地域の庄屋を務めていた家柄だそうで、
正田さん自身も、若い頃は市役所で助役までやったということです。
あ、はい、正田さんとは何度か会ったことがありますよ。
さっき話をした〇〇神社の氏子総代で、お祭りのときには
世話役をやってるんです。いつも和服で、体の小さいおじいさんです。
にこにこして、優しそうな人だったんですが。
ただ、町内の子どもはみんな、正田さんの家には近づくなって
小さい頃から言われてたんですよ。理由はわかりません。

わかりませんが、そのあたり、すごく雰囲気が嫌なんですよね。
川の土手に正田さんの家がぽつんと立ってるだけで、まわにには
ススキとかがぼうぼうに生えてる。で、あっちこっちにいつも蚊柱が
立ってるんです。やはり後ろが川のせいで、湿気とかがあるんでしょうね。
え、近づくなって言われてるのに何で家の様子がわかるのかって?
それはほら、さっきお神輿をかつぐって言ったじゃないですか。
僕も小学生のときから参加してたけど、神主さんを先頭に通りを
進んできたお神輿は、正田さんの家が見えるあたりまでくると止まって、
神主さんが家に向かって長々と・・・お経じゃなくて祝詞?
を唱えるんです。それからくるりと向きを変えて引き返し、
別の通りに入ってく。はい、なんか、まるで正田さんの家のために

お祭りをやってるみたいなんですよ。それで、1ヶ月前に正田さんが
亡くなったって言いましたよね。これは父から聞いたのと、
あと街の噂なんですが、正田さんの家の前には立派な木の門があるんです。
その門は閉じられたまま、正田さんは門の外の道に出て、
両手を広げた形で倒れてたのが、朝になって発見されたんだそうです。
頭は門のほうを向いてたってことですから、まるで何かに通せんぼを
するような形ですよね。それで、倒れてる正田さんの体には、
びっしりと大きなヤブ蚊がたかってたっていう。で、それからは、
毎日のように〇〇神社の氏子会議があるんです。うちの父も、
氏子代表の一人ですから、毎晩その会議に出ていって、暗い顔をして
帰ってきます。困った困った、あの家に住む後継者が決まらないって。

運送会社勤務 遠山実さんの話
あ、どうも、正田さんの家の話をすればいいんですよね。あそこの家の
ある地区、私が配達の担当になってるんです。いや、最初にそれ聞いた
ときは嫌でしたよ。私はそこの市の出身で、子どものころから、
あの家には近づいてはいけないって言われてましたから。
けどまあ、仕事だからしかたないです。それでね、正田さんのとこ、
宅配がすごく多かったんです。そうですね、週に少ないときで2回、
多ければ毎日、荷物が届いてたんです。えっと、これは本当は
顧客情報なんで業務上の秘密なんですけど、そのれらの荷物、
送り主が全国の神社だったんです。有名なとこもあったし、
聞いたことのないのもありましたが、とにかく全部神社。
箱はどれも小さいし、すごく軽いんです。

え、中身は何かって? ここまで話したんだから言っちゃいますけど、
御札だと思います。いやもちろん、玄関先だけですけど、
配達だから家の中には入ったことがありますよ。あの家の立派な
門にインターホンがついてて、それ押して要件を言うと、
「どうぞ」って言われて自動で開きます。見た目と違ってハイテク
なんです。扉自体も頑丈な鉄だし。で、一歩庭に入ると、
背筋がぞくぞくします。何ていうんですかねえ、瘴気とでも表現すれば
いいのか。空気が澱んでて、夏の盛りでもひやっとします。
で、玄関を開けて正田さんが待っておられるんです。
正田さん自身は、まあ普通のお年寄りです。いつもにこにこしてるし、
言葉の端々に育ちのよさみたいなものが感じられる。

それで家の中ですが、玄関ホールしか見たことないけど、
壁という壁、床、天井にびっしり、神社の御札が貼ってあるんです。
大きさや形が少しずつ違うやつが。だからね、さっき宅配の中身が
御札じゃないかって言ったんです。正田さんはいつも判子を持って
おられて、受け取り印をもらったらすぐにこっちは退散するんですが、
その短い間にも、正田さんは背後を気にしてるようなそぶりで。
いえ、正田さんは一人暮らしですし、ペットを飼ってるって話も
聞いたことはないです。あとね、これ言っていいのかなあ。
私が正田さん宅を担当してるってことで、会社から特別手当が出てるん
ですよ。それもかなりの額の。上司からは「どうしても必要な役目だから」
って言われてて、年に2回、会社の経費で〇〇神社のお祓いも受けてます。

無職 岸和田秀治さんの話
うちは、正田さんの家とは川をはさんで向かい側にあるんです。
ですから、土手に上がれば正田さん宅の裏の塀が見えます。
けど、小さい頃から親に「見るな」って言われてました。
正田さん本人は、同じ小学校だったから子どもの頃から知ってます。
もともとあそこには住んでなくて、正田さんが住むようになったのは
市役所を退職してからですね。前に住んでた人、やっぱり年配の
男性だったけど、その人が亡くなってから。詳しい事情はわかりませんが、
◯◯神社の氏子会議で決まったんだと思います。理由は、これは推測ですけど、
正田さんは、この地域に昔から住んでる家柄なのと、あと、奥さんを早くに
亡くされて、子どもさんは遠くに出てるからだと思います。あの家ねえ・・・
何かを守ってるんだというのは聞いてます。何かとても怖ろしいものを。

〇〇神社禰宜 大川道彦さんの話
あの家のことは、私は詳しいことは知らないんです。知ってるのは
当社の宮司と、あとは氏子代表の方々10名ほどで、その方たちは、
みなこの地域に古くから住んでおられる家の当主です。宮司からお話が
あって、「正田氏が亡くなって、御家守りの後継者が決まらない。
 当面は私が代わりを務めるしかないから、社の処務はよろしく頼むぞ」
そう言われまして、宮司は毎日あの家に泊まり込んでたんです。
まさかねえ、正田さんに続いてあんな亡くなり方をされるとは・・・
はい、正田さんと同じく門の前に倒れてました。死因は行政解剖で
心臓発作ってなったんですが・・・倒れてたときは宮司の正装束で、懐に
当社の御札が何枚も入ってました。あと、正田さんのときと違うのは、家の門が
開いてたってことです。何かが外へ出たということなのかもしれません。

冠婚葬祭会社勤務 西村峰太さんの話
この2週間ほどのことですが、僕が担当してる地区でたて続けに亡くなる人が
出てるんです。それもね、〇〇神社ってあって、そこから続く通りに
住んでいる人ばっかりが。まあ、どの方も亡くなって不思議はない
年配ではありますが、それにしても2週間で5人ですからねえ。
死因はどの方も同じで心臓関係。前日まで元気だったのに、次の朝起きて
こない。家人が見にいくと布団の中で冷たくなってるっていう。
でね、その方たちのご遺体ですけど、警察の医師が目を閉じさせてるんですが、
ご自宅で安置してても、会社の霊安室に運んでも、両目が開いちゃうんです。
普通ありえないです。しかも顔にすごい苦悶の表情が浮かんでて、
お直しするのが大変でした。一人の方なんか歯をむき出して噛み締めてて、
口の中からね、〇〇神社の御札が出てきたんですよ・・・

無題



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