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産土(うぶすな)の話

2019.12.31 (Tue)
では、話を始めさせていただきますが、怖いといった内容のものでは
ありません。・・・昨年、結婚が決まっていた方を亡くしたんです。
急な病気で、発見されてからわずか4ヶ月後でした。
それはショックで、後を追おうかとまで考えたんです。
周囲の方はみな心配してくださり、私は仕事を休んで実家に
戻っていました。それから数ヶ月たって、少しずつ外出できる
ようになり、神社巡りを始めました。はい、神社の境内に立ち入ると、
沈んでいた気持ちが、そのときだけ楽になるような気がしたんです。
近場から始め、県内の主な神社を車で回るようになりました。
それで、ある大きな神社に詣でた帰りのことです。車で、交通量の
少ない道を走っていると、わきの林の中に鳥居が見えました。

あ、こんなところにも神社がある。ここもお参りしていこう。
ほんの軽い気持ちだったんです。道端に車を停め、鳥居をくぐりました。
そのとき、参道がものすごく長く感じたんです。
はてしなくどこまでも続く玉砂利の道・・・でも、そんはずはなく、
十数m歩くと拝殿に出ました。扉は開いていて、火のついた
ロウソクが立ち並び、周囲はきれいに掃き清められていました。
ああ、小さいとこだけど、よくお世話されている。そのときに思いました。
中途半端な午後の時間だったせいか、私の他に参拝者はおらず、
いつもどおりにお賽銭を投げ、鈴を鳴らしてお参りをしました。
そのとき、ハッカのような匂いを感じたんです。
社殿の横に小さな社務所があり、窓はカーテンがしめられてて、

中に人がいるかどうかはわかりませんでした。窓から出ている
棚の上に、これも小さな、古びたおみくじの箱がありました。
機械式ではなく、木箱に手を入れて自分でひく形のものでした。
それまで、お参りしてもおみくじを引いたことはなかったんです。
吉とか凶とか、そういう言葉を見たくなかったんだと思います。
私の身に起きたことが、まさに大凶でしたから。でも、そのときだけは、
ふっと引いてみたい気持ちになったんです。お金をどうすればいいか
わからなかったので、百円玉をその箱に入れ、小さな穴から
手を差し込んで紙のくじを一枚引き出しました。すると、やや薄暗く
なっていた境内が急に明るくなった気がしたんです。あと、
さっきも感じた強いハッカの匂い。自分の手の中が光っていました。

私が引き出したのは5cm四方くらいの四角いもので、硬い質感があり、
驚いたことに表面で虹が渦をまいていたんです。あの、水面に
油を垂らすと虹色に光りますよね。あれがさらに鮮やかになった感じで、
小さなものなのに強い光を放っていました。何だろうこれ、
いったいどうすればいいのか、わからなかったので、
社務所の窓を叩きました。すると、少したって「は~い」という
若い女性の声が聞こえ、カーテンが開いて、まだ20歳前に見える
娘さんが窓を開けました。「どうしました?」
私が黙ってくじを差し出すと、虹の光が娘さんの顔を照らし、
娘さんは「あっ!」と大きな声を上げてから、「ちょっとお待ち下さい」
そう言って引っ込み、社務所の後ろから出てきました。

驚いたのは、中学生と思える制服を着ていたことです。
「あの、それね、産土様の招待券です。父から話は聞いてましたが、
 始めて見ました」娘さんは黒目がちの瞳を丸くして私の手のくじを見つめ、
それからスマホを出して「今、父に、あの、宮司に連絡いたしますから、
 少しお待ち下さい」私はせまい社務所に通され、丸イスに座らされました。
娘さんはスマホを切り、魔法瓶のお茶を出してくれたんです。
「これ、何ですか?」 「もうすぐ宮司がここに来て説明いたします」
10分もたたないうちに、やや装束が乱れた感じの神主さんがやってこられ、
やはり娘さんの父親のようでした。宮司さんは簡単に自己紹介し、
「いやあ、これを見たのは私が修行時代のことだから、もう20年も前です」
それから説明が始まりました。「これはね、産土神の当たりくじと言えば

 わかりやすいでしょうか。産土神はご存知ですか」 「すみません不勉強で」
「あのね、神道では、あらゆる生命、人間だけではなく動物や草木も、
 生きていることにおいて変わりはありません。そして、もし地上で
 亡くなったとしても、生命は消えてなくなるわけでもありません。
 もとは〇〇という名前の人間だった、もとは鹿だった、檜の木だった、
 そういう個性は失われてしまいますが、生命の素と言えばいいのか、
 それは一つに戻るんです。そして集合したものが産土の神。
 おわかりでしょうか」 こう言われたものの、そのときはまったく
理解できていませんでした。これに続けて、宮司さんは意外なことを
言われたんです。「今年の大晦日の日に時間をとれますでしょうか」
「ええ・・たぶん大丈夫だと思いますが」  「でしたらね、娘と、

 あ、いや、当社の巫女職といっしょに旅行していただけませんか。
 遠いところではありません。この県の一の宮の〇〇神社。すべて費用は
 こちらで出させていただきます」わけがわかりませんでした。ですが、
〇〇神社には前にもお参りしましたし、車で2時間程度の距離、日帰りで
戻ってこれます。「どういうことなんですか」 「いや、夜にかかるので
 一泊してもらわないといけません。すべて娘に話しておきますし、案内も娘に
 させます」ということで、大晦日の夕刻に、その神社の前で待ち合わせを
しました。驚いたことに、娘さんは前の中学校の制服ではなく、赤い袴の
巫女さんの姿をしていたんです。娘さんは照れた様子で「へへ、これ着たの
 今回で2回め」などと言いながら車に乗り、産土神の話をしてくれました。
「お父さんが言うには、虹色のくじは産土神を見ることができる切符みたいな

 もので、私はそこに案内するお役目なのです。くじは持ってきてますよね」
はい、くじは紙に包んでバッグに入れてありましたが、光は消えず、
ますます強くなっているように思えました。一の宮がある市に着き、
ホテルにチェックインしました。宮司さんが予約してくれていたところです。
娘さんは水筒を出してお茶を飲み始め、「眠っちゃいけないから」と言いました。
それから学校のことなどいろんな話をし、2人で午前5時過ぎにホテルを
出たんです。フロントに話は通じているようでした。歩いて一の宮の神社までは
10分程度、もう年が明けていて、早い時間の初詣客がかなりの数、
道を歩いてました。中には、巫女さん姿の娘さんをスマホで撮影する人までいて、
「すみません、やめてください!」娘さんが恥ずかしそうな声で制していました。
「お参りはしません。ものすごく混雑するので何時間もかかって

 夜が明けてしまいますから」娘さんはそう言い、社殿の杜を回る形で歩いて、
山裾に出ました。川にかかるそう大きくない橋があり、
そこに何十人かの人が集まっていたんです。神主さん、娘さんと同じような
巫女さん姿もちらほら見えました。「ああ、よかった。この場所で
 間違ってない。もうすぐ初日が昇るから、くじを出しておいてください」
そう言われ、バッグからくじを取り出すと、まわりにいる他の人たちも
それぞれにくじを出していました。「もうすぐです」やがて、
川の上流が明るくなり、でも、初日は山の陰になって見えませんでした。
そのかわりというか、手に持っていたくじの虹の光が増し、
それは他の人のものも同じようでした。ハッカの匂いがまた強くなり、
ふっ、という感触があって虹の光がくじから離れました。

他の人のも同じでした。光は橋の上空に昇り、いくつも集まって一つの
虹の柱になったんです。「あれは」 「産土神の一部です」
柱は回転しているようで、周囲に七色の光をふりまき、しばらく伸び縮み
していましたが、急に綱のように細く伸び、ものすごい速さで天に向かって
消えていったんです。「おおもとの産土様のところへお帰りになられました」
感動したような声で娘さんが言いました。その頃にはすっかり夜が明けていました。
橋の上に集まっていた人たちは、小声で何か話したり、あるいは押し黙って、
三々五々に散っていきました。その帰り道で「迷っていたんですが、父の跡をついで
 神職になる勉強をする気持ちが強くなりました。ありがとうございます」あらたまった
口調で娘さんが礼をしました。私は手の中に残っているくじを見ました。光は消え、
ただの和紙に戻ってました。開いてみると中に「四方平らか」と書かれていたんです。





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